よく言われることではあるが、歌は不思議だ。
否、歌というより人の記憶、もっと深く探ると潜在意識に蓄積された感情や感覚が、街を歩いている時や、どこかの店で、不意に流れ始めたあまりにも懐かしいフレーズやリフレインに触発されて、まるで昨日のことのように、目の前でその人と邂逅したかのように、鮮やかに蘇る。

若さは仮面。
もう何もかも遅すぎる。
今を今として受け止めて、今できることをし、今大切な人やこと、ものを抱きしめ、慈しみ、楽しんで生きていくしかない。

ふと考えてみると、あれからずっと会っていないあいつやあの子、当たり前だがもう誰もがいい歳になり、それなりの風貌になっているに違いない。

目に見えない精神や心の熟成度は、それぞれまちまちにたった一つの人生の花を咲かせているはずだ。

それは子供であったり、孫かもしれない。
あるいは夢やまだまだこれからの希望だろうか。

そんなことなどを、若かった頃に聴いていた歌によって思い起こされる。
たかが40年、されど40年、宇宙の時間から観たらほんの一瞬の出来事。
人の命の短さや時の儚さ。

すれ違った人や喪った人たちの数は増えていくばかり。
あの頃には出会わなかった、居なかったはずの、今となってはかけがえのない人たちに囲まれていることに驚き、人生の天変地異に今更ながら不思議に思う。

もうオンボロ車もなければ、テーブルの向こうで悲しく微笑む人の姿もない。

ただ、歌だけはそこに息づいたままに。
悲しくも切ない、喜び苦しみが醸し出した時空を抜け出た後の遥かな青い時空を見上げた。