*** june typhoon tokyo ***

脇田もなり @月見ル君想フ


 心からの快哉の声を響かせたメモリアルなステージ。

 脇田もなりはある意味わがままな人なのだと思う。そういうと多くの人がネガティヴな感情に支配されるだろう。2017年の『I am ONLY』から『Ahead!』『RIGHT HERE』と毎年アルバムをリリースし、順風満帆な活動ぶりを見せていたが、未曽有のパンデミックに苛まれることに。その影響で、一気にペースダウンという印象は否めなかった。イヴェントでは「(新曲を出さないから)いなくなっちゃったと思っている人もいるかもしれないけど、曲は作ってます!」などと自虐的に笑いをとったりもしていたが、以前、シンガーとしての道を諦めなくて良かった、ライヴが出来なくても音楽を作っていきたいと語った割には、新曲のリリースもなかなか届かず、重い腰が上がらないと感じたファンも少なくなかったのではないだろうか。

 一方で、自身が納得した言葉や音楽で想いを伝えられなければ意味がない……というような譲れない信条みたいなものを強く感じる。リリーススケジュールやプロデューサーの意向ありきで楽曲をリリースすることも可能だろうが、自らの意志に寄り添ってプロダクツを生み出していきたいという思いに抗うことは、性格上無理なのかもしれない。あくまでも自身もコントロールが難しい心持ちの問題ゆえ、常に新たなフェーズを期待してしまうファンにとってはやきもきさせられるが、他から見ればマイペースに見えても、心身が乖離せず、自身が自然と歌への強い意識が生まれた時こそが、彼女ならではのベスト・タイミングということ。歌を歌いたいというポジティヴな想いが内から溢れ出してきてはじめて、歌に魂が宿る=自身が心地よく歌を歌えるということを無意識にも覚えているのではないか。自身に嘘をついて、騙しながら歌うことは難しいと知っているから、なかなか身が入らないというようにも映る。裏を返せば、自身の心根に正直でないと歌えない。そういった意味での“わがまま”だ。

 そして、ようやくその波に乗り始めた。引き続き7インチアナログではあるが、8月に約1年2ヵ月ぶりとなるシングル「La Shangri La」を発表。リリース・インストア・イヴェントを経て、自身にとってメモリアルな日となる9月23日にソロ活動6周年を記念したワンマンライヴ〈MONARI WAKITA 6th Anniversary Live - SEXENNIAL CELEBRATION! -〉の開催に漕ぎつけた。〈HIGHBALL HOUR〉などの企画イヴェントはあったが、コロナの影響で1月のバースデーライヴが中止になったこともあって、ワンマンライヴは昨年9月の5周年記念ライヴ〈MONARI WAKITA 5th Anniversary Live - Gimme 5-〉以来、約1年ぶり。会場の東京・青山の月見ル君想フ、バンドメンバーのDorian、KAYO-CHAAANも引き続く形に。期待を抱いたファンたちが埋め尽くしたフロアには、開演前から熱気が漂っていた。


 拙ブログにおいてもところどころで言及していると思うが、3rdシングル「I'm with you」で脇田とハウス・チューンとの相性の良さを感じ取っていたから、リリース・イヴェントにて、スタイリッシュなヴァースと“Don't stop!”のコール以降のトランシーなハウス/テクノ・アプローチのアウトロが魅力なフロアキラー「La Shangri La」を聴いた際に、この楽曲を軸としたサウンドアプローチで全体を構成するのも面白いのではないかと考えていた。良くも悪くもヴォーカルに感情が入り込み過ぎて、時折その気負いゆえバランスを崩れてしまうこともあったから、ビートに導かれることでその気負いの不安を一掃し、よりシンプルにヴォーカルワークにアプローチ出来るイーヴンキックのハウス・トラックは、このタイミングでまさに渡りに船。ドープやアシッドといった幻覚性を伴ったハウス/テクノにも親和性を持ったアウトロの導入が新たな脇田もなり像を打ちだすことにもなっているゆえ、その流れを活かして既存曲を再構成するステージングならば、少なからず成功の予感も抱いていた。蓋を開けてみれば、1年ぶりの周年記念ワンマンライヴというメモリアルな位置づけ以上に、脇田のステージングに進化と加速を生み出した意義深いパフォーマンスとなったといえるのではないだろうか。

 その成果に大きく関与したのが、近年「エスパドリーユでつかまえて」「PLACE」「ONDO」などの楽曲を手掛けているDorianと、バンド・セット“Up & Coming”時代から参加しているキーボードのKAYO-CHAAANという、いわゆる“ドリカヨ”セット。2020年の〈Monari Wakita featuring House Set from "4get me not" 4th Anniv. Live Streaming〉や前年の〈MONARI WAKITA 5th Anniversary Live - Gimme 5-〉はじめ、これまでも同スタイルのパフォーマンスがあったから、まったく目新しいということはないが、よりクラブ・ユース仕様へと重心を寄せたものに。

