「何か、みんな率先して自分でブラックみたいなことになってますもんね」
どうやらアスカの話の通り、良太は本気で引っ越しを考えていたらしいと、秋山は少し眉を顰める。
「工藤さんは、いつ戻るって?」
秋山に聞かれて良太はちょっと言葉に詰まった。
「えっと、今日は高雄の撮影だから明日じゃないですか? 早くても」
「明日早朝ロケだったよな。本谷くん、少しずつ良くなってきてるんだが、工藤さんも気にしているみたいだし、案外早く帰ってくるかもな」
わざと口にして秋山は良太の反応をみたのだが、案の定、良太は自分では気づかないまま、つらそうな顔をした。
ああ、これは。
全く、工藤さんも良太も意思の疎通ができてないらしい。
本谷は仕事上、今、結構重要なポジションにいるから、良太もそれを考慮しているってこともあるんだろうけど、やはり思い込んで意固地になってるんだろう。
工藤さんもほんと、いざとならないとモノを言わない人だから誤解もされるんだ。
秋山はそんなことを考えながら、どうしたものかと良太を見つめた。
その時、良太の携帯が鳴った。
秋山は良太から離れたが、「宇都宮さん」という良太の声に、振り返った。
「あ、え? 食事ですか? はい、大丈夫ですけど」
宇都宮は思ったより時間が空いたから、食事をしてから飲みに行こうと言う。
「どこか、知らない? その近辺でよさそうなところ」
良太は西麻布で宇都宮を連れて行けるような店と考えて、以前、工藤が連れて行ってくれた割烹料理の『麻布住吉』を思い出した。
「へえ、何か渋い店知ってるね、じゃ、そこにしよう。何時にしようか?」
「七時くらいなら。じゃあ、ラインにその店の情報送りますね」
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