ミュージカル『蜘蛛女のキス』東京公演 2021.12.02マチネ

ミュージカル『蜘蛛女のキス』を観るため東京まで遠征してきました。

昨今ついに感染第6波の足音が聞こえてきたような社会情勢になってきたので少しハラハラしていたのですが、この演目だけは見逃したら泣いても泣き切れないので(汗)本当に遠征できてよかったです。

ミュージカル『蜘蛛女のキス』は私のこれまでの26年に及ぶ観劇ライフに一番大きな影響を与えた作品といっても過言ではありません。
1996年のアートスフィア(現在の銀河劇場)初演で出会った時の衝撃は今でも忘れられないほど。結婚前は東京で働いていたのですが、仕事帰りに初めて当日券を求めて劇場に駆け込んだ(つまりリピート)のがその時だったんですよねw。もう、居てもたってもいられなくなって、仕事が終わった後帰宅せずに劇場へ向かってしまったという(笑)。

その2年後の再演の時には最終上演地の仙台まで遠征したのも良い思い出です。結局初演と再演で9回観に行きましたw。そのくらい惚れに惚れた作品でした。
なぜ当時の観劇回数まで覚えているかと言いますと…、ブログを始める前に作っていたHPでめちゃめちゃ熱く語りまくってる記事が現在も浮いているからです(笑)。HPビルダーの大元をなくしてしまったので修正することもできず、今もそのままネット界をさまよっておりますw。

どれだけ熱く『蜘蛛女~』に情熱を傾けていたか興味がある方は以下のサイトをちょこっとのぞいてみてくださいw。

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そして…”日本最終公演”と銘打たれてしまった1998年公演から10年以上が経った2007年2010年、すべて新しく生まれ変わった『蜘蛛女のキス』が再び上演されました。もうそれが決まった時にはまたあの素晴らしい作品に再会できるのだという喜びで胸いっぱいになり張り切ってチケットを取ったのですが、あまりにも私がのめり込んだ時のものと変わり果ててしまったことに大きなショックを受けてしまい…、正直、もう私が惚れに惚れ込んだ初期の頃の『蜘蛛女のキス』には会えないのだという失望感のほうが大きかった。

同じ作品、同じ音楽でも、演出が変わってしまうと全く別のものになってしまうのだということを2007年と2010年の時に痛感させられたんですよね(苦笑)。あの時ほど「オリジナルを知らなければよかった」と思ったことはない(苦笑)。

※2007年と2010年の観劇感想のあるカテゴリ↓

そんな失望感に打ちのめされた観劇からまた約10年が経った今年、再び『蜘蛛女のキス』が上演されるというニュースが飛び込んできました。キャストも演出もまた大きく変わっての上演とのこと。でも最初それを知った時には前回のことがトラウマとなって残っていたため(苦笑)、正直すぐに食いつくのを躊躇いました。

が…、キャストは石丸さんがモリーナ、相葉くんと村井くんがWキャストでバレンティン、オーロラ・蜘蛛女が安蘭さんだと知って…、これは観に行かなければという気持ちの方が大きくなりました。さらに演出家さんが変わったと知ったことも大きい。今度こそ、初期の頃のあの雰囲気に戻れるかもしれないという漠然とした期待がこみ上げまして…、久しぶりにチケット複数買いwww。もうこれは賭けに近い心境だった(笑)。

結果…、複数買いしたことは正解でしたっ!!その感想はまた後ほど(笑)。とにかく、ものすごく安堵したという気持ちが大きい観劇でした。

この日はWバレンティンによるトーク動画が特典でついている日だったので、劇場の入口にQRコードのあるカードが置いてありました。再生できる日程は決まっているようなので、見れるようになる時が楽しみです。ちなみに、東京公演後半にも違うバージョンのトークが見れる動画があるのだとか。こちらも運良く観劇日になっているのでラッキーでした(里帰りという名の遠征日に当たっていましたw)。

以下、ネタバレを含んだ感想です。

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2021.12.02 マチネ公演 in 東京芸術劇場プレイハウス(東京・池袋)

主なキャスト

  • モリーナ:石丸幹二
  • オーロラ/蜘蛛女:安蘭けい
  • バレンティン:相葉裕樹(ダブルキャスト)
  • 刑務所長:鶴見辰吾
  • モリーナの母:香寿たつき
  • マルタ:小南満佑子
  • 看守・マルコス:間宮啓行
  • 看守・エステバン:櫻井章喜

アンサンブルさんはいくつかの役を掛け持ちで演じている方が殆どなのですが、その中でも印象的なキャラクターがいるんですよね。

看守の二人は全く個性の違うキャラクターだったのがとても印象的でした。間宮さん演じるマルコスは口数が少ない分何を考えているのか分からない「静」の恐怖を感じます。対する櫻井さん演じるエステバンはとにかく体格と大きな声で相手を威圧するタイプ。まさに「動」の恐怖。それぞれ明確にキャラクターが分かれていて面白かった(役柄的にはとにかく残酷で怖いんですが 汗)。
そんな二人がモリーナの妄想世界の中では全く違う顔を見せるんですけど、これが現実のキャラとは180度違ってめちゃめちゃ可愛い(笑)。ここは見所の一つだと思います。

伊藤