 冒頭の脇田楽曲をパッチワーク的にリミックスした出囃子を兼ねたイントロダクションを経て、「遊星からのアイラビュー oh! oh!」から「IRONY」までをシームレスに繋げた4曲と、軽やかな上モノを仄かにアクセントにして、一度しっとりめに落ち着かせた「愛のデカダンス」からムーディなハウス・ソウル・アレンジの「FRIEND IN NEED」、伸びやかにヴォーカルが映えるキラー・アンセム「エスパドリーユでつかまえて」「PLACE」の連投までノンストップにまとめた4曲という2つのセクションもそうだが、“ドリカヨ”セットの手腕が最大に発揮されたのが、それから本編ラストまで一気に駆け抜けたロングタームのノンストップ・ダンス・リミックスだ。
 ワンマンライヴでは初披露となる「La Shangri La」のアウトロのマシンガン連打からのスペーシーな遊泳アレンジを経て「I'm with you」へのハウス・チューン繋ぎで幅広く空間を使い、ファンキー・ディスコ・マナーのハウスで推進力を高めていくと、イーヴンキックのビートとの深い親和性を帯びた「IN THE CITY」から本編ラストの「WINGSCAPE」への移行時にはKAYO-CHAAANの畳み掛けるサンプラーの連打でサイケデリックかつ刺激的な空間を創り上げていた。

 アンコールは、「なんの曲かな? カヴァーかな? みたいにポカンとした顔してたけど」とオーディエンスの反応を口にしていた新曲の「もなりの8ビート」(仮題)と「ONDO」の2曲を披露。歌を取る時の歌詞カードにメモ的に書かれていた「もなりの8ビート」というフレーズを仮題に採用したという「もなりの8ビート」は、脇田自身が作詞を担当した、capsule『NEXUS-2060』とかピチカート・ファイヴあたりのシャレたポップ・キュート路線の楽曲。本ステージの流れからすると異色で、作風的にもチャレンジングな一曲となりそう。こういったパステルな彩色で弾むサウンドは、ヴォーカルとの浸透性が意外と難しく、楽曲をしっかりと咀嚼しないとヴォーカルだけでは全体のバランスが崩れてしまうところもあるので、評価はこれからといったことになるだろうか。

 「これだけ踊ったから、最後は潤う曲で。みんな、清められて帰ろう(笑)」というフリから披露した「ONDO」は、本ステージ唯一といえるじっくりと聴かせるタイプのアクトに。音数が少ないメロウな楽曲ではしばしば気負うこともあるが、ここではハウス・セットからの流れを受けたアンコールラストという位置づけもあって、肩肘張らないナチュラルな“適温”の歌唱に終始。ステージでの心地よさが表情や歌唱にも表われた、脇田らしい伸びやかさを存分に湛えたパフォーマンスとなった。


 中盤のMCで「6年のうち最初の3年は猛烈に駆け抜けて活動していたけど、あと3年は動けなくなり、そのピークを越えたところで1回“無”になった」と語っていた脇田。おそらくその時には心から歌いたい、楽曲を創りたいと思うことが出来なかったのだろう。今年に入って「La Shangri La」のリリース・イヴェントでステージを重ねるうちに、心から歌うことが楽しいと思えたことで「(動けなくなった)3年はあってよかったかなと、ポジティヴに経験値が上がって過ごせたかな」と、心境が再び上向きになってきたようだ。冒頭で彼女のことを“わがまま”という言葉で表現したが、自らの心情や本音と周囲の思惑のベクトルが同じになれば、本来の資質以上のものを発揮するのも彼女の特色で、魅力でもある。サーフィンで波に乗る前に沖に出ようとする際は極めて慎重だったり、思い切りがつかなかったりするが、一度覚悟を決めて波を捉えると、高いアクションまでも繰り出せる……そんな風にも喩えられようか。

 アルバムの制作も進んでいるとのことで、どこか靄に包まれていた近年のブランクから抜け出し、ようやく晴れ間に差し掛かったようだ。グループで初めて歌い出してから10年を経過し、シンガーとしても成長期から成熟期へと移り変わる時期となる。自らの資質や才能を活かせる多角的なアプローチで新たなもなり像を生み出すような、ニューフェーズへの期待も膨らんだ、青山での一夜となった。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION~ Monari's Song Remixed Track by Dorian~
01 遊星からのアイラビュー oh! oh!
02 Cloudless Night
03 LED
04 IRONY
05 愛のデカダンス
06 FRIEND IN NEED
07 エスパドリーユでつかまえて
08 PLACE
~CLUB HOUSE & DANCE Non-Stop Mix SECTION~ 
09 LOVE TIMELINE
10 La Shangri La
11 I'm with you
12 Boy Friend(7”Live Mix) 
13 Callin' You
14 IN THE CITY
15 WINGSCAPE
≪ENCORE≫
16 もなりの8ビート(tentative)(New Song)
17 ONDO


<MEMBER>
脇田もなり(vo)
Dorian(syn, electronics)
KAYO-CHAAAN(key, sampler, perc)


◇◇◇

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