あれは猛暑が続いていた日。
暑い我家で待っている愛猫が心配で、私は急いで家に帰った。
「ただいま!」
ドアを開けると、愛猫は玄関近くの襖でバリバリ爪をといでいた。
いつもそこから私へ駆けて来るのだが、その日は一向にやめない。
「も~りんちゃん、そこで爪とぐのやめてよ。ボロボロじゃん」
バリバリバリバリ。
真剣な横顔を見せて、一心不乱の爪とぎは続く。
「やめて!何回言えば×▼◇○※…!」
思えば、暑さによるストレスが、相当たまっていたのだろう。
愛猫も。私も。
~また訳わかんないこと叫んで。どないしたんねん~という顔をされて、私は暑さのこもる家に入った。
その後、何事もなかったかのように、お水を取り替え、ドライフードをたし、おかかをあげ、暑さに耐えた。
数日後。
行きつけのペットショップのポイント・デーがやってきた。
いつものお買い物をすませ、ふとあの横顔を思い出した。
そういえば、愛猫お気に入りの、お爪とぎポールは、もう使用限界を越えそうにズタズタ。
爪とぎのストレスを抱えているのではないだろうか。
そうだ!
新しいお爪とぎを買ってあげよう!
店内をぐるぐるぐるぐる歩きまわって、みつけました。
タワーよりぐっと気軽に購入できる、お爪とぎグッズ。
いやーん、喜んでくれるかなー。
帰るや否や夕飯も食べず、組み立てにとりかかった。
しかし自慢じゃないけど、私は説明書の読めない女。
「え、逆なの?」「なにこれ、入んないじゃん」と難航し、やっとの思いで完成させた。
これは、あの日キャンキャン文句を言ってしまった愛猫への、罪滅ろぼしだ。
「りんちゃ~ん、新しいお爪とぎ作ったよ」
しかし愛猫、おかかをねだるばかりで、爪をとぐ気は一切なし。
罪は滅びなかった。
その日も何事もなかったかのように夜は過ぎた。
爪とぎされる襖と相手にされない爪とぎ