うーん、本書、知的に非常に面白い本でした!
テーマは、私たちの体や精神に人為的に手を加えて目的を達成することが、倫理的に許されるか!?です。

美容整形
ドーピング
身体のサイボーグ化
スマートドラッグ
性別移行
遺伝子操作

などの面で倫理的に許されるかどうか、肯定と否定、両方の主張が列挙されていて、皆さんの「論理的思考能力」「知識」の向上に最適の書になっています。

通常、倫理学というと、難解な用語も多いのですが、本書は平易になっていました。

ドーピングはわかりますね。

サイボーグ化とは、従来の義手、義肢、心臓のペースメーカー以外に、ブレイン・マシン・インターフェース(以下BCI)を使って能力を向上させることも含め、障害ではないのに、何らかの人工化、機械化を図ることです。

スマートドラッグは、認知能力を向上させる、平たく言えば知能を上げます。その他、気分や感情を変えることも含めていました。

性別移行は、最近、俄(にわか)に注目されてきた、トランスジェンダーについてでした。

本書の視点は、当事者、自分ならどうするか、周囲の人の視点、社会の視点の三つであり、この点から肯定・否定の主張を展開していました。

最初のテーマは、「美容整形」ですが、問いとして、自分の家族がやってみたいと言い出したらどう思う?とあります。

美容整形、形成外科とも言いますが、淵源(えんげん)は第一次世界大戦です。英米での負傷兵の顔の再建手術でした。それが民間に転用されることで形成外科となりました。

ただ、厳密に言うと、第一次世界大戦以前にも、鼻にパラフィンを注射する隆鼻術(りゅうびじゅつ)、鼻を高くする術があり、女優の松井須磨子(まついすまこ)が受けていました。

この人、島村抱月(ほうげつ)のパートナーで、日本初の国際派女優とも言われましたが、スキャンダラスな女優としても第一号とされています。島村の死後に自殺しています。

このパラフィンでの隆鼻術、融(と)けたり、すぐ曲がったりの他、体にも害が多いものでした。

1950年代、既に二重まぶた、豊胸手術が日本でも紹介されています。

欧米だと、鼻を小さくする(低くするとは表現しません)、胸を小さくするする方が多いです。ブラジルだと圧倒的にヒップを巨大化するのがポピュラーでした。

今の日本は二重まぶたが多く、次は顔のたるみを取るフェイスリフト、鼻の形成です。多いですよね、芸能人を見てもわかります。

美容整形をする理由の第一は「他者からの評価を得るため」で、キレイと思われたいのと、ブサイクと思われたくないという事情があります。

ルックスによって人の価値を決めるような考え方を「ルッキズム」といって、批判の対象になっています。

この他にも、「自分が心地よくあるため」「自己満足が最重要」という理由もありました。

反対派は、

美容整形は虚栄心の表れ
倫理に反している
無知で軽薄
金のない人に対して不公平
整形は人間性の侵害

という主張です。

うーん、論理的ではなく感情論ですね。

賛成派は、

より善(よ)いものを手に入れる処置なので許される
使い方によるので美容整形そのものが悪いわけではない
ジェンダーから人を解放しうる

など主張していました。

反対派はさらに、身体や行為は個人的なものではなく社会的なものとしていますが、消費社会が作り出すモノに心を奪われ、欲望を刺激され、背後の美容業界、製薬会社に利用されていると述べています。

賛成・反対の論旨のみ書いているのですが、全文や詳細な理由を是非本書で読んで欲しいです。

これは皆さんの論理的思考力やディベート能力を向上させてくれます。何より、知的に面白いのです!

整形は画一化をもたらす、いや、多様性をもたらす、の応酬もありますが、韓国は完全に画一化です。美人コンテストの決勝進出者の十数人が同じ顔です。以前、韓国の美人コンテストの光景を雑誌のグラビアで見ましたが、見事に同じ顔で驚きました!

