光と影のつづれ織り

写真で綴る雑記帳

根付 東京国立博物館のコレクションから

2021年08月24日 | 博物館レビュー

東京国立博物館の、根付コレクションを紹介するのは初めてになります。

というのは、今年3月、トーハクの高円宮コレクションを、コメントでご推奨

いただき、それで、トーハクに行った際(2021年6月16日)撮ってきました。

なお、高円宮コレクションがトーハクに初めて展示されたのは、2011年11月で

そのき撮ったものも(若干です)、見つかったので併せて載せています。

 

ところで、トーハクには、郷コレクションと高円宮コレクションという根付の

2大コレクションあります。 

本館2階第10室に展示されていた俗に”古根付”と分類される、郷コレクション

から紹介します。 キャプションです。↓

 

根付とは、印籠や煙草入れなどを帯から提げる際に、紐の端につけた留め具のことで

戸時代には広く愛用されていたが、明治以降の洋装化などに伴い、廃れてきた。

一方で、根付は欧米の美術コレクターの心を捉え、多くの根付が海を渡って行くこと

となり、郷氏は根付が海外に散逸することを懸念し、国内に良い作品を残し伝えるべ

く、収集を始めたそうだ。 郷氏の収集した根付はその体系的な内容と質の高さか

根付愛好者の間で「郷コレクション」と呼ばれ、高く評価されている。

郷コレクションには、江戸時代から明治期にかけての有名根付師の作品が満遍なく含ま

れているのが特徴。

※郷誠之助(1865~1942)氏は、第一次世界大戦後から第二次大戦前にかけて、日本
の経済
界を牽引した大実業家。経営危機に陥った幾多もの会社の再建に次々と成功し
貴族院議員や東京商工会議所会頭、日本貿易振興協議会会長などを歴任した。
氏が財界で活躍のかたわら25年余りをかけて収集した根付は、没後その遺志にしたが
って東京国立博物館へ一括寄贈された。

 

 

最初の作品は

<常盤牙彫根付>

常盤御前についてウィキペディアからの引用

”常盤御前は、源義朝の側室で義朝との間に3人の子をもうけた。 平治の乱で、義朝が謀

反人となって逃亡中に殺害され、23歳で未亡人となる。その後、子供たちを連れて雪中を

逃亡し大和国にたどり着く。その後、都に残った母が捕らえられたことを知り、主であっ

た九条院の御前に赴いてから(『平治物語』)、清盛の元に出頭する。出頭した常盤は母

の助命を乞い、子供たちが殺されるのは仕方がないことだけれども子供達が殺されるのを

るのは忍びないから先に自分を殺して欲しいと懇願する。その様子と常盤の美しさに心

動かされた清盛は頼朝の助命が決定していたことを理由にして今若、乙若、牛若を助命

たとされている。”

・・・そう、この根付は、常盤御前の逃亡時の姿を彫ったもの。 乳飲み子は、数え年2

歳の牛若丸、後の源義経。・・・こんなことは江戸時代の人にとっては常識だったのでし

う、でも、昭和生まれのワタクシには調べないとお手上げ 

高さ6cmほどです。  なんと細かい手技!

 

 

<人麻呂牙彫根付>

万葉の歌人、柿本人麻呂がモチーフ。 国芳の浮世絵に、このポーズに似た人麻呂が描かれていた

ので貼っています。 かなり、ジジーに描かれているので、格調高い和歌のイメージが、少し(´σ_` )

 高さ3.9cm

 

 

<親子亀牙彫根付>

親亀に子亀が2匹乗っている姿です。 高さ2.5cm。 奥の子亀がぼやけました。

 

 

<面寄牙彫根付>

お多福?の面が妙にリアル。    長径3.6cm

 

 

<蜆採木彫根付>

シジミは江戸時代、みそ汁などで朝食の定番。 江戸では多摩川河口の羽田付近で、良質のシジミが採れた。

独特の腰巻漁(爪のついた籠を腰で引いていく漁法)もあるのですが、この根付は手で掬って採っています。

座頭市のようなシジミ採りおじさんの迫力!

