フィブリン添加でヒト絨毛細胞発育に抑制がかかる | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、フィブリンによりマウスの絨毛細胞発育に変化はなく、ヒト絨毛細胞では外側への発育に抑制がかかることを示しています。

 

Hum Reprod 2021; 36: 3108(日本)doi: 10.1093/humrep/deab223

要約:ICRマウスの胚盤胞および余剰胚として提供していただいたヒト胚盤胞の透明帯を除去し、フィブリン培地、無フィブリン培地、コラーゲン培地で培養を行いました。フィブリン培地はマウス胚盤胞の発育や形態に変化を及ぼしませんでしたが、ヒト胚盤胞ではトロホブラストの外側への発育を抑制しました。また、ヒト胚盤胞の培養液中のuPA(ulokinase-type plasminogen activator)活性が低下していました(マウスでは変化なし)。uPAを抑制すると、ヒトもマウスもトロホブラストの外側への発育を抑制しました。ヒト胚盤胞は、PLAU(uPA)遺伝子、PLAUR(uPA受容体)遺伝子、SERPINE1(PAI1)遺伝子、SERPINE2(PAI2)遺伝子を発現していましたが、マウスでの発現はわずかでした。ヒト胚盤胞培養にuPAPAI1抑制剤FDPを添加すると、フィブリン存在下でもトロホブラストの外側への発育が生じました。

 

解説:フィブリンは受精卵と子宮内膜の接着に関連する可能性が示唆されていますが、胚移植の際にフィブリンを添加した培養液で移植しても妊娠率は改善しません(賛否両論あり)。本論文は、フィブリンにより(マウスの絨毛細胞発育に変化ありませんが)ヒト絨毛細胞では外側への発育に抑制がかかることを示しています。これは、フィブリン、uPA、PAI1抑制剤、FDPのバランスによって変化します。このため、賛否両論の論文が発表されたものと推察されます。