唐突ですが、あなたは”荷重移動”を使いこなしてますか?
僕はまだ半分程度しか使えてないかな?って思います。
って言うのも僕自身 本当の意味でその重要さに気が付いたのはここ5年程だし、僕が知る限り先輩方や雑誌等でコレについて詳しく教えてくれるものがほとんどなかったからです。
これがハイスピード系の競技車両などだと、最近はマンガなどでも詳しく解説されてたりする。
が、四駆のクロカンの世界ではそういった技術面での進化や情報の共有化も極めて遅れているのが現状だ。
話は全く変わりますが、歴代のランクルで最もジムニーの走りに近いモデルって何かご存知ですか?
これに関してはご存知の方は異論がないと思いますが、これは間違いなくPZJ70です。
つまり直5の3.5リッターノンターボディーゼルを積み乗用車用ミッションを積んだアレです(笑)。
最近のジムニーは超低速でクローリング可能なギアなどが出てきてますし、サスも優秀なものが出てきているので一概にジムニー走りを一括りに出来なくなってきましたが、
僕がイメージしている一般的なジムニー走りは、割と高めのギア比、サスストロークに頼らずピョンピョンと跳ねながら走るイメージです。
僕がまだトライアルに出ていた頃はジムニーもまだデフロック車はほとんどいなく、同じクラスでジムニーとランクルが戦っていましたが、こちらはリアデフロックを入れっぱなしで振り回すような(今ではちょっと考えられないような過激な)走り方をしてました。
デフロックのないジムニーは当然、有る程度の勢いを利用し、荷重移動を駆使しながら走らねば全然といっていいほど走れませんし、かたやP幌勢もよく回るエンジンと高いギア比、リアデフロックを使って障害物を飛び越えていくような走りを得意としていました。
まぁ観る側からしてみればなんともスピーディというかダイナミックで見応えがあった時代じゃないかと思います。
トライアルに出るようになってまず覚えたのは垂直の壁を登る際などに使う荷重移動。
勢いをつけて障害物に当てる直前に強目にブレーキングをしてフロントに荷重を移し、反動で荷重がリアに移るタイミングでフロントタイヤを障害物に当て、真上にクルマを飛ばす技術です。
今はどうか知りませんが当時上級クラスに出て勝っていた人は間違いなくこの技を使いこなしてましたね。
上手くいくと2mほどの垂直近い壁を登り切ってしまうのですから凄いですよね。
同じようなことを当然自分のクルマでも練習するのですが、ランクルの車重でやるとフロントタイヤが度々パンクしました(汗
実際、そのような走り方を辞めたのはそれから10年後くらいでしたが、「荷重移動ってのが走りにおいて極めて重要」ってことを教えてくれたキッカケにはなったと思います。
実はそこから10年くらいの間、「荷重移動」にはそれほど注意を払わずクロカンしていました。
その間もっぱらなにをしてたかと言うと、クルマを横方向へ傾ける走り(キャンバー戦)や、ウインチやチルやハイリを使った「引っ張り系」の遊び方、またエンジンを極力粘らせて基本オープンデフでのクローリング でしたね。
これらはそれぞれ難しいし、極めるのも困難な技ですよ。
特にキャンバーは今でも本当に怖い。
本気で100%の走りなんてもう無理ですね。
今では20%くらいの余力を残した所しか攻めませんから。
これらだけでも十分、極め甲斐があるというか、奥の深い技ではあるのだが、ある日、いつもの練習を広場でしているときにふと気が付いた。
なにをしてたかと言うと、ちょっとした溝を利用して、前後二輪を対角で浮かし、ブレーキチョークでジワジワ前進していたときだった。
ブレーキチョークについては他の記事でも何度も書いてあるから省略するが、ブレーキチョークの効果自体はデフロックほど強力ではなく、本当に人間が手でクルマを押す程度の推進力しかない。
まあ、僕らの場合は「限界領域の能力を発揮させる」ってことが何より大事なのでそれだけあれば上等なのだが、効果が少ない分 効く態勢までもっていくことが重要になってくる。
で、先ほど言ったような前後のタイヤが浮いてシーソーみたいにブラブラしている状態ではブレーキチョークはほとんど効かない。
当時、ブレーキチョークという言葉はCCVMANが言い出したくらいの時期で周りに実践出来るものは誰もいなかったし、そういう動画がWEBで探しても出てくるような時代じゃなかった。
多分、YOUTUBEとかが出てくる前の話だろう。
