私は幸いにも、断酒を志してアルコール病棟を退院して以来、スリップすることなく現在まで断酒を継続できています。しかし、何度も再飲酒して、また断酒を繰り返している人がいます。断酒を決断したはずなのになぜまた酒を飲んでしまうのでしょうか。

 

　しかし、かつて自分もしばしば似たようなことをしていたように思うのです。 二日酔いの朝の事です。頭は痛い、胃はむかむかする、とにかく気分は最悪です。そんなとき「もう酒なんて飲まない」そう思うことがあります。 しかし、昼が過ぎ夕方になると気分の悪さも治まってきて、今晩の酒へ気が向きます。でも昨日は飲み過ぎて今朝は散々だったから、こんばんは控えめに飲もう。なんて考えます。 しかし一杯飲んでしまうと、控えめになんて思いはすっかり忘れてまた大酒を飲んでしまうのです。 

 

　酒を飲み過ぎて、気分的にも肉体的にも最悪の状態では、もう酒はいらない、そう思うのですが、時間がたって体調も回復し気持ちも持ち直すと、ちょっとぐらいはいいかなと言う気持ちになって行き、結局飲んでしまうのです。一口でも手を付けたら後は同じ、いつものように大酒になってしまうのでした。

 

　連続飲酒で体もボロボロ、職や家庭も破たんに瀕した状態で、「もう酒は止める」そう決意するのですが、入院など医者の指導でひとたび酒っ気が切れると、肉体的な苦しさは治り、食欲も取り戻すようになると、もう苦しみを忘れて酒を止めなければという決意が鈍ってしまうのです。

 

　そしてちょっとは飲んでも大丈夫では、なんてつい考えてしまいます。そしてひとたび酒に口をつけてしまうと、最早少しぐらいならと言うことも忘れて、あっという間に連続飲酒に戻ってしまうのです。

 

　断酒の決意から再飲酒への過程は、二日酔いの朝からその夜の酒への過程の拡張版と言えるでしょう。しかし懲りずに、二日酔いを繰り返すからこそ結果としてアルコール依存症になったわけで必然とも言えそうです。

 

　ただ、断酒を決意した時には、命を脅かしかねない、人生の破たんに直面しているとわかっていたはずで、理屈としては断酒しないといけないと解ったはずですが、その理屈がどっかに逝ってしまうのです。

 

　のど元過ぎれば熱さ忘れる、という諺があるように、苦痛もその刹那を過ぎると忘れてしまって懲りずにまた失敗を繰り返してしまうのです。人とはそんなものなんでしょうか。

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