どろろ

賛否両論というか好き嫌いはあるかもしれませんが前半はすばらしいと思います。アクションが軽すぎたり鯖目とマイマイオンバの関係などちょっと違うんじゃないかと思う部分もあるがまあ許容範囲つーかこういう解釈もありかと。全般にセリフなどは高校生の漫研がシナリオ書いたのか?と思うようなレベルではあるが映像の説得力がカバーしていると思う。借り物的ではあるが多分監督の好みとおれの好みが一致しているのだと思う。
というか柴咲コウという人はルックスや雰囲気などからして以前から実はこっち側の人間ではないのかと(こっち側ってどっちだよって話というかあまり好きな表現ではないですがまあわかりやすいので)思ってはいたのですが、おれの人生と柴咲コウの主演作品ではシデムシのたかったミミズの死骸と赤坂の高級料亭で政治家にふるまわれる高級食材くらいの隔たりがあるので、今まで柴咲コウの出る作品は見たことがありません(バトルロワイヤルは?と思われるかもしれませんが実はいまだに見ていません。いろんな人から薦められているのですがなんか見る気が起きなくて)。しかしこの作品での柴咲コウはいいですね。ファンになりました。これも賛否両論というか明らかにやりすぎでむしろ引く人もいるかもしれませんがおれなんかからするとこのくらいやらなければ演技とは呼べない。どう見ても原作のどろろには似ても似つかないのに演技の力でどろろに見えてくる。というかどろろ以外の何者でもない。柴咲コウどろろ。おれの中で確定。迷惑な話だがおれにどろろ認定されたところで本人のキャリアにはなんの傷もつかなければなんのメリットもないのでどうでもいい。柴咲コウに対して百鬼丸役の人はなんか健康的すぎて全然百鬼丸に見えないし果たして演技をしているのかどうかも微妙。本来、手塚先生はどろろの方に思い入れがあったので「どろろ」というタイトルにしたが、百鬼丸の方が人気が出てしまってなぜ「百鬼丸」というタイトルにしなかったのか?とよく聞かれたそうだが。「でも僕はどろろのキャラクターが大好きなんです」と語っておられた記憶があるが、そういった意味ではどろろの印象が強烈で百鬼丸の影が薄い今回の映画版は手塚先生の本来の意思を継ぐものと言えるのかもしれない。いや本気でそんなこと思ってはいないが。「成人女性が少年キャラ(この場合厳密には少女キャラだが)を演じる」という発想は、実はかなり手塚先生的なものでもあることだし。しかしこの映画版の場合設定が微妙に違っていて、どろろは「男として生きる」と決めたという話だがこれは男というよりなんか別のものとして生きていると思う。
問題となるのは後半。醍醐景光・多宝丸親子が出てきてからが問題。途中で予算がつきたのか?と思わせる画面の安っぽくなり具合や、何らかの問題が生じて脚本を現場で書き直さざるを得なくなったのか?と心配になるほどの脚本のスカスカ具合はこのさいいいとして、権力者の論理を正当化してどうする!百鬼丸が醍醐景光を許してどうする!許すとか許さないとかそういう問題じゃないだろ!醍醐景光がいい人になってどうする!多宝丸が百鬼丸を兄と認めてどうする!最終的にそこまでの登場人物の言動がすべて意味のわからないものになってしまっている。
元々いいかげんな話で手塚先生自身深く考えて書いていなかった節のある原作なので、ビジュアル的な魅力やストーリーの単純な面白さを抜き出して、修飾して自己解釈を加えるというような作り方ならある意味正しい。そういう意味でこの映画の前半は評価できる。しかし、それでも変えてはいけない部分というのはあると思うし、何を変えて何を変えないべきか判断するのも製作者の重大な責任だと思う。変えずに表現するのが難しければいっそ無視すべきだ。醍醐景光をいい人にしてしまっていくさを正当化して、百鬼丸がそれを許すという行為は、「ジョニーは戦場に行った」を映画化してジョニーにサイボーグの手足をつけて戦場に戻らせて敵を皆殺しにしてジョニーが英雄になってハッピーエンドにするのと同じような行為だと思う。
どうせなら最後醍醐景光が「これがお前の体と引き換えに手に入れた俺様の力だ!」とか言って48の殺人技を繰り出して百鬼丸を攻撃、百鬼丸も「お前はおれの父親じゃない!おれの父親はこの体を作ってくれた妖術師ただ一人だ!」と言い切って壮絶に殺しあう展開なら気持ちよかった。
終わってみれば柴咲コウの熱演が最も印象に残る作品。雰囲気がロード・オブ・ザ・リングに似ているなあと思っていたらニュージーランドで撮影されたものだそうなので多分わざと。CG妖怪のしょぼさに比較して着ぐるみ妖怪の圧倒的な実在感が印象的。マイマイオンバはひどいと思ったがヘビ獣人みたいなのとカラス天狗みたいなのはかっこよかった。
爆笑度     ☆☆☆
バイオレンス度 ☆☆☆☆
発狂度     ☆☆☆
怪奇度     ☆☆☆
男泣き度    ☆☆
前半に限れば☆一つずつ+してもいいのだが。
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