ZP2遺伝子変異:空胞症候群の原因遺伝子の可能性 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ZP2遺伝子変異が空胞症候群の原因遺伝子の可能性であることを示しています。

 

Hum Reprod 2022; 37: 859(中国)doi: 10.1093/humrep/deac026

要約:2回の刺激周期採卵で一つも卵子が採取できなかった3名と妊娠歴のある女性2213名の遺伝子の全エクソーム解析を行ったところ、ZP2遺伝子変異ZP2. C.1925G>A(p.R642Q)が空胞症候群の原因遺伝子の可能性であることが示唆されました。3名の家系調査により、2名から常染色体優性遺伝が推察でき、1名は突然変異でした。CRISPER-Cas9によりゲノム編集を行ない作成したZP2R642Qノックアウトマウスでも、ヒトでみられたものと同じ現象(空胞)が再現されました。

 

解説:空胞しか取れない、空胞症候群(EFS)には本物と偽物があります。偽物の場合にはトリガーを強化することにより卵子の採取が可能になりますが、本物の場合はどうやっても卵子が取れないか変性卵しか取れません。空胞症候群の頻度は、0.045〜3.5%と報告されています。これまでに、空胞症候群の原因として3つの遺伝子変異(LHCGR遺伝子、ZP1遺伝子、ZP3遺伝子)が報告されています。本論文は、ZP2遺伝子変異が空胞症候群の原因遺伝子の可能性であることを示しています。

 

透明帯は、卵子の外側の殻で卵子を守っていますが、単なる殻ではなく、卵子の成熟や機能に関係する重要なものであることを再認識させられます。逆に、透明帯がおかしい卵子は異常の可能性があるとも言えるでしょう。透明帯は単なる殻との認識を捨て、真剣に観察する意義があるのではないかと思います。

 

下記の記事を参照してください。

2021.6.9「透明帯遺伝子(ZP遺伝子)変異による空胞症候群

2019.12.25「透明帯遺伝子(ZP遺伝子)変異と空胞の関係

2017.7.18「透明帯遺伝子変異と卵子の異常の関係

2916.5.20「完全透明帯欠損症の出産報告