それまではブレーキペダルをガンガン踏むブレーキタッピングや、サイドブレーキをこれまたガンガン引くサイドブレーキタッピングという技はあった。
だがこの技は、ロクマルでヒルクライムしていて当時一緒によく走っていた先輩に「ブレーキをガンガン踏んでみろ!」と言われて実行したらドライブシャフトが壊れてクルマを置いて帰った苦い経験があったのでその技は封印していた。
ついでに言うとサイドブレーキタッピングはランクルクラスの重量車ではほとんど効かない(笑
そんなこともあって、ブレーキチョークに関してはほぼ自力で編み出すしかない技だった。
前後二輪が浮いてブラブラしてるってことは、トラクションがほぼ100%逃げるのでちょっと接地したタイヤの抵抗が強いともう全くと言っていいほどクルマは前進してくれない。
この態勢からクルマを前進させるには二つの選択肢しかない。
タイヤやクルマの向きを変え少しでも転がり抵抗の少ない所に微調整していくか、
前後に浮いたタイヤをなんとか接地させて三点倒立、三点接地の態勢の持ち込まねばならない。
あーでもない、こーでもないとあれこれ試して行くうちに非常に効果的にリアタイヤを接地させて荷重を乗せてトルクフローが抑えられる方法を見つけることになる。
それは、
少しだけわざとバックしてサイドブレーキを思い切り引く、というカンタンな操作だった。
コツはフットブレーキではなくサイドブレーキだけを使うということ。
これは特にセンタードラムブレーキではなくなったジムニーやランクルでよく効く荷重移動の方法だ。
試しに自分のクルマがリアブレーキに直接作用するサイドブレーキを採用しているクルマを持っている人は平地でやってみるといい。
時速は1km/h程度で十分。
ゆっくりバックしながらいきなりサイドブレーキをガン!と引いてみるとよい。
普通そんな操作をしないし教わることもないだろうから想像しにくいかもしれないが、これがビックリするほどクルマが大きく揺れる。
理由はカンタンで、サイドブレーキはリアタイヤにしか作用しない為、荷重が進行方向のタイヤに一気に乗るためだ。
これがセンタードラム式のジープ、サファリ、古いランクルやジムニーなどではちょっと困難。
理由はカンタンでサイドブレーキがリアだけではなく、四輪全てに同時に作用するからだ。
まあ、フットブレーキでも練習次第で上手く揺らせるようになるし、場合によってはアクセルワークだけで出来ることもある。
僕が「クロカンで一番難しいのはブレーキングだ」ということの半分は荷重移動を上手に促すことを可能にするのもブレーキング技術だからだ。
ちなみにこのサイドブレーキタッピングを使った荷重移動をWEBで公開したのは今回が初めてじゃないかな?
クロカンの現場で人に説明したことは何度かあるかもしれないが、使っているのは僕とJr.くらいしか今のところ知らない。
このサイドブレーキタッピングを使った荷重移動の応用技は僕が確認しているだけでもかなりの数がある。
ステアケース(段差)をぽんと登るとき、モーグルのヒルクライムで再発進するとき、大きな岩や段差にぽんとタイヤを乗せるとき、斜面をわざと斜めに登らせて駆動が抜けるラインで前進させるときなどなど…。
「クロカンの基本はクルマを前後に動かすこと」ってよく言っているが、半分は効果的に荷重移動を起こし、トルクフローを抑えてクルマを無理なく前進させることにつながるからだ。
この技に最初に気が付いたとき、「リアデフロックは正直要らないな」と思った。
厳密に言うと全くそんなことはないのだが(笑)、少なくともコレを使いこなせるようになって、荷重移動を自在に使えたら走りな幅は格段に広がるとそのとき思いましたね。
今では、どちらかと言うとサイドブレーキタッピングを使った荷重移動はカンタンなので、傍目には更に意味が分かりにくいヒール&トゥでの荷重移動を練習しているし、普段はそちらを多用している。
これはサイドブレーキをキッカケに荷重移動を起こすことをマスターし始めた頃の写真。コースセットは僕。普通に走ってたらオープンでは走れないがサイドブレーキを使った荷重移動で三点倒立に持ち込むことで前進可能に。
今からちょうど10年前のテージャスランチですね。この日の走行記録が残っていたので見てみると、ほとんどのクルマが溝を又越そうとして失敗してたみたい。デフロックに頼らなくても荷重移動をある程度理解しておけばオープンのままでもスマートに走破出来る場合が多いですね。
◼️荷重移動には二種類ある
これをWEBで説明するのも初めてかな?
