X上で「入学式カメラマン募集!」と書いた業者さんが大炎上してしまいました。

 

批判内容は

「そんな素人を使っていいのか?」

「カメラマンの身元はちゃんとした人なのか?

「そのカメラマンと、個人情報に関する取り決めの契約とかちゃんとやるのか?」

「撮影した画像を個人的に流用するのでは?」

といったもので。

 

「カメラマンの技量」の面と、「子供の写真を撮るという性質上、カメラマンの信頼性が重要」という面を心配しての炎上かと思います。

 

 

この件に関して、同業の人がこのような評論を書いてくれました。ちょっと分析が甘い点もあって、おそらく「学校専業」のカメラマンさんではないと思いますが、それでも、非常に詳細で正確な良質な記事だと思います。ぜひ読んで下さい。

 

というわけで、私からは、

「運動会撮影の大変さ」を主に「報酬」の面からお伝えしたいと思います。

 

「運動会は雨天中止になる」

というのが問題なんです。

カメラマンの業界って、ちゃんとした契約なんてものは全く無く、キャンセル料なんて取り決めも全くありませんでした。

なので、「雨で今日の運動会は中止」となると、その日の報酬は消えます。一銭ももらえません。

 

そういう業界なんですが、1990年代のある1年、「秋にやたらに雨が降る」年がありました。その時の話をします。

(当時は、運動会は日曜開催で、土曜開催というところはほぼありませんでした)

 

①ある日曜日

朝から雨で、運動会は完全に中止~延期。撮影できないから無収入。

 

②翌週の日曜日

天気予報は曇だったのに、当日の朝になったら、雨。運動会は中止~延期。撮影できないから無収入。

 

③その次の日曜日

前日は雨だが、当日は晴れ。「大丈夫だろう」と思ったが、学校に電話をすると、「今は晴れているが、昨日の雨でグランドがぬかるんでいて催行不能」とのこと。中止~延期。撮影できないから無収入。※こういう事情のため、他の学校では運動会を催行した学校も多数あった。

 

④その次の日曜日

当日の朝、自宅は曇なので、「できる」と考え、電車に乗って20キロ離れた現地へ。しかし、その町だけ「朝から雨」らしく、中止~延期。撮影できないから無収入。 無収入どころか交通費も出ないからマイナス ※他地域の学校の大部分では運動会開催。

 

⑤その次の日曜日

「雨」の予報もあったが、朝の時点で、自宅も現地も雨は降っていないので「できる」と考え、電車に乗って現地へ。乗り換えの駅で学校に電話すると、「雨の予報なんで中止にしました」とのこと。泣く泣く引き返す。撮影できないから無収入。※その日はたしかに雨が降ったが小雨程度。がんばって運動会をやろうと思えばできないことはなかった。よそでは催行したところが多かった。こういうときは、「ちょっとでも雨が降ってグランドが濡れて、子供が滑ってころんだから責任がとれない」と考える校長と「これぐらいなら問題ない、やろう!」と判断する校長がいて、校長の気持ちひとつでやるかやらないかが決まる。

 

⑥その次の日曜日

やっと晴れて運動会開催。撮影もできて報酬ももらえた。

 

といったことがありました。

6日間のスケジュールをあけて、報酬は1日分(当時は8000円)だけです。交通費2日間分はマイナスです。

 

めちゃくちゃだと思いません???

 

※ちなみに、この年のこの一件で、契約カメラマンがみんな怒り出し、「雨天中止の場合は、半額のキャンセル料を払うべきだ!」ということになり、改善が行われました。(その会社1社の話であり、業界全体ではありません)

 

 

運動会の撮影って、「業務用のカメラを使用する集合写真の撮影」がないため、「一眼レフを2台持っていれば可能」という仕事で、そのへんのカメラマニアさんでも、いいカメラと望遠レンズを持っていれば、なんとか撮れてしまう面もあり、ギャラはすごく安いです。今でもそうです。というか、今の方がギャラは安いかもしれません。

 

撮影料は15000円くらいになりましたが、今の運動会は「機材がデジタルになった」ということと「ご家族カメラマンに負けるような写真ではなく、より良質の写真を撮らないといけない」ということもあり、撮影枚数が膨大で、撮影後、自宅に戻ってからの、「RAW現像」「画像調整」「セレクション」「仕分け」の作業が、私の場合、丸2日かかります。(クオリティにこだわらないカメラマンだともっと短時間で仕上げますが) そうやって考えると「3日働いて15000円」ということです。1日5000円です。時給換算700円ですね。その時給で、プロ用のカメラ機材やPC機材も揃えています。そして、プロの技術を使って撮影しても、その報酬です。

※フィルム時代のスクールフォトの請負仕事は、撮影が終わったら未現像の撮影済みフィルムをパトローネのまま、発注先会社に渡して、それでおしまいです。そのあとの作業はカメラマン側はしません。ですから、撮影日プラス「フィルムを渡しに行く作業」だけで仕事は完結します。

 

それに、今の運動会は「土曜日にやるのが主流」です。日曜日は雨天に備えて予備日としておきます。これだと、カメラマンに発注する際は、「運動会撮影1件お願いします。でも、土曜と日曜の2日間スケジュールを確保しておいて下さい」と言います。スケジュール2日確保させておいて、報酬は1件分だけです。

 

こんな仕事、誰もやりたくないでしょ?

 

写真好きの人の「やりがい」に乗っかっているだけの業界です。

 

こんな低報酬になっているのは、お金を払う側の「学校」や「保護者」が適正なお金を払わないからです。競争を煽る入札制度にした行政側の問題もあります。とにかく、今回の炎上で「信頼性」とか「個人情報」とかいろいろ文句を言っても、カメラマンがちゃんと食っていけるお金を払っていない以上、「そんなこと言う権利ないですよ」というのが正直な感想でして。

 

この業界、もはや崩壊するしかないと思います。

「卒業アルバムなんかいらないよ」と言う人もいる現代、社会構造が変わって、学校写真も不要になっていると思われます。