お口の中の様子、疾病、とくに歯周病の成因やその病態説明をする際に必ず用いられる専門的な言葉に『歯周組織』があります。
我々には極めて基礎的な用語であるものの、 患者さんにとっては専門的な言葉。
会話の中でも、つい説明なしに使ってしまいます。

これより、この『歯周組織』について説明を加えたいと思います。

歯周組織とは

文字通り、
「歯周組織とは、歯の周りを取り囲む部分で、歯の機能を健全に保つために支持している組織」
のことをいいます。
英語では、Periodontium、periodontal tissueで示され、periはギリシャ語で”周囲”を意味し、”odont-“は歯を指し、歯の周囲の組織とされます。

歯周組織は、
(1)歯肉、(2)歯槽骨、(3)歯根膜および (4)セメント質
より構成されます(下図、赤枠部分)。

以下、これらについてその概略を説明していきます。

歯肉

歯肉はいゆわる”歯ぐき”のことで、歯の周囲、歯の根の部分を支える歯槽骨(下記)を覆う柔らかい組織です。

歯の周囲を外側から観察すると、歯の頭(歯冠部)から下の頸に近いところ(歯頚部)付近で、可動する部分を遊離(ゆうり)歯肉、それより下方、指でさわっても動くことのない部分を付着(ふちゃく)歯肉に分けられます。

この歯肉を顕微鏡で見ると、概ね2つの組織に構成されています。

①歯肉上皮…いわゆる歯周組織の防御バリアとなる部分。上述、遊離歯肉および付着歯肉は角化重層扁平上皮でつくられ、組織学的に4つの細胞層により構成されています。表層の角質層は10−30日のサイクルでターンオーバーしています。

②歯肉結合組織…上皮の下層部分で、健康的な結合組織の場合、約2/3がコラーゲンで作られ繊維の束として存在しています。残りの1/3には、血管、神経、基質(糖タンパク質、プロテオグリカン等)が存在しています。この結合組織中の繊維の束はいくつかの異なる方向に走行していて、束の単位をれを繊維束と呼んでいます。これらには、歯ー歯肉線維(セメント歯肉線維)、歯ー骨膜線維(セメント骨膜線維)、歯槽骨歯肉線維、歯間水平線維、輪状線維、歯間乳頭線維、輪走線維、半輪状線維、移行歯肉線維、歯肉間線維がある。
セメント歯肉線維、セメント骨膜線維、歯槽骨歯肉線維はそれぞれの名称組織をつなげています。

歯槽骨

上下の顎となる骨(上顎骨、下顎骨)の骨体部より突出した歯を埋める部分(下図。歯槽骨(歯槽突起)とも呼ばれる)です。


歯が骨に植わっている状態は、釘が板に打ち付けられているのに似ていることから「釘植(ていしょく)」と呼ばれる付着結合を示します。ちなみに歯槽の”槽”は、浴槽での意味と同様、歯を入れる”おけ”を指します。
歯槽骨は、組織的に”固有歯槽骨と”支持歯槽骨”とに分けられ、歯が埋められる面に接する骨の部分が固有歯槽骨です。



歯槽骨が特異なところは、歯がなくなると,その部分の歯槽骨も次第に吸収され消失する点で、解剖学的に独立した骨体ではありません。

歯根膜

ヒトや他の哺乳類では、歯と歯槽骨とは直接的に付着しているわけではありません(インプラントとの大きな違い)。歯根膜と呼ばれる特別な結合組織により、セメント質と歯槽骨をつないでいます。その厚さ・距離はおよそ0.15〜0.4㎜ほどで、歯を歯槽骨に固定させていることに加え、歯に加わった力からクッション効果で緩衝させて骨を保護しています。
歯はセメント質と歯槽骨との間で歯根膜中のコラーゲン繊維の束により固定されており、この繊維の束を歯根膜繊維といいます。


歯根膜繊維の中でも歯槽骨とセメント質表面に入り込む繊維のことをシャーピー線維と呼びます。
歯根膜の主要な成分で、 ①歯槽骨と歯根膜主線維、②歯根膜主線維とセメント質という2種類で構成され、”セメント質ー歯根膜ー歯槽骨 複合体”という連続した組織として存在しています。
歯根膜には血管やリンパ管も走行していて、栄養分の運搬や代謝による老廃物の除去も行っています。この血管に併走する形で神経線維や自由神経終末(痛みを認識する)が存在しています。

セメント質

(4)セメント質はヒトや他の哺乳類における歯根部分における象牙質は、セメント質と呼ばれる薄い石灰化した層により覆われています。その厚さは、50−200μm(1μmは、0.001㎜)で、生涯を通じてセメント質は形成されます。


セメント質は、エナメル質や象牙質に比べると軟らかく、無機質の含有量は約65%です。セメント質を構成する有機質のほぼ90%はコラーゲンです。
セメント質の表層は、若くて活性が高いのですが、深部ではその活性が低くなっています。この活性が低いセメント質ではシャーピー繊維による強固な線維性付着を得ることが難しいとされます。そのため、持続的に添加が起こることにより生活力の高い新しい層が線維の付着を維持しているといわれています。

参考文献
ビョルン・クリンゲ/アンダース・グスタフソン (著), 西 真紀子 (翻訳) : スウェーデンのすべての歯科医師・歯科衛生士が学ぶトータルペリオドントロジー., オーラルケア.東京, 2017.