高さ 2.4cm

 

 

<蛸壷牙彫根付>

象牙の質感が、タコにピッタリで、生きているように見えます。 これを腰帯に提げているのを見たら

ビクッだな。   高さ 5.2cm

今回の郷コレクションは、根付師「光広」を中心に展示されていました。

・光広または光弘(みつひろ)  文化七年~明治八年(1810~75)
姓大原。尾道に生まれ、大阪に住して牙彫をもって知られる。愚子、徳隣斎、切磋堂と号した。
(提物専門古美術商の堤物屋さんのWebサイトから引用)

 

 

いよいよ高円宮コレクションの紹介です。

コレクションが、トーハクで展示開始されたのは2011年11月。

私は、11月19日にトーハクに行って、5枚ほど撮影しました。

キャプション以下、5枚はその時のものです。

 

コレクション展示室は、2階の便殿と呼ばれる貴賓室の隣の部屋で、重厚な雰囲気があります。

でも見てください、この小ささ! キャプションの紙片よりも小さいので、キャプションも集合

表示。(おかげで作品とタイトルの照らし合わせが大変)

 

 

↑の下段、左から2番目の作品を何とか撮影して、拡大しました。

<ハンプティ・ダンプティ>

イギリスの伝承童謡(マザー・グース)の一つであり、また、その童謡に登場するキャラクターの名前

江戸・明治の根付とは、雰囲気が変わりますね。 高円宮コレクションは、キャプションにある通り

現代根付がメインです。

 

 

反対側の展示

以上が、2011年11月19日撮影分です。

 

 

ここからは、2021年6月16日(水)撮影。

<月の子>

見て、ドキッとしました。 文化が違うと、趣も相当に違う。

ロックの古典でキング・クリムゾンの1969年の曲に「Moon Child」があり、先ほど

聴いてみました。 月の子(少女の精霊)が漂い遊び、太陽の子を待つ・・・透明で

夢幻的な世界を感じました。 でも、この根付は、魔術的な要素を感じます。

 

 

 

<猫に鈴>

f:id:Melonpankuma:20170810174621j:plain
アッ、気付いてる!
                         ↑は、はてなブログの「常温常湿希望」(2017-09-08)さんから拝借しました。

 

 

 

<桃の節句>

 

 

 

 

 

 

<鯉>

 

 

<馬>

英国の作家です。 シンプルだけど馬の頭部と前足を感じます。

 

 

<ねこ、[緒締] ねこ>

緒締とは、袋などの口にまわした緒を束ねて締めるための具。


 

 

<ピーマンにてんとう虫>

作品はかわいいけど、ピンボケ写真だなと思って、カメラのExif情報を調べると望遠200mm、シャッター速度1/200秒

手振れ補正もONだし?  絞り開放で、ピントがピーマン表面の光の反射点になっているので、前後がボケたのか?

影の声:ボケたのはおまえの頭だろ・・・( ᵕ_ᵕ̩̩ )

 

 

 

<チェシャーネコ>

最初、読み間違いをして、チャーシュー猫と思い、チャーシューにお尻から飲み込まれている

シュールなイメージに浸っていました。

ルイス・キャロルの小説『不思議の国のアリス』(1865年)に登場する架空の猫なんですね。

 

 

<かちかち山>

キャプションに”動物めぐり”とあるのは、東博で「鳥獣戯画展」が開催されていて、それにちなんで

動物モチーフの作品に付けられていました。 私は「鳥獣戯画展」は予約が取れず、ヤケクソで本館

ほかの作品めぐりに勤しみました。

 

 

 

<海底火山の幽霊>

奇妙なタイトルです。 英語タイトル直訳だと海底火山、作品には目玉のようなものがあるし???

海底の噴気孔に棲む、生物のイメージ?

 

 

以下の作品は、作品番号を撮影画面に入れてないため、作品とキャプションの対応が

不明なものです。 色々調べて、なんとか推測して対応させましたが、自信の無いも

のもあります。

<けものみち>

<けものみち Animal Trail > 小野里三昧  2001年

 

 

<猿>

<猿 Monky and Yong>  鈴木玉昇 1989年  象牙  

 

 

<見えるの 次の世紀> 

この作品が特に自信がありません。 消去法で選んだキャプションですが、このタイトル名が・・・

表情はかわいい。 次の世紀を見ているのかなー?

