デ某の「ひょっこりポンポン山」

腎がんのメモリー(術後10年クリアーし"卒がん")、海外旅行記、 吾輩も猫である、人生の棚卸しなど。

北帰行

2022-01-11 13:45:00 | 名残の季節
 朝日新聞1/8付朝刊で外岡秀俊の訃報を知りました。
 彼は東大在学中に「北帰行」で文芸賞を受賞しました。小説の道には進まず朝日新聞に入り欧州総局長・論説委員・編集局長などをつとめ、退職後は朝日新聞の北海道版コラム「道しるべ」を執筆していた由。心不全で亡くなったのは昨年12月23日、死から2週間余も経って… の訃報でした。


    

 外岡秀俊を語るには… 柴田翔を語らなければなりません。
 柴田翔「されどわれらが日々」は、60年安保を背景とした青春と挫折が描かれ、1964年の芥川賞受賞により広く注目され ました。"団塊世代のバイブル" とも言われ、全共闘運動への幻滅から盛り上がりを欠いた70年安保以降にもなお影響を与えつづけました、勿論!良い影響かどうかは兎も角…。

 私は "やや遅れて影響を受けた" 一人ながら柴田翔 "四部作" と言われる「されどわれらが日々」「立ち盡す明日」「贈る言葉」「鳥の影」を夢中になって読み、更に社会に出た年に発表された「われら戦友たち」を読みました。が、それっきり柴田翔の作品を読むのはやめました、もう いい!と。

 柴田翔「されどわれらが日々」の最後には微かに "旅立ち" "希望" がありました。しかしその後の作品は総て内に籠り希望を棄てた世界でした。"虚無" は 力を喪くした者が再び力を矯める時間なのだと私は思いますが、柴田翔の世界は 力を喪くしたことを糊塗し美化している…とさえ思いました。


  

 そうした時に出会った書が外岡秀俊の1976年文芸賞受賞作「北帰行」。主人公は、北海道の炭鉱で育ち東京に就職しますが、職場の諍いから失業。石川啄木に惹かれ北国への漂泊の旅に出… 郷里に帰り着いた青年は、母に託された友の手紙から "破裂しそうな" 友のために再び上京を決意します。

 『母ちゃんをおいて行くのかい』と縋る母に『きっと帰る。俺はきっと帰るよ』。ともすれば揶揄される "健全な魂" "健全な意思" でしょうか。柴田翔「されどわれらが日々」の虚無に馴れた感覚にはダサクてカッコ悪く思われますが、体裁!を気にしなければ 地に足のついた感触があります。


    
         1976年 … 半世紀近い昔に購入した書の やや擦り切れカヴァーと帯です。       

 外岡秀俊は小説家としては「北帰行」で終わった!と思っていました。が、中原清一郎の筆名で小説「未だ王化に染(したが)はず」(小学館)「カノン」(河出書房)を著しています。「カノン」は数年前、中原清一郎が外岡秀俊と知らずに妻が購入し『書棚にあります』と。合掌のうえ… 読もうと思います。

 なお 柴田翔は東大教授、文学部長となり… ドイツ文学者として多数の論文・書を著しています。もう小説は書かないのか…と思っていたら、数年前に長編小説「地蔵千年、花百年」を発表しました。読む気はありません。残りの人生の無駄だと思います。以下は… 柴田翔が1984年に記した一文です。

ゲバルトは国家の暴力装置に対抗するための対抗暴力として出てきたと理解していた。対抗暴力であってもゲバルトには反対だったけど、現象としてはそう理解していた。ところが大学の教師である自分の目の前で学生達がゲバ棒を振り廻すのを見ているうちに、そういう側面もあるけれども それはタテマエと判ってきた。連中はゲバ棒を持ちたいから持っているんだ、ゲバ棒を振り廻すこと自体によろこびを感じているんだという気がした。良い悪いの問題以前に、まさに現実としてそうだということが見えてきた。戦後民主主義が前提にしていた人間観の中には、それが含まれていなかった。人間は本来理性的動物であって、暴力衝動などは人間観の外へ追いやられていた。(「全共闘ーそれは何だったのか」現代の理論社)

       外岡秀俊「北帰行」とは異なる世界ながら… 加藤登紀子の歌う「北帰行」を。


  【補遺】… 2022.11.14 記
    日々 過去を振返っては "心の糊口?" を凌ぐに 自身のブログ記は持って来い!ではある。
    柴田翔にはとうに訣別したとはいえ 最後に記した柴田翔の1984年の一文に 改めて憤りを覚える。
    「無援の抒情」の道浦母都子さんは 全共闘の "闘士" ではなかったかもしれないが 傾倒はしていた。 
    彼女は 歌人たる収入にのみ依存し 安定した "月給" など得つつ二足の草鞋を履くことを潔しとしない。
    その意味において 東大教授・文学部長をつとめた柴田翔と個人事業主たる道浦母都子 は対極にある。
    読みもせず肌感覚?として厭う吉本隆明は 月給を貰わない個人事業主としては一目も二目も置く。
 