「荷重移動」には大きく分けて二つの種類がある。
僕が最初に覚えた、段差に当たる直前にブレーキで荷重移動を起こす方法や、走り屋がドリフトで使うフルブレーキなどは「
動的荷重移動」。
これは結構一般的だし、理屈ではなく経験的に使いこなせているツワモノも大勢おられる。
先ほど明かしたサイドブレーキタッピングからの荷重移動もどちらかと言うと動的な部類に入る。
だが、クロカンにはもうひとつ別の荷重移動がある。
それが「
静的荷重移動」だ。
ひとつこの「技」の欠点を予め明かしておこう。
それは、「モータースポーツ中 最も”地味”な技(笑)」という点だ。
ある意味、超オタクな技と言ってもいい。
だが、これも理屈をしっかり理解し、クロカンで使えるようになったら必ず走りの幅は広がると思っている。
「静的」と表現するだけあって目立った動きはほとんどない。
だから見るものが見たら、「うぬぬ、おぬし使えるのぉ」となるし、使えない者が見ても感動するものは何もない。
逆に下手くそが坂の途中でビビって固まっているように見えるかもしれない。
これはどちらかと言うと、碁やチェス、将棋などで何手先を読むってことに似ているのかな?と思う。
例えば、あるモーグルを登っているとする。
普通のラインで登ろうとすると、トルクフローを起こして登れない、こんな場合にどうするか?
僕がよくやるのは、そのポイントを脱出した処から逆回しで再生し、ラインを組み立てる考え方をして攻略法を導き出す方法。
そのラインの組み立ては、何も前進だけを使うことはしない。
積極的に「バック」も取り入れる。
モーグルなどを登っていて、ある態勢に持ち込めば三点接地になって綺麗にトラクションをかけれるのだが、下から攻めただけではそのポイントにクルマをもっていけないことがよくある。
そんなときでも、ちょっとラインを変えて攻めるとフロントタイヤだけでももっと高いポイントまで登らせることが出来ることがある。
もちろんそのままでは登りきれないが、そこからバックすれば重力の助けもあって、当初目指していたポイントまで楽々クルマを移動出来る場合がある。
バックして三点接地に持ち込んだら、もう走破したも同然だ。
全く静止した状態でもしっかりトラクションがかかるようになっていることが、静的荷重移動が上手くいっている(チェックメイト).ということなのです。
つまり、一手二手でカンタンに詰まらせるのではなく、チェックメイト(詰み)に向けて用意周到に四手、五手と布石を打ち込んでいくわけだ。
この、詰将棋みたいな思考法で前進させる方法を導き出すときチェックメイトに相当するのがひとつ目の静的荷重移動。
もうひとつが、運転手しかわからない程度にクルマを揺らせる方法。
これにはグリップやトラクションを得るためと、逆にグリップをわざと損ねるための二つがある。
グリップを得る方法としては、エンジンを粘らせた際の脈動や、軽くアクセルやブレーキ、ハンドル操作を行って得られる本当に微妙な荷重移動がある。
運転手しかわからない程度のごくごく僅かな震度や揺れ、これらを上手に使いタイヤなグリップを引き出していく。
二点接地でブラブラとシーソー状態になっている際に、ジタバタ足掻いていると浮いたタイヤが軽く谷底に接触することがある。
それだけでは十分なグリップは得られないが、何度も接触した瞬間に軽く地面を撫でることを繰り返すと、そのうち大きなブリがついて前進出来たりすることもある。
ランクルやサファリみたいな重量車ではあまりないが、ジムニーなどでは運転席でドライバーがジタバタ暴れるだけで浮いたタイヤにトラクションがかかり、脱出出来たのを何度か目にしたこともある。
また、クルマには操舵可能なフロントタイヤが付いているのでステア操作から荷重移動を引き出すことも出来る。
