遂に2014年度冬季五輪がソチで開幕!フィギュア・スケートのオタを自負する私にとっては、映画に集中できるような心境ではなくなりつつある。とは言え、開幕したからと言って一番応援している浅田真央選手がすぐに登場するわけでもなく、待っている間は何もしないでいると一層落ち着かない。ので、応援する側としても気分が高まる五輪を題材とした映画を観ながらここ数日の夜は過ごしていた。長い映画の歴史の中で、著名なドキュメンタリーはそこそこあるものの、五輪をドラマ化した物語映画は実は意外と少ない。映画を通して物語として語り継がれるべき伝説的なドラマの数々が、これまでにいくらでも五輪で誕生してきただろうに ―― 五輪会場のセットの再現が難しかったり、大会会場の観衆の数だけエキストラを揃えるのが手間…と言った事情もあるのだろうか?客席の過半数を人形で埋め尽くして、バレないように五輪の会場を模した映画もあるらしいので、本当に意外とそうした単純な部分がキツイということでボツになっている五輪ドラマ映画企画は多いのかもしれない。しかも、ほとんどの五輪ドラマ映画がアメリカ産であり、やはり五輪を描く上ではそれなりの予算が当然必要だということが窺がえる。そして残念ながら、映画として突出した優秀な五輪ドラマ作品と私は出会ったことがない。まぁ、『クール・ランニング』(原題:"Cool Runnings"93年米)は可愛くて最後は泣けちゃったりもしたが… 

playerとは言え、カメラワークや編集が今一つでも、演出や台詞た多少ベタでも、充分ゴォーッ!と燃え上がれる五輪ドラマ映画は確かに存在する。五輪で起こった歴史に残るバトルを描いた実話に基づく作品は、内容が現実で展開していた際にリアルタイムで観戦していた方々同様に、観る者に手に汗握らせて主人公らを応援させてくれる。大概の場合は勝負の結果は観る前から分かっているのに不思議と言えば不思議だ。そのような気分になれる一つの大きな要因は、本物の五輪では試合や大会のみを観るわけだが、映画では選手らがそこに至るまでに積み重ねてきた努力、払ってきた犠牲、味わってきた精神的葛藤等をも観られるという点だろう。五輪を目指すアスリート達にとっては、開会式より遥か以前から闘いは始まっているのだ。ほとんどの選手は何年もの月日をかけて、オリピアンを目指す…のだが、今回ご紹介する映画『ミラクル』(原題:"Miracle"04米)の主役である米代表五輪アイスホッケーのチームはたったの約7ヵ月弱しか五輪までに準備期間がなかった。1979年、ミネソタ大学でアイスホッケー・コーチを務めていたハーブ・ブルックスは米アイスホッケー協会委員の面々に、弱体化してしまっていた米アイスホッケーが翌年に自国で開催されるレークプラシッド・オリンピックで好成績を残すためには、選手選びから闘い方まで全てを一新する必要があると説いていた。プロのオールスター・チームのような人選の仕方では、選手は個人プレーに陥りがちなので、メンバー同士に相性に重点を置き、選手各自がそれぞれの能力をチームとして発揮できるようにするべきだと彼は言う。結果として五輪米代表チームの責任者に選ばれたブルックスは、一週間かけてじっくりと選手を選ぶべく協会がトライアウトのために米各地からアイスホッケー歴のある若者を大勢参加させたにも関わらず、軽く一日だけ実技を眺めて即座に26名の選手を代表チーム候補者として選んでしまった。協会はこのやり方に難色を示すが、ブルックスはあらかじめこの26人のビデオや会場で繰り返し観てはプレーの傾向や性格までをも分析していたのだ。それでも26人は飽くまで候補。6人はメイン・メンバーは控えに過ぎず、以降の練習について行けない者は無情にもその一人として切り捨てられて行くのだ。そうしたプレッシャーを感じさせながら各プレイヤーの本気を導き出すことが、ブルックスの当初からの狙いであり、いつ除名されてもおかしくない苛酷な軍隊さながらの訓練が展開されて行く。

寄せ集めの選手らが一丸となるには、そこそこ時間がかかった。彼らはもともとはライバル同士の大学チームのメンバーだった上、ホッケーはラフ・プレーが当たり前の競技なので対戦相手とのしこりが残りやすい。練習が開始してから間もなく過去の因縁がもとで二人の選手が殴り合いの喧嘩をしてしまうが、ブルックスは止めずに一段落するまで待ち、「こいつらがしていたことがホッケーに見えたか?」と一言。ブルックスはこのように選手らに恥をかかせることも厭わない。罵声を浴びせられながら、ひたすら体力作りも含めた熾烈な練習は続き、戦略やフォーメーションについてブルックスが詳細な説明をしても、彼の言葉を理解する余力すら選手らには残っていなかった。そんな中、この米代表(予定)チームはオスロでノルウェー・チームとのエキジビション試合を行う。結果は3-3の引き分け。そんなに悪い結果ではないとメンバーらが安堵してリンクから上がろうとした時、ブルックスは彼らに氷上に残れと命令した。彼は憤慨していたのだ。この程度の結果で満足してしまうだけでなく、ベンチにいる時は客席にいる女性ばかりに浮かれていた自身が育てたチームに。ブルックスはショートサイドに一列に彼らを並ばせて、帰り際の観客が奇異の眼差しで見つめる中、管理人が会場の照明を落としてしまった後までもなお、全速力でリンクを端から端まで何度も走らせた。「才能だけで勝てると思ったか?それだけで勝てるほどの才能はお前らにはない!」、「考え方を改めろ(…)ユニフォームの前に記してある名前の方が後ろに書かれているものより余程重要なんだ!」、「勝とうが負けようが引き分けになろうが、チャンピオンのように闘え!」等々と、ブルックスが怒鳴り続ける中、選手らは立っていられないほどにまで走らされる破目に。チームが自分達を確と全米代表だと認識したことを実感するまで、ブルックスは彼らを走らせ続けた… 


