本論文は、モザイク胚および異常胚のTE細胞は高頻度でアポトーシスが生じていることを示しています。
Hum Reprod 2024; 39: 709(スペイン)doi: 10.1093/humrep/deae009
要約:2019〜2022年にPGT-A(NGS+SNP)を行った43組の夫婦から提供していただいた64個の胚盤胞(うちモザイク胚27個)を対象に、総細胞(DAPI+)、TE細胞(GATA3+)、ICM細胞(GATA3-/NANOG+)、アポトーシス細胞(カスパーゼ 3+ or TUNEL+)の細胞数を蛍光免疫染色と共焦点イメージングにより計測しました。
フェーズ I:カスパーゼ 3、胚盤胞53個(正常胚13個、モザイク胚22個、異常胚18個)
フェーズ II:TUNEL、胚盤胞11個(正常胚2個、モザイク胚5個、異常胚4個
結果は下記の通り(有意差の見られた項目を>と<で表示)
正常胚 モザイク胚 異常胚
5日目 6日目 5日目 6日目 5日目 6日目
NANOG+ 32.6% > 11.5% 35.0% > 19.8% 49.6% > 24.0%
GATA3+ 77.1% < 83.1% 78.1% < 83.6% 78.3% 80.6%
GATA3+/NANOG+ 9.7% > 0% 13.1% > 3.4% 27.9% > 4.6% 「9.7%、13.1%<27.9%」
「0%<3.4%、4.6%」
カスパーゼ3+TE細胞 26.6% 17.5% 44.1% 43.0% 45.9% 49.0% 「26.6%<44.1%、45.9%」
カスパーゼ3+ICM細胞 0% 0% 1.7% 5.2% 0.9% 4.9%
TUNEL+TE細胞 23.0% < 37.2% 39.0%
解説:PGTでモザイクと診断された胚から元気な赤ちゃんが誕生するため、モザイク胚には何らかの自己修正能力があると考えられています。具体的には、選択的アポトーシス増加と異常細胞増殖の低下が起きるのではないかとの仮説がありますが、その根拠は定かではありませんでした。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、モザイク胚および異常胚のTE細胞は高頻度でアポトーシスが生じていることを示しています。このため、モザイク胚の異常細胞が除去されると推察されます。
下記の記事を参照してください。
2024.2.4「PGTについての一考察」
2023.12.30「☆PGTで異常胚あるいはモザイク胚と診断された胚の正常胚率は?」
2023.11.19「☆モザイク胚の取り扱いについて:ASRMの見解」
2023.11.18「☆モザイク胚移植の予後調査」
2023.10.18「☆PGTの臨床成績:日本の多施設共同研究」
2023.10.5「☆4PN由来正常胚移植で健常児出産」
2023.9.28「☆年齢によるモザイク現象の頻度の違い」
2023.9.23「卵巣反応不良(POR)での正常胚獲得率」
2023.9.9「☆PGT-Aによる単胎妊娠の周産期予後」
2023.8.10「☆母体年齢は正常胚移植の妊娠成績に影響するか:メタアナリシス」
2023.8.7「胚盤胞の液胞の有無と正常胚率の関係」
2023.5.25「☆モザイク胚のカットオフ値は、20~80%より30~70%が良い」
2023.3.27「☆低頻度モザイク胚移植で胎児異常」
2023.1.25「カオティック(chaotic)異常胚で健常児出産!?」
2022.12.25「☆☆PGTは有効か否か」
2022.11.27「不育症患者における染色体異常の有無による妊娠成績:メタアナリシス」
2022.11.25「☆若年の卵子凍結と高齢の採卵PGTどちらが良い?」
2022.10.18「☆PGTは37歳以下では累積出産率は改善しない」
2022.9.25「☆初回採卵PGTで異常胚のみだった場合の2回目採卵PGTの結果は良好!」
2022.7.3「☆異常胚やモザイク胚移植で8名誕生」
2022.4.10「☆胚盤胞にならないのは染色体異常のせい?」
2022.3.29「PGTによる周産期リスクは?」
2022.2.5「☆新しい発想の着床前診断法:マウスでの検討」
2021.11.18「☆モザイク胚の取り扱いについて」
2021.5.12「niPGTの診断精度は?」
2021.5.4「☆非侵襲性PGT-A:賛成派 vs. 反対派」
2021.5.3「☆モザイク胚移植1000個の成績」
2021.4.9「PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか?」
2021.2.10「PGT-Aの母子への影響は?」
2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?」
2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか?」
2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる」
2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法」
2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い」
2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている」
2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない」
2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか」
2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要」
2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験」
2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?」
2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ」
2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2」
2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1」
2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非」
2019.7.5「PGT-Aの正確性は?」
2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?」
2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験」
2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?」
2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い」
2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派」
2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?」
2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について」
2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル」
2018.6.3「モザイク胚の特徴は?」
2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産」
2018.4.6「☆PGSの真価は?」
2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解」
2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2」
2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?」
2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について」
2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い」
2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2」