一月の寒くて早い朝、私は大玉トマトを栽培しているハウスの中にいる。

入口のビニールカーテンを潜ると眼鏡が曇った。

外の気温は5度にも満たないが、ハウスの中は20度を超えている。

 

最初に飛び込んでくるのは、青くて甘い匂いだ。

青臭い「みどりの香り」に混じって、人を元気づける果実の甘い香りが充満している。

それでも甘い香りは控えめで、そのあと真っ赤に実ったトマトを探したくなる。

 

 

見つけたのは、青いトマトだった。

そうだった。ハチが受粉して青いトマトができて、やがて実が赤くなる。

植物が繰り返す生きざまを忘れていた。

 

だから

 

トマトの赤はハウスの緑のなかで愛おしくなる。

 

 

スーパーの果物売り場でトマトは赤い色を演出する。

売り場は、緑や黄色、オレンジ色や紫で溢れている。

五感から得られる情報は、視覚の色彩で満たされる。

 

五感が受け取る瞬間情報量のMAXが決まっているとしたら、視覚情報に感覚と思考は占領される。

ハウスで受け取った、人を元気づける果実の甘い香りが感じられない。

だから、トマトが青く育って赤く色ずくことを忘れていた。

 

この香りに必要なのは、熟す前の青いトマトと緑の木、完熟した赤いトマトだけだ。

このシンプルな色彩が美しく、人を元気にさせる。

 

勝手にそんな売り場ができないものかと考えてみた。

 

売り場の中央にハウスで見たトマトの木を植える。

来店する度に、青いトマトが少しづつ赤くなっていく。

ここでは、青臭い匂いと甘い匂い、両方が体験できる。

子ども達は新たな発見をし、大人は果物の恵みを思い出す。

急ぐ買い物の中で、ちょっとしたスローな道草を味わえる。

 

お得セールの騒音も遮断する。

果物売り場なのに、この一部は緑と赤しかない。

青臭い「みどりの香り」に混じって、人を元気づける果実の甘い香りを味わって欲しい。

 

 

今、売り場が騒がしい。

色と音で忙しい。

 

だから、こんなシンプルなスペースが欲しい。