その日から選手達の練習に対する真剣さは本物へと変わる。過去連続4度も五輪金に輝き、42戦42勝という世界一の強豪であるソ連チームの試合の記録フィルムを上映し、ブルックスは彼らが自分達が勝つと知りつつ試合に臨んでおり、対戦チームも同様に彼らが勝つだろうと感じて闘ってしまっている点を指摘した。前回の五輪で米チームはチェコの二軍チームにボロ負けするという情けない結果を残し、プロの全米オールスター・チームでさえソ連チームに大敗してばかりで、必然的にさほど知名度もない青年達が中心の米代表(予定)チームをレークプラシッド五輪のメダル候補に挙げる者は国内にもいない。そうした事実を淡々と述べ、それでもソ連チームを倒して優勝する方法はあるとブルックスは言う。ソ連チームが攻めてきたら、守りに入らず何倍もの力で攻め返すことができるチームは必ず勝てると。ここでのブルックスの言葉は選手らに暗示をかける効果もあったと思われる。その後も練習中、練習試合中、試合前、試合後と、ブルックスは何度も同じようなことを映画で挿入されている回数以上に選手らに語っていただろう。この作品の中には当時のカーター大統領の演説が流れるシークエンスがあり、「我々は常に前進を信じ、自分の子供達の時代が自分達のそれよりも豊かなものになるだろうとの信念があったが、我々はその信念を失いかけている(…)我々は米軍が常に無敵で戦う理由はいつでも正義に則ったものだと教えられ、ベトナム戦争の苦しみを被ることとなった。我々は大統領職を誉れある地位として尊敬していたが、それもウォーターゲート事件のショックまでだった」と、その頃のアメリカが経済面のみならず、元来の自分達のアイデンティティーを徐々に失いかけていた様相が見えてくる。この映画はそうした時代背景を反映するかのように、負け犬根性が染みついてしまっていたアイスホッケー・プレイヤーらが、世界中の誰からも注目されない中、中途半端に残っていた傲慢さを粉々に砕かれ、ゼロから慢心とは異なる自信と誇りを勝ち得て行く物語(舞台背景の状況を絡めたこのテーマの表現法は、実はかのスポーツ・コメディー映画の金字塔とも称すべき『スラップ・ショット』とよく似ている)。カーターは‘共通の信念をもって共に乗り越えて行かねば’、現在の苦境は打開できないというような表現で前述の演説を締めくくり、それこそがブルックスが求めていたチームのあるべき姿だったのだろう。彼が行っていたスパルタ式のコーチングは、選手が無暗に身体を痛めるだけではないかという印象を受ける場合もあったが、そうした特訓は身体を鍛えるよりも、これだけのことを自分はやり抜いたという自信を選手達につけさせるためだったはずだ。共に耐えた仲間とは戦友的な絆も深まり、同時に自分と同じく折れずに頑張ってこられた仲間だからこそ信頼して互いにパックをパスし合えるのではないか。個々のスタンド・プレーでは必ず負けると訴えていたブルックスなのだから、個人の自信だけでなく、チームメイトへの信頼をも選手達にしっかり叩き込みたかったに違いない。題名からも既に予想される通りのエンディングをこの作品は迎えるが、レークプラシッド五輪で対ソ連チーム戦に控え室を出てリンクに向かって行くまでの選手達がとても格好いい。BGMは軍隊の行進曲を彷彿とさせるもので、恐れをなさずに誇り高く戦地へと赴く兵士のように彼らの姿は観る者の眼に映るだろう。かなりアメリカ人観客好みの要素が多く、アイス・ホッケーが日本では極めてマイナーな競技だという理由からか、この作品は日本での公開は見送られてしまったのが残念だ。大概の五輪ドラマ映画の類に漏れず芸術的観点からもほぼ見所の無い映画だが、スポ根モノ物語文化が根付き、体育や部活等でも少しキツ過ぎるくらいの練習がちょっぴり好きという、マゾな日本人にも充分共感できて盛り上がれる佳作だ。

作品関連情報リンク集:WikipediaWalt Disney Studios JapanYahoo映画

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『ミラクル』予告