ことあれかしだった

ちいさい怪談や奇譚を細々と書いています

ご無沙汰しております

こんばんは。

 

 

 

色々ありまして、

 

何かものを書いたりとか読んだりとかができない体となってございました。

 

 

 

ようよう何となく身の回りも落ち着いて参りまして、

 

ぼちぼちなんかアレしようかなと思い立ったものですから、

 

こうして久々にキーボードを叩いておる次第でございます。

 

 

 

ともあれ、何も書くことがございませんですので、

 

最近読み返した漫画の話でもしようかしら。

 

 

おろち(1) (ビッグコミックススペシャル)

 

おろちでございます。

 

 

 

大変有名な作品でございますので、

 

わたくしごときから今更申し上げることなぞございませんですが、

 

 

万が一ご覧になっておられない方が万が一ございましたら是非ともご覧頂ければ幸いに思う所存でございます。

 

 

 

内容と致しましては、

 

語り手となる『おろち』の目を通して9つの物語が展開されます。

 

どれも宝石のように美しい物語です。

 

 

 

全編をとおして大変魅力的な点を申し上げますと、

 

それは語り手であり狂言回しであり、

 

または機械仕掛けの神に近い存在である『おろち』嬢が、

 

決して超然としていない、もっと言えば子供っぽい。

 

畢竟未熟であるというところでございます。

 

 

 

この手の作品にありがちな傍観者然とした立ち居振る舞いとは少しばかり趣を異にしており(勿論そうした立場を取ることもございますが)、

 

あくまで人間として物事に関わろうとする姿が非常に可愛らしい。

 

神に近い存在として描写される『おろち』の内面は我々の想像する神のものとは大きく異なり、

 

ともすれば「そんなんでよく今までやってこれたな!」とツッコミを入れてしまいそうになるほどに、

 

それは当たり前に怒り、苦悩し、喜び、また好奇心に従う少女の心であります。

 

 

 

 

 

 

どの物語も珠玉と言って全く差し支えないものでございますが、

 

中でもわたくしが特に美しいと感じた作品に『姉妹』がございます。

 

 

 

作品全体の幕開けを飾る傑作であり、

 

同じく幕切りを務める『血』とともに映画化もされております。

 

おろち [DVD]

 

『カギ』や『戦闘』も非常な傑作で、何遍も読み返しておりますが、

 

どれも人間の美しさを描いた『おろち』の中にあって、

 

この『姉妹』がわたくしの心の琴線にこうも触れるのは、

 

恐らくこの物語に流れる詩に惹きつけられるからではなかろうかと思うのです。

 

 

 

※以下ネタバレ注意※

 

 

 

『おろち』は嵐の晩、大きなお屋敷の前に現れます。

 

そこには美しい姉妹が暮らしておりました。

 

曰くのある血筋の家柄でございまして、

 

その家の女子は18歳を迎えるとともに悲劇に見舞われます。

 

何事かと申し上げるに、美しい顔が醜く変化してしまうというものです。

 

 

 

恐れを抱きながらも、これまでの人生を共に歩んで来た二人でございましたが、

 

ある日姉妹の内の一方が、

 

本当はこの家の血を引いていないという事実が明るみとなります。

 

 

 

その事実がお屋敷に狂気として渦巻いていくのに時間はかかりませんでした。

 

共に歩むと決めた内の一方が、いわば抜け駆けをした格好となったわけですから、

 

残された方はたまったものではありません。

 

当然嫉妬、怒り、悲しみ、寂しさなどの感情に支配され、

 

「もう一方もただでは置かない」と目を血走らせるのです。

 

 

 

その後物語は思わぬ(或いは当然の)方向に向かいますが、

 

この姉妹は最後まで車輪の様に、または絡み合った樹の様に運命を共にします。

 

どちらが姉で、どちらが妹なのか。

 

どちらが血筋の者で、どちらがそうでない者なのか。

 

どちらが正常で、どちらが狂っていたのか。

 

そのようなことはもうどうでもいいのです。

 

二人がどのような道を辿ったにせよ、

 

誰にもそこに割って入る権利はありません。

 

 

 

この美しい物語は、

 

そしてえたいの知れないみにくい女がひとりいた

 

という美しいモノローグに結実するのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかで聞いた話に、

 

八岐の大蛇の岐って七つしかなくない?

 

というものがございまして、

 

首の一本一本を岐と捉えれば終わる話ではございますが、

 

ある説にあの首は手の指の様に生えているのではなくって、

 

花が咲いた様な格好になっているから八岐なんだよと、

 

この作品とは全く関係ないお話ではございますが、

 

そのようなことを思い出した次第でございます。