ランクルみたいな強力なパワステを付いているクルマに乗っている方はご存知だと思うが、溝にタイヤが落ちた状態からステアをコジるだけでクルマが持ち上がってくることがある。
また、壁にタイヤが押し付けられているような状態のとき、ステア操作から揺れを起こさせて浮いたタイヤのトラクションを回復させることもある。
ウインチングでも使えることがある。
ウインチというと前進させるためだけとか、レスキューするためだけという使い方が一般的だが、
僕は転倒防止のためにテンションはごくごくわずか張ってるだけで前に進むのはタイヤのトラクションだけとか、浮き気味のタイヤに荷重をかける目的だけでウインチをつことがある。
普通考えたらウインチを使う必要がないのにワイヤーを張っていたり、ウインチは緩まない程度に巻いているだけで、ゴソゴソとクルマを揺らせて遊んでいるときは大体、荷重移動のために使っていることが多い。
僕は非力なウインチを使うことに慣れているが、非力故にウインチに頼り切らないウインチングを学んだということだ。
もうひとつの、グリップを損ねる荷重移動というのは、高い段差がある地形を降る際や、キャンバーを走る際などに使うことが多い。
僕がキャンバーをトラバースしている際、クルマがギッコギッコと小刻みに揺れながら動いているのを見たことがあるかもしれません。
僕は最大のグリップを稼ぎたいときはクルマがグラグラと揺れるような操作は極力しない。
動いているのもカタツムリが動くのと同じくらいの速度でジワジワと一定の速度で動かすよう心がけている。
最大のグリップを発揮させたい急坂の下りなんかもそうだ。
よく練習でデコボコな坂を上から下までなるべく一定の速度でジワジワ下りる練習をしているが、これは繊細なブレーキ操作を身に付けるためだ。
僕がクロカンに競技を持ち込むのを嫌うのは、この「超微妙な最低速ブレーキ」が全く身につかないからだ。
ま、競技にはならないよな。
坂を降るだけで何分もかけるわけだから(笑
話が脱線したので元に戻すが、ちょっと雑にブレーキを踏んでやると軽くタイヤが滑ることがある。
ヒルダウンやキャンバーのトラバースでわざとそういう操作をするのは、グリップの限界を探るためだ。
凍結した道を走っている際に、わざと強目のブレーキングをしてどれくらい滑るか試すことがある。
ちょうどそれと同じことをほんの微妙な操作で行うことは安全を確保するためにも結構重要なことだ。
滑るか滑らないかをビクビクして走るよりは、最初から軽く滑らせて、そこから滑り量をコントロールするほうがラクだ。
これは移動速度が超低速でカタツムリ並みのクロカン車も、派手にタイヤを滑らせるダートラやラリーなどの高速走行も違いはない。
クロカンってのは極論すると、
グリップしないのをなんとかグリップさせ、グリップし過ぎるのをなんとか逃がしていく遊びだ。
タイヤがひっかかり過ぎて前進出来ないときや、フロントタイヤが地形に食い込んでしまっているとき、微妙に荷重を逃がしてやるだけでクルマが動いたり、ステアリングが軽く回ってくれる場合がある。
真っ直ぐ垂直のラインだと登れない坂や壁、岩や障害物もわざとジグザグに少しずつ高度を稼げば登れることもある。
バックは何回やってもいいし、移動速度が止まって見えても全然構わない。
逆にそういう操作を否定する競技はクロカンの深淵から遠い存在であるということは頭の片隅にとどめておいた方がいい。
ま、なんにせよ常識に囚われず頭を空っぽにしてクルマのシートに体を収め、大地から聞こえてくる声とクルマから聞こえてくる声に耳を傾けて走り込みをしてみよう。
見慣れていた運転席からの風景がこれまでとは違ったものに見えてくるはずだ。