スパニッシュ・オデッセイ

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蟻とキリギリス

2022-09-21 09:06:55 | トリビア
 カルメン・リラの“Cuentos de Mi Tïa Panchita”(パンチータ伯母さんのお話)の著者前書きにイソップの「蟻とキリギリス」の話が言及されていた。イソップの寓話は世界中に広まっているようである。
 イソップはギリシャ語で「アイソーポス」というそうで、英語では Aesopである。スペイン語では Esopo となる。
 イソップはかなりの醜男だったらしい。
 
 【ディエゴ・ベラスケスによって描かれた肖像画】
 イソップの寓話はポルトガル人宣教師によって日本にもたらされ、17世紀初めに仮名草子『伊曾保物語』が成立した。これには伊曾保(イソップ)の略伝も収められているが、やはりかなり不細工だったということである。挿絵もあるが、だいぶ日本化している。
 ちなみに、略伝の部分を読むと、まるで一休さんの話のようである。


 前置きはこれくらいにして、「蟻とキリギリス」の話に移る。
 実は、元の話は「キリギリス」ではなく、「蝉」なのである。
 
 絵を見ると、蝉だかハエだかわかりにくい。蝉ではなく、ハエであるという説もあるらしい。
 
『伊曾保物語(岩波文庫、武藤禎夫校注)付 絵入教訓近道(抄)』より
 左の男の頭には蝉が、その右のキセルを咥えている男の頭には蟻が見える。

 『伊曾保物語(岩波文庫、武藤禎夫校注)』には「蟻と蝉との事」として記述されているが、その中の「注一」には以下のように書かれている。

 地中海沿岸の温暖な所では蝉だが、寒冷の中欧以北では蝉が生息せず、代って多く蟋蟀(キリギリス)を出す。

 同 p. 341 の解説には次のように書かれている。

 徳川幕府が瓦解した御一新後は、欧米からの文明開化の波が押し寄せ、江戸期の国字本伊曾保物語は影をひそめ、英語を主体とした外国語によるイソップ物語が盛んに紹介された。すでに幕末時の新聞にも数話見られるが、時代の先覚者福沢諭吉は、イギリス人チェンバーズの道徳書を翻訳した・・・(中略)・・・第13章「倹約の事」の項に「蟻とイナゴの事」などを載せ(以下省略)

 以上が「蝉」から「キリギリス」に置き換えられた経緯である。

 ギリシャからスペインを経由してコスタリカに伝わったイソップ物語では「蝉」はオリジナルの「蝉」のままである。カルメン・リラの“Cuentos de Mi Tïa Panchita”(パンチータ伯母さんのお話)の著者前書きに言及されているイソップの「蟻とキリギリス」の話も、当然ながら、オリジナルの「蟻と蝉」なのである。



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