長浜『中島屋食堂』琵琶湖の暮らしとともに125周年。琵琶鱒と地酒大湖

長浜『中島屋食堂』琵琶湖の暮らしとともに125周年。琵琶鱒と地酒大湖

2021年11月30日

滋賀県長浜市には、125周年を迎える骨董的な食堂があります。店の名は「中島屋食堂」。ひやしビールと滋賀の酒、そして琵琶湖の川魚でもてなしてくれる名店です。日中のみの営業ですが、訪ねる価値ある1軒です。

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琵琶湖湖畔の開発の中で

北国街道の宿場町・長浜。織田信長に仕えていた豊臣秀吉がこの地に築城した際、今浜から長浜に地名を変更しました。信長の「長」にあやかったといわています。

秀吉が開発する以前は、湖畔の穏やかな漁村でした。現代でも、長浜周辺は琵琶湖での漁業が行われており、琵琶鱒、鮎、モロコなどが水揚げされています。

(現在のJR長浜駅。駅舎や周辺施設の再開発が行われ、朝夕は関西圏への通勤客も行き交う。)

1882年になると官営鉄道(国鉄を経てJR北陸本線)の長浜駅が開業し、琵琶湖の水運と鉄路、そして長浜街道をつなぐ物流・交通の結節点としての役割を果たすようになります。1889年には新橋と長浜を結ぶ東海道本線が開通し、長浜は一層の発展をはじめます。

そんな時代に、長浜駅前に1軒の食堂が開店しました。

築70年以上、店そのものに資料的価値を感じる

「中島屋食堂」の創業は明治30年(1897年)。現在の建物は昭和27年に建て替えたものだといいますが、それでも大変年季が入っています。

築70年以上。店内にはそれ以前からの装飾品も多く、貴重な大正・昭和中期の面影を残す店として、映画などのロケに使われることもあるといいます。

創業時から、餅や琵琶湖の川魚、酒などを出す店だったそうです。店先に並ぶ看板類もレトロ。とくに「ひやしビール」という表記が時代を感じさせます。

現在店を守るのは三代目になる80代の女将さんと四代目の息子さん。タイムスリップしたような空間に、映画の俳優のようなお二人が加わり、現実ではないような錯覚すらおぼえます。

店は意外なほど奥に広く、昔の喫茶店のような板張りのベンチシートや、丸椅子、パイプ椅子など、長い歴史の中で備品もタイムカプセルのように蓄積されてきたことがわかります。

駅前食堂として、汽車や電車を利用する人たちや、産業に携わる人達が通い続けてきた店。飾られたアイテムひとつひとつが、長浜駅や中島屋食堂の歴史です。

昭和10年頃の「酒 さかな(酒菜=肴)めし すし」の看板や、復刻版ではない本物のキリンのポスターなどが所狭しと飾られています。さながら飲食店歴史ミュージアムです。

店奥にある、昔の汽車のボックス席のような小さな4人がけのテーブル席に腰掛け、まずは一本。熱処理ビールのキリンクラシックラガー(520円)がこれほど似合う店はそうはないでしょう。

それでは、乾杯。

品書き

お酒のメニュー

ビールは瓶ビールのみ。中瓶(520円)で、アサヒスーパードライキリンクラシックラガーサッポロラガーの3銘柄。いずれもビールをつくり続けて130年以上の老舗企業。店の歴史が長いので、老舗ビールメーカーと肩を揃えるくらいということに驚きます。

清酒は長浜市・冨田酒造「七本槍」(440円)、長浜市・佐藤酒造(旧:滋賀第一酒造)「大湖」(440円)、佐藤酒造「六瓢箪 吟醸酒」(470円)の三銘柄。お燗は10円加算されます。そのほか、焼酎は麦と芋があります。

おつまみメニュー

さば酢の物(550円)、お刺身ビワマス(650円)、地かまぼこ板わさ(320円)、地とうふ温やっこ(320円)、同冷奴(270円)、自家製あゆ姿煮(320円)、合鴨スモーク(380円)。※おつまみはお酒と一緒に注文を。

琵琶湖周辺といえば、日本海側とつながりが強く「すし」が根付いてきた地。こちらも、天然ビワマスにぎり(3個470円~)、さばにぎり(3個450円~)、いなり寿し(3個420円~)があります。

食堂メニュー

レトロな食堂といえば、やっぱりうどん、そば、そして丼ぶりものですね。レトロな店ですが、写真の品書きに記載の通り食材などにこだわり、工夫を続けていることがわかります。続く店には理由あり。

独特な伊吹薬草よもぎうどんは、お酒目的ではない人たちに人気の様子。

琵琶湖の幸を肴に幸せの食堂飲み

自家製あゆ姿煮(320円)

アタマも食べられますよ、と女将さん。小さな鮎がくるかと思えば、なかなか立派なものが登場。

甘く酒やみりんを効かせた味と、鮎特有の大人味の苦味が絶妙。ほろほろの身は染み具合がちょうどよく、脂の甘さや旨味がじんわりと滲み出てきます。そこにすかさず苦味のあるクラシックラガーを一口。

お刺身し(650円)

滋賀の郷土料理、ビワマス刺身。農林水産省のホームページによれば、天然ものは小糸網漁業と呼ばれる琵琶湖特有の漁法で漁獲するそうです。天然物は流通量はけして多いとは言えず「琵琶湖の宝石」と呼ばれています。

その味はというと、見た目の美しい朱色のわりに脂ののりがよく、上品な甘さとコクが余韻として続きます。

長浜の名店で、琵琶湖の肴を楽しむひととき。もう少し楽しむならば、次は寿しでしょう。

「大湖」お燗(450円)

その前に、ビールから日本酒へ。長浜のお酒が3銘柄。地元消費向けの銘柄というものはだいたいアタリですが、「大湖」(440円)もなかなかいいお酒です。

さばにぎり(3個450円)

しばらくすると、女将さんがそっと運んできてくれました。80代でもとても元気で、女優さんのようにキレイにされています。

運ばれてきたさばにぎりも美しいです。地元のお米でつくる酢飯は、甘さ控えめでお酒と寄り添う味付け。さばは若狭のものではなく、遠く八戸からのものを使用しているそう。〆具合は浅めでねっとりとした旨さが舌をつつみます。

駅前にありしかも景勝地でもある長浜で、中島屋食堂は観光地価格にはせず、偉ぶらず丁寧な仕事をしています。そして今も、女将さんと息子さんは時代に合わせて磨き続けています。永く親しまれてきた理由がわかります。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名中島屋食堂
住所滋賀県長浜市北船町3-3
営業時間11:30〜夕方まで
※15時でおしまいになることも。念の為電話をすることをおすすめします。(不定休)
開業年1897年