 
過去ログ目次一覧】
吾輩も猫である~40 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
吾輩も猫である~80 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/dce7073c79b759aa9bc0707e4cf68e12
吾輩も猫である81~140 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/f9672339825ecefa5d005066d046646f
吾輩も猫である141~ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/b7b2d192a4131e73906057aa293895ef
人生の棚卸し http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ddab58eb8da23a114e2001749326f1f1
人生の棚卸し(2) https://blog.goo.ne.jp/00003193/e/22b3ffae8d0b390afee667c0e9ed92ed
かんわきゅうだい(57~) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/20297d22fcd28bacdddc1cf81778d34b
かんわきゅうだい(~56) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a0b140d3616d89f2b5ea42346a7d80f0
閑話休題 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/c859a3480d132510c809d930cb326dfb
腎がんのメモリー http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
旅行記 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/23d5db550b4853853d7e1a59dbea4b8e
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ごあいさつ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/7de1dfba556d627571b3a76d739e5d8c

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4 コメント

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北帰行 (遠音)
2022-01-12 16:31:24
デ某さんは 古い曲をよくご存知ですね
この曲は 新婚当時たしか小林旭さんが歌って
いたように思います。

ゲバ棒についても 私は4歳の息子の手を引き
乳飲み子を背負って 小樽のニュー銀座という
百貨店の横広場で遭遇しました。
近くに毎日の食品購入の「妙見市場」が有ったからです。
黒い布で顔を覆い 拳を振り上げ
怒濤のようにほとばしる声と 振り上げる
ゲバ棒を 慄然としながらみて
とっさに子どもを守ろうと!!
地元には商大があり 北大生も来ていて
今思えば あそこに正義が有ったのかと!!
思い出は埋まっていて・・ある日突然のように
自分の魂が震えるという体験をするのですね。
Re : 遠音さん「北帰行」 (デ某)
2022-01-12 17:41:44
遠音さん
コメントありがとうございました

今 コメントはない!と思い ... ブログを更新しようとして
ちょっとだけ覗いてみたら遠音さんからのコメントがありました。
いつもほんとうにありがとうございます

「北帰行」の歌は 旧制 旅順高校で歌われていた由。
私も 小林旭さんの歌の印象が強いです。
しかし このブログ記には多少のアイロニーをこめて加藤登紀子さんの歌がいいかなぁ、と。

60年安保のデモ隊と警官隊の衝突は 小学生の頃にTVのニュースで視ていました。
母が「あんなに叩かんでも!」と警官隊に憤慨していたのを憶えています。
それぐらい デモ隊はまだおとなしかった思います。
しかしヘルメットに手拭いで覆面、
ゲバ棒どころか鉄パイプ、竿竹、火炎瓶が登場し始め様相が一変しました。
私のゼミの友人は "大学解体" を唱えつつ大学を卒業、
中国地方の銀行に就職し、頭取となりました。
善し悪しではなく そうした時代の過渡期の歴史の "軋み" がそこに窺われます。

地元の商大...小樽商大でしょうか、大きく統廃合になりますね。
小樽の石原裕次郎の記念館もなくなった由。
遠音さんの仰るように そうしたことも含めて...
『思い出がつまっていて...或る日 突然のように自分の魂が振える』
そうした一瞬一!瞬!が 最近 堰を切ったように増えてまいりました。

ブログ更新!直前にコメントをお寄せくださいまして ありがとうございました。
北国には大雪の由。
くれぐれも 暖かくしてお過ごしくださいね

旧制旅順高校の「北帰行」
https://www.youtube.com/watch?v=B5ttKEZTR9M
『されどわれらが日々』 (沙羅)
2022-01-12 20:03:57
私の一番好きな小説ではあるのですが。
柴田翔が他に小説を書いていたことも知らず、その後の人生も知らず。
あの小説一つで気持ちが完結してしまったみたいですね。
あの小説は私にとって決して人に語ることのない青春時代の心情の象徴でしょうか。
小説のストーリーとか登場人物ではなく、あの小説の持っている雰囲気を愛しているだけみたいです。
1冊だけ秘密の花園のような小説を持っていたっていいのではと思います。
だからこそ彼の他の小説は読みたくないし、その後も知りたくないのでしょう。
Re : 沙羅さん「されど…」 (デ某)
2022-01-12 20:40:26
沙羅さん
貴重なコメントありがとうございました

其々の人生に それぞれの書があり 歌があり 人がいて 出遭いがあります。
誰が何を言おうが 沙羅さんの想いも思い出も 沙羅さんのもの…。
「されどわれらが日々」の されど!に
それぞれに 様々な されど!があるように…。

閉じた窓から入らないものがある一方
開いた窓からは珠玉の真実もあれば 雑多にして余計なものが混在します。
それぞれの生き様ではあります。

そのようなコメント 感慨 思い出が語られることを期待し... 少なからず!報われました。

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