ニセコのダチョウ牧場(第2有島だちょう牧場)

ダチョウの孵化から解体まで行い、命を頂く事、牧場を営む事で得た、学びや気づきを記録しています。

学生さんに伝えているダチョウ産業のこと1 飼料について

2020年12月25日 | 日記

餌を与える学生さん達

農業やダチョウ産業について学びに来てくれる学生さん達に体験してもらいながら伝えている内容ですが、実際に作業しながら限られた時間の中で説明するので伝えきれないことが多く、ブログに書いておくことにしました。読むのに時間はかかりますが、伝えたい内容なのでぜひ読んでみてください。


2019年の食糧自給率は38%でした。

今回はこの中で、お肉についてスポットを当ててお伝えします。

まず、日本国内で消費されるお肉の50%強が外国産であり、国産のお肉を生産するための飼料もほとんど輸入に頼っています。

飼料自給率を加味したカロリーベースの食料自給率では日本の畜産物は13%と言われています。

牛肉は9%、豚肉は6%、鶏肉は8%、鶏卵は12%、牛乳・乳製品は25%となり、ほとんどの畜産物が外国産か外国の飼料が無くてはならない状況です。

これは戦中戦後、食糧難にあえいだ反省を生かせていないことを表していて、改善が求められる状況であると思います。

人間用の米が余っているので、飼料用の品種を植えることや休耕田で飼料用米を育てることを国は推進していますがあまり芳しくありません。農業制度の問題や補助金に依存した農業経営の実情について考えることが必要な問題ですからぜひ興味を持った方は調べてみてください。

ただ、牛肉1kgの生産の為に11kgのトウモロコシが必要であると言われており、世界の中で飢餓人口が6億9000万人に及んでいる中で日本人が肉を食べるために世界中からどれほどの穀物が集められ、利用されているのかについて考えると、日本の土地や資源を有効に活用できていない現状は憂慮するべきだと思います。

外国産の肉がどのように作られているのかを知ることや外国産の飼料がどのように作られているのかも知ることが大切だと思います。

私は昔、アメリカの西海岸へ旅行に行った際、巨大な水路をいくつか見ました。

西海岸は巨大な乾燥した大地に地下水をくみ上げて灌水する農業を行い、大豆やコーンを作っていました。そこに膨大なエネルギーや資本が費やされていること。そして、そのコストに見合う以上の利益がもたらされていることを感じました。

山の上に水をくみ上げて、落下エネルギーを利用して灌水する設備(2014年撮影)

コーンは人間の食糧になるのはもちろんですが、飼料や異性化糖、バイオエタノールの原料にもなる、とても価値がある物です。アメリカの遺伝子組み換え技術や、それに適した農薬を使用することで連作することができ、タンク一杯に黄色いコーンが詰まっている様子と富の生み出される様子を合わせて現代のゴールドラッシュのようだと言われることもあります。飼料として輸入されるトウモロコシは遺伝子組み換えであるかどうかは判別されず、残留農薬の基準にも疑問を呈されることがあります。

また、アメリカ産の牛肉はこうした穀物で育てられ、日本人の味覚に合う牛肉として、大量に輸入され消費されています。

次にブラジルの森林伐採が地球温暖化の問題と密接にかかわるとして、取り沙汰されることが増えていますが、伐採されたり、焼かれた後に作られた土地が牧草地や放牧地になる場合に加えて、飼料用の大豆畑になることもあります。ブラジル国内で消費される飼料にもなりますが、飼料用の大豆粕として日本にも入ってきます。ちなみに日本でよく食されるブラジル産鶏肉の飼料には焼き畑で作られた大豆畑から作られている大豆が飼料として与えられている点も知っておくことが必要です。

穀物商社が世界中から安く、効率的に原料を集め、配合された飼料は栄養価が高く、流通も整っているため、我々農家は安く手に入れられます。また、長期保存できて、ペレット状になっているので簡単に与えられます。

