『エンパイア・オブ・ライト』 | First Chance to See...

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 1980年代初頭のイギリス。映画館が「劇場」と呼ばれるにふさわしい場所だった最後の時代に、海辺の町の美しい映画館で働く人々の姿を描く。こんな内容で、監督がサム・メンデス、主演がオリヴィア・コールマンと言われた日には、そりゃ映画館で観るしかないというものでしょ。

 

 

 『エンパイア・オブ・ライト』の冒頭で、私たち観客に紹介される映画館は本当に美しい。昭和生まれの私は、かろうじてこの種の豪華な映画館に足を運ぶ高揚感とともに、座席指定じゃなくて座席に背もたれがないことの不便さを知っているけれど、生まれた時からネットで予約が当たり前のシネコンしか知らないイマドキの若い人たちにはピンとこないんじゃないだろうか。

 

 映写室では、技師が缶に入ったフィルムを大がかりな映写装置に取り付け、リールの切り替えもすべて手作業で行われる。映写技師役のトビー・ジョーンズが情感を込めて語るこのような職人技も、デジタル上映が一般化した今ではすっかり廃れてしまったことだろう。

 

 ではこの映画がかつての映画館や映画文化への郷愁に満ちたものになっているかというと、実際のところそうでもない。というのも、オリヴィア・コールマン扮する接客マネージャーのヒラリーにしても、ヒラリーと一緒に働く同僚たちにしても、映画や映画館が好きだからここで働いているのではなく、あくまで給金を得るためにすぎないからだ。もちろん、仕事をする上ではそれで何の問題もない(経営者でもないのに過剰な思い入れを抱くほうがむしろトラブルの元という気もする)が、ただ『エンパイア・オブ・ライト』という映画がたびたび思い入れたっぷりに「映画館」を映し出すだけに、登場人物たちの思い入れと映像の思い入れとのギャップに、私はイマイチ納得できずにいる。

 

 とは言え、実際に映画を観ている最中は、オリヴィア・コールマンの圧巻の説得力に押されて、「ギャップ」を感じている暇はない。毎度のこととは言いながら、出てくるだけでありとあらゆるすべてを「納得」させてしまうオリヴィア・コールマンが素晴らしすぎて、この映画、絶対オリヴィア・コールマンのおかげでいろいろ救われている——というか、いろいろごまかされている気がする(鳩が舞い込むほど屋根だか窓だかが壊れたまま放置された建物って危険すぎない? 内装より雨漏り対策のほうが先なんじゃないの??)。