<見えるの 次の世紀 Seeing the 21st Century> 立原 寛玉 2000年  象牙

 

 

<申>

<申 Monkey>  阪井正美 1994年  黄楊

 

<達磨>

<達磨Daruma>  宮澤宝泉 1998年   象牙

 

さて、根付を調べるのにとても参考になったのが、和楽webサイトの

【東京】この龍何センチに見える?細密彫刻「根付」を見るなら東博の展示がマスト!

記事を書いたのは 石水 典子さんで、東京国立博物館 学芸研究部調査研究課工芸室 研究員の福島修さんに

インタビューした興味深い話がでていました。 以下、内容を抜粋して、抄録を作ってみました。

★1971年に米国の根付コレクターであるロバート&ミリアム・キンゼイ夫婦が訪日し、当時の作家たちに
輸出するために求められた古典の写しである根付の制作ではなく、現代的で個々の作家性を発揮した根付
を作るように助言。「現代根付運動」が起こり、今の現代根付が作られるようになった。実用的に必要と
されない時代に移行しても、国内外のコレクターたちに注目され続け、作家もその期待に応えたことで、
根付は今も残っている。

★郷コレクションは、1つの箱に関連する作品が集まっている。展示によっては、その時々のテーマに沿
った選定をすることがありますが、郷コレクションの場合は箱それぞれにテーマ性があるため、それに準
じた選出をしています。 箱によって作品数は異なるため、例えば同じ作者の作品を集めた箱の内容をベ
ースにするなら、その作者に関連する作品を別の段から数点ピックアップしたものを合わせて展示してい
る。

★郷コレクションの中心となっているのが、江戸時代に出版された刀装具などの細密工芸の名工を紹介す
る手引き『装劍奇賞(そうけんきしょう)』に掲載されている根付師のものだといいます。
大坂の刀装具商で雑貨商だった稲葉新右衛門(1740〜1786)によって書かれた。

★『装劍奇賞』は、根付の職人が載っている最古の文献です。郷コレクションは、それに出ている作家の
作品が中心になる。郷氏は、『装劍奇賞』に紹介された根付師とその周辺、あるいはその系統の作品を1
つの箱に収めようとされていて、体系的に良いものを集めようという意図が伝わってくる。

★東博の高円宮コレクションは、高円宮憲仁親王殿下が妃殿下と蒐集したコレクションから寄贈されたも
ので、内容は現代根付が250点と古根付が10点。本館にある高円宮コレクション室に展示されている。
1回に展示される数は50点で、年に4回展示替えが行われている。

★古根付には黄楊(つげ)や象牙が使われていることが多いのに対して、現代根付は素材が多様。さらに
海外の作家による作品も多いことは同コレクションの特徴。

★現代根付は色彩が幅広いですし、根付作家がさまざまな素材を『どう生かして使おうか』と腐心してい
る様子が伝わってくる。

★タイトルの付け方も気が利いていて、根付を見て作品名を見て、また根付を見るとそこで初めて合点が
いくといった意匠の面白さがあり、江戸の根付の『ひねり』に時代性を反映させ展開していった感じがす
る。

★根付の特徴の一つで、特に殿下が惹かれたという意匠の中に言葉遊びや洒落を忍ばせる「ひねり」。
作者が仕掛けたその「遊び」を造形から探し出すことも、根付鑑賞を面白くするポイントです。
今とユーモアの感覚が近い現代根付の方が、見ていてクスッと笑ってしまう頻度は高いかもしれません。

★殿下が根付を蒐集されるようになったきっかけですが、後の妃殿下である鳥取久子さんが1984年に殿下
を根付の店に連れて行かれたことが始まりだったとか。その日以来、殿下は根付に魅了され、集められる
ようになりました。

★現代根付には、ワシントン条約締結後に象牙の使用が難しくなり、代替品としての素材が模索されるよ
うになった厳しい時期もありましたが、その際も両殿下は根付作家に支援を行っておられました。