定期的な収入が見込めるため、飼料会社も積極的に営業しており、タンクの設置などもおこなってくれます。

さらに、飼料会社が様々な原料を混ぜて固めたペレットの周りを糖蜜がコーティングしており、動物が喜んで食べるように味付けされています。私も食べたことがありますが、ほのかにコーンフレークのような香りがして美味しいです。これは飼料に食いつきを良くして、飼料をたくさん食べさせる工夫であり、飼料以外のものを結果的に食べなくさせてしまう弊害があります。本来草食で粗食にも耐えられる家畜が、早く大きくしたいという市場経済的な理由からその能力を生かせなくなってしまいます。

先ほど挙げたアメリカやブラジルの例は一部の話であり、飼料を大量生産、消費し、お肉にして、世界中に届けるまでの間で地球環境に与える影響の大きさは甚大です。2013年に国連農業食糧機関(FAQ)が出した報告によると、世界の温室効果ガス排出量の14%は畜産業であると言われています。飼料の栽培や輸送、化学肥料の利用などを通して、飼料を作っている国のCO2排出量が高まることを他人事のように考えないことが大切です。

地球温暖化やそれに伴う環境の変化は常に自然を相手にする我々農家が当事者として真摯に受け止めなくてはならない問題であるとともに、配合飼料を安易に使い続けることを考え直さなくてはならないと考える理由です。

農家が配合飼料を使い続けることを見直さなくてはならない理由の一つに、肉を食すこと自体が徐々に忌避される時代が来ていることが挙げられます。

皆さんも培養肉や植物性たんぱく質だけで作られたお肉、昆虫食といったものをご存じではないでしょうか。これは動物性たんぱく質を作ること、摂取することへの忌避感を持つ人々や環境に配慮した食生活を推奨する機関が増えていることにも関係しています。

代替肉市場は2013年には151億円から2023年には336億になると予想されていて、また、アメリカのある機関が出した報告書によると、2040年には世界の食肉の内60%が培養肉や植物性の肉になるという驚きの試算もあります。

環境保護の視点に加えて、アニマルウェルフェアの視点も含めてこの消費者の変化について説明したいのですが、と畜場の説明や和牛の生産方法について話しながら学生に伝えている内容と被るので、次の機会にブログでまとめたいと思います。

さて、ここまで長くなりましたが、これからはダチョウ産業を続けることの意味について説明してみたいと思います。長い話を読んで疲れた方はこのあたりで一回休憩されることをお勧めします。だいたいの学生さんも私の話を聞くことに疲れてしまう頃ですから(笑)

 ダチョウという動物は鳥類でありながら23mという長い腸を持ち、36時間かけて栄養を吸収します。年間降水量が200ml以下の水が少ない砂漠のような地域で、他の獣が乾季で去った頃卵を温め、孵ります。その時に何を食べているかというと、他の獣の乾燥した糞や他の獣が食べられないようなものです。

 その消化能力を表す指標として良く使われるのが1kgの牛肉を得るために11kgのエサ(トウモロコシ)が必要だがダチョウ肉は3kgで良いというものです(豚6kg、鶏4kg)。しかし、その指標に加えてダチョウの高い消化能力を生かし、産業廃棄物として処理される食品残渣やビール粕やおからといった副産物を利用することで、配合飼料を使わない、環境に負荷をかけない農業をすることができます。

私がダチョウの飼育にかかわり始めた当時は配合飼料100%で育てていました。そこから、徐々におからや野菜くず、ビール粕などを与えるようになり、正確には分かりませんが配合飼料は20%~40%程度になりました。そして、その頃よりも自然に死んでしまうダチョウも減らすことができました。これは配合飼料だけでは、彼らの要求する繊維の要求量に応えられなかったため、おからや草を食べさせることが効果的であったと考えられますし、飼養状況も改善したためであると思います。またこの牧場では、夏季に終日放牧することで、牛が食べない雑草などもいつでも摂取し、エネルギーとして利用できるため、与える飼料の量を削減できます。