ドーピングとは、基本的に禁止された薬物摂取によるものですが、筋肉増強のステロイド、興奮剤、自己血液の補充というのもあります。目的は身体能力の向上により、スポーツの成果を上げることですが、国際ルールでは禁止となっています。

これについても、本書では、いくつもの賛否が述べられていました。

健康被害か
むしろ解禁した方が安全だ
身体を道具として粗末に扱っている
いや、身体をどれだけ見事に使うかこそスポーツだ
不公平だ
いや、これこそ公平にできる

などなど、皆さんも一緒に論じてみて下さい!

スポーツの目的には、勝利・楽しみ・成長の三つがありますが、ドーピングは成長という要素を損(そこな)うのではと主張しています。

身体の機械化では、従来の医療用の他に、ブレイン・マシン・インターフェイスといって、脳内に細工をすることで人の能力を向上させる、情動をコントロールすることが可能になりつつあります。

補助型は、うまく働いていない部分を補うため、拡張型は、もともと有していない力を追加するために装着するものです。

機械化はアイデンティティの揺(ゆ)らぎをもたらす
いや、柔軟に対応できる
格差を広げて不平等な社会をもたらす
いや、普及すれば格差を是正する

の他、

機械化を延長することで人は不死を手に入れる、その時はどうする?という設問もありました。

これにつき、

不死は悪い
いや、死こそ悪いのだ

と両論がありますが、皆さんは、どう考えるでしょうか?

その人自身の肉体のまま不死になることはあり得ないでしょうが、脳、つまり、その人の知力や記憶をAI・人工知能化し、体もマシンにしてしまえば、人格としての不死は可能になるかもしれません。

私は、そうまでして生きるなんて御免です。時に限りがある中で、「時間は命」と無駄にせず、懸命に生き、死んでこその人生と考えているからです。

性の不一致問題では、本書にさまざまな主張がなされていますが、昨今のニュースの中で私が懸念(けねん)したのは、

①男から女になった、あるいは、外見そのままでも女であると主張したスポーツ選手の女子の試合への移行
②同じく男から女、または外見そのままでの女であると「自認」している人の女子トイレ、女子更衣室、入浴場の女性用使用を認めろ!

の主張です。

①は不公平でしかありません。基本的に筋力を決めるホルモンのテストステロン値が男と女では、あまりにも違いすぎます。

②は、女性の立場から、性犯罪や恥ずかしさの点で問題です。既にアメリカをはじめ各国で、この手の「女」による女性へのレイプ、性犯罪、盗撮など多発しています。

考えてみて下さい。女性が一人で利用している時、そこにそのような人が入ってきて、襲うことを。何万人に1人の比率であろうと、襲われるかどうか、被害に遭うかどうかの個別の確率は二分の一、50%なのです!

少ない例を一般化するなと言いますが、たとえ0.1%でも初めから犯罪の可能性があることを強(し)いるのは誤りです。

日本の省庁でも、この手の人が女子トイレを使わせろと訴訟にしていますが、ここ、男から女になった人、勘違いしないで、女性の立場になって考えなくてはなりません。

女性の皆さん、実際に想像してみると怖いでしょう。

女性用を使わせろと主張している連中は、自分のことばかりで相手の心情は考えていません。ただの自己主張ということに気付け!です。

性同一という件での法律では、本人の単なる「自認」でも、認めねばという解釈ができる文言も想定されていました。

私はトランスジェンダーにつき、何かと言えば日本は遅れている、認めないと批判する連中に、そういう国、社会で生活するという覚悟や割り切り「も」必要と考えています。

社会の思考が変わるには時間がかかるものもあり、自分たちだけが正義だと言わんばかりの、この手の人たちの自己主張は鼻に付きます。

互いに相手のことを配慮するということ、覚えて欲しいです。

本書、一読を!


今回の本は
美容格差時代 進化する美容医療、その光と影 (ディスカヴァー携書)
大竹 奉一
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-08-11



スポーツ倫理
近藤良享
不昧堂出版
2019-05-01



Beyond Human 超人類の時代へ 今、医療テクノロジーの最先端で
イブ・ヘロルド
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-10




です。


『妄言、言うな、恩を忘れるな、陰日向(かげひなた)なく働け』(南条文雄 仏教学者)


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