本論文は、新しいトリガーの可能性(hCG 1500単位+FSH 450単位)についてのランダム化試験です。
Fertil Steril 2022; 118: 266(米国)
要約:2015〜2018年に、18〜41歳の女性で採卵を実施する方105名を対象に、トリガーとして①hCG 1500単位+FSH 450単位、②hCG 5000単位、③hCG 10000単位の3群にランダムに分け、採卵成績、培養成績、妊娠成績を前方視的に検討しました(ダブルブラインドランダム化試験)。なお、採卵周期開始時のAFC8個以上、BMI 30以下を対象とし、卵巣反応不良による2回以上のキャンセル周期のある方、トリガー当日のE2>5000の方は除外しました。ブロックランダム化法による割り付けを行い(ブロックサイズ6)、割り付けした方と薬剤を作成した方だけがどの群であるかを知っています(薬剤は3mLシリンジを用い1mL量で作成し、片方には「hCG」と記載、もう片方には「その他」と記載)。結果は下記の通り。
hCG 1500単位+FSH 450単位 hCG 5000〜10000単位 P値
症例数 54名 51名 〜
採卵数 13.6個 16.1個 NS
成熟卵数 10.8個 12.5個 NS
受精率 0.80 0.80 NS
良好初期胚率 0.59 0.62 NS
良好胚盤胞率 0.67 0.68 NS
出産率 48.1% 62.7% NS
OHSS 0名 2名 〜
NS=有意差なし
なお、OHSS2名のうち1名は中等症、1名は重症で入院を要しました。
解説:不思議に思われるかもしれませんが、採卵のトリガーとして最適なhCG量は未だ確定していません。少なすぎると卵回収率が低下し、多すぎると卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが増加します。最低ラインのhCG量は2000〜3300単位であるとされていますが、1000〜2000単位でも大丈夫だったとの症例報告もあります。一方、自然のLHサージでは脳下垂体からLHの他にFSHも分泌され、さらにFSHはLH受容体を増加させることが知られています。また、GnRHアゴニストトリガー(ブセレなど)は、脳下垂体からのLHとFSHの分泌を利用したものであり、動物実験ではLH作用のないFSH製剤の大量投与のみで排卵を起こすことができたとの報告もあります。このような背景の元に、新しいトリガー(hCG 1500単位+FSH 450単位)の発想が生まれ、本論文の研究チームが後方視的検討でその有用性を示しています(N=298名、hCG 1500単位+FSH 450単位、hCG 3300単位、hCG 1500単位+ブセレの3群、J Assist Reprod Genet 2018; 35: 297)。本論文は、この新しいトリガーについてのランダム化試験を実施したものであり、採卵成績、培養成績、妊娠成績は従来のトリガー(hCG 5000〜10000単位)と同等であり、OHSSが回避できたことを示しています。なお、編集長は本論文を「今月の独創的な研究」として紹介しています。とても興味深い論文です。