ダチョウはこの牧場の放牧地のように広い環境で放牧すれば、危険を察知し逃げる能力を生かせます。また大きいため、他の動物に狙われないこともあって、労力をかけないで育てられます。

結果、本来畜産が持つ「人がエネルギーに変えられないものをエネルギーに変えられる機能」を最大化することができます。

副産物や産業廃棄物を利用した酪農のことを高度経済成長期頃は「カス酪」と蔑むことがあったそうです。もっと昔は副産物や産業廃棄物を集めてきて、煮て、豚の餌にしたり鶏のエサにすることが普通のことであり、理想的な循環型社会が作られていたのですがどうやら大量生産、大量消費が貴ばれた高度経済成長期を経て、循環することの価値が忘れられたようです。

学生さん達には「カス酪」と呼ばれて蔑まれた昔の農業の価値を再発見していただき、未来に生かしていただきたいと私は考えています。

おからやビール粕といったものは水分が多く腐敗が早いので扱いが難しく、匂いや汚れ、重いなどのデメリットがあります。しかし、そういったデメリットを補って余りある価値が、これからも高まっていくことを予想しています。

地球の人口が増え、食料難にあえぐ人々がいる中、肉を生産するために地球環境を悪化させながら穀物を生産する国から買い、生産することが、道義的にも現実的にもいつまで続けられるのかは誰にも分かりません。

最近のニュースですが、日本では飼料用の大豆ミール(大豆油の搾りかす)を中国から輸入していましたが中国国内の配合飼料(主に豚肉用)の為に輸出を減らしているため、国際相場価格が上昇しているそうです。小さなニュースですが、私はこれまで通り、日本が世界から買い集めることができると思っていてはならないということを感じました。

サスティナブルやSDGsといった言葉が最近は良く聞かれますし、学生さん達も授業などを通して勉強されています。皆さんが学ばれている姿勢や皆さんに伝えるにはどうすれば良いか考える中で、私も刺激を受け、しっかりと勉強させてもらえて、本当に有難いです。

私たちや学生さん達の未来のために何ができるのか考えたときに、私の携わるダチョウ産業が社会全体に与えられる影響は数字にすればちっぽけなものです。けれども、学生さんたちに私の知っている僅かな知識とだちょうさんのことを知ってもらえれば何かにつながると信じています。そして、これからの日本や世界を少しずつ良い方向へ変えていくことができると信じています。

今回は飼料についてまとめましたが、今度はアニマルウェルフェアやと畜の方法とその理由や考え方について記したいと思います。

ここまで長い文章を読んでいただいてありがとうございました。なお、学生さん達にいつも言うのですが、私の書いたことを決して鵜呑みにして信じ込まず、自分で調べて考えて、判断してください。

知識や情報は限りなく世界にあって、私の考えが間違っていないはずがありません。万有引力を発見したアイザックニュートンでさえ以下のように言っています。

「私は、海辺で遊んでいる少年のようである。ときおり、普通のものよりもなめらかな小石やかわいい貝殻を見つけて夢中になっている。真理の大海は、すべてが未発見のまま、目の前に広がっているというのに。」

こんなに長い文章を読まされて、最後にこんなことを言われると嫌になってしまうかもしれませんが、きっと学生さん達も私がべらべらとしゃべり倒すのを聞かされて最後に私を信じないでと言われてしまうので、かなりびっくりしてしまっていることでしょう。ですが、本当に未来のことは分からず、世界が思ったようにならないということだけは分かるので、このように言ってお茶を濁すことにしています。

次回はアニマルウェルフェアや屠畜の方法、世界の消費者の意識の変化とそれについての考察等についてブログにまとめたいと考えています。今まで読んでいただいてありがとうございます。次回もお楽しみに。



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