「ネットでもうもてはやされてまっせ」
「何がや?」
「いや、綾小路紫紀さんと原小夜子さん、パリで挙式、て」
携帯を見ながらかつ丼をがっつく佐久間の言葉に、さすがに千雪も驚いた。
「もうそんな記事でてんのんか?」
「テレビのワイドショーでもパリ特派員とかがここぞとばかりにレポートしてまんがな」
「テレビでも? 呆れるわ。民間人やで?」
「いやいや、紫紀さんは財界の貴公子やし、美男美女カップルでもてはやされてますわ」
マスコミのハイエナ根性には呆れる以外にない。
「あれ、先輩、パリ行かはったんやな? なんや、小夜子さんの従弟にあたる推理小説家小林千雪氏は欠席とかになってまっせ?」
「はあ?」
千雪はつい佐久間から携帯を取り上げて画面に見入る。
「アホか。ここにおるがな。京助の横、小夜ねえの後ろ」
「あ、ほんまや」
画像を拡大して佐久間に戻すと、佐久間は頷いた。
「あああ、先輩、そら、俺の前の名探偵作家をみんな探しよるから、いてないんもあたりまえや」
千雪はフンと鼻で笑う。
「ほんまにアホばっかや。マスコミ連中」
吐き捨てるように言う千雪に、「半分は先輩のせいやないですか」と佐久間が反論する。
「勝手にマスコミが映しよるだけや」
その時、佐久間の携帯からレポーターの声が聞こえた。
「次はやはり、今やイケメンモテ男の代表ともいえる、綾小路京助氏を射止めるのはどんなレディなのかに焦点が集まりそうです」
マスコミがまた勝手なことを言っている、といえばそれまでだが、次は京助だ、とは京助の家族だけでなく親戚連中も同じように考えているのは間違いないだろう。
紫紀たちの婚約パーティでも列席した客の間からも当然のようにそんなような話が出ていた。
人一人生きていくだけでも、何と面倒なことか。
紫紀や京助のような素性の知れている人々には特に周りが放っておいてくれない。
パリでの結婚式さえ、すぐに広まってしまうほどだ、京助などの場合、人と違うことをすればスキャンダルにさえなってしまう。
先進国とは名ばかりのこの日本にあっては、何かあればすぐに人間関係や仕事にすら影響が出る。
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