★根付は消えていってもおかしくない存在でした。根付は現代では必ずしも不可欠なものではないのに、
伝統文化として存続しています。職人にとっても非常に苦しい状況のなかで、一部の志ある方々が頑張っ
て存続させてきた世界ですから、両殿下が関心を持って根付の存在を広められてきたことは大変に意義あ
ることと思います

★根付作家の制作に多大な影響を与えてきた両殿下の高円宮コレクション。ひねりのある意匠や、現代根
付以降に用いられるようになったマンモスの牙の化石やマボガニー、タグアナッツといったバラエティー
に富んだ素材などに着目しつつ、蒐集されてきた背景も想像して鑑賞すると、きっと両殿下の根付に対す
る愛情も伝わってくるはずです。

★江戸時代の根付は、江戸文化の文脈で語られるべきもので、現代の我々の文化とは少なからず隔たりが
あります。現代の感覚で共感できるものもありますが、当時必須の教養や流行に親しんで初めて理解でき
るものも多いです。古根付と現代根付は全く違う背景で制作された別物として見るべきと思いますが、技
術的には古根付の延長線上に現代根付は生きています。造形として近いものがあるからこそ、両者それぞ
れの優れた発想のかたちが、全く違った感覚で表現されていることが見えやすい。ぜひ、見比べることで
感じていただきたい。


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6 コメント

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いいですね! (tsubone)
2021-08-24 20:22:22
もう一度詳しく見たいな~と思っていた東博の根付シリーズ
解説とともに取り上げてくださり嬉しいです

郷コレクションでは 常盤御前とタコつぼ

高円コレクションでは 月の子とけものみち が気になりました 家に持って帰りたい

こういう小さい中にも技術を秘めててシャレも効いててオサレで可愛いものって日本人得意ですね
また良さに気づいてコレクションしてくださり、こうやって公開してくださる方々に感謝です

こういうのって実際生活の中で使いたいとも思いませんか?
一時携帯ストラップって流行ったけど今は使えないしな~ 
ブローチとしても服を選ぶしキーホルダーが一番無難な使い方かな? と思いました
unknown (遅生)
2021-08-24 22:26:14
これだけの名品が一堂に揃うと、壮観ですね。
しかも、それぞれが個性的に、それぞれの世界を表しています。

私も駄品を数個もっていますが、手の上で転がしていると、駄品は駄品なりに愛着がでてきます(^.^)
tsuboneさんへ (te-reo)
2021-08-25 11:07:09
根付、楽しんでいただけて、こちらも嬉しいです。
「月の子」は私も、デスクに飾っておきたいと思い
ました。・・・厄除けに効きそう?

この小さなオサレな世界を、実生活で使えれば、確
かに面白そうだし、作品の更なる発展にもなるでし
ょうね。・・・使い方を私も考えてみましたが、難
しい・・・悩んでネツキが悪くなりそう。
遅生さんへ (te-reo)
2021-08-25 11:20:35
”それぞれが個性的に、それぞれの世界を表していま
す”・・・おっしゃる通りですね。 私も、目が開い
た思いです。

遅生さんの所蔵作品、手のひらの小宇宙を楽しんで
おられる様子が、よく伝わってきましたよ。
精密でユーモラス (越後美人)
2021-08-26 15:36:25
美しいものあり、愉快なものあり、職人さんたちが腕を揮いながらも
楽しんでいる様子がうかがえますね。
象牙は分かりますが、中にはマンモスとうのもあって驚きました。
タコと蛸壺のはどこでも話題をさらいそうですね。
猫に鈴をつけるネズミさんのも可愛いですね。
でも、猫は気づいていてにやりとした感じのもいいですね。
チャーシュー猫のところで爆笑しました~(^^♪
越後美人さんへ (te-reo)
2021-08-26 17:03:36
根付の幾つかは、越後美人さんのツボにはまったよ
うですね。(^-^)
マンモスは私もエー?と思いましたが、今、象牙は
ワシントン条約で、使用が難しく、古代のマンモス
牙の化石なら、使えるというのが逆説的で面白いですよね。

チャーシュー猫は、ブログ記事を書くまで、そう思
っていたのです。 間違いが分かってショボンでした。

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