ロイヤルホスト | 硝子の月 ― 11月の夜想曲 ―

硝子の月 ― 11月の夜想曲 ―

星屑のリズムにのせた 眠れぬ夜空に奏でる想い

ひとが良さそうに見えるからなのだろうか
財布をなくしてしまったから
交通費を貸して欲しい と言われたことが
実際に何度もある

返ってこないだろうなと思いながら
渡した小銭は 返ってきた試しがない

 


あるとき 声をかけられた
顔の半分に刺青を入れた女性が
やっと見つけたで あんた どないしとった?
と そう訊く

え・・  何の話ですか? と

思わず 同じイントネーションで訊き返すと
いきなり ぶたれた
しかも 涙目で

まあまあと 何かの詐欺かもと思いながらも
近くにあったロイヤルホストに入る
なんでも一緒に死のうとかではなく
一緒に 身体を捨てて

情報そのものになろうと約束した
そんな仲なのだそうだ
もちろん 僕にはそんな記憶はまったくなく
考えたこともなかったけれど

そんな話を聞くと そんな気もしてくるから
なんだか不思議な気持ちになってくる
テーブルの上のコーヒーは
すっかり冷めてしまっている

 


本当であれば コーヒー代の小銭を残して
帰りたいところだが
左目がぐるんと回り変なプログラムが作動する
赤い文字列が 目の前を走っていって

 

僕が 再起動すると
そこは ロイヤルホストではなくなっていて
道端に立っていて で 交通費を貸して欲しい
そう 見知らぬ老人に 声をかけられている

 

遠くで 顔に刺青を入れた女性  ではなく

美しい刺青が フラクタルな表情で 僕に微笑む