「昨日の総会でも見てみいや。乾杯がおわったら銀行は最初に誰のところにいったかいや!?」
「さあ?そこまでは気にしてないですから。」
鉄骨に板金を直貼りした平屋の古い事務所の片隅で、社長は可愛がっている車屋の専務に、ニヤリと笑いながら言い放った。
「ワシんところいや。」
「うん、さすが社長!!」
二人はまるでドラマの掛け合いか漫才のネタのように、こなれた会話を続けた。
「銀行マンは自分にとって、一番大切な客から挨拶に廻るけえの。」
「なるほど、そういったモンですか?」
社長は専務の言葉尻を捕まえて間髪入れずに言い返した。
「そういったモンじゃないいや。おまえ、あほみたいに会費払って、あほみたいに総会に出て、なんも見んと帰ったら、金がもったいなかろうが。」
「さすが社長、勉強になります。」
どこかの解体現場から拾ってきたようなソファーに腰かけた二人の傍で、事務机に座っている経理が、黙々と電卓を叩いていた。
「ええか、安い仕事なら誰でも取れる。じゃけど仕事は高く取らんといけん。それが自営業ちゅうモンじゃ。」
「でも。どうやって高く取るんです。」
「そりゃ、自分の魅力を上げることいや。ええか、男の魅力っちゅうのはのう、・・・・」
古くて狭い事務所で、社長の演説の合間に、電卓を叩くカタカタという音が、社長の独演会の相づちとなって事務所内を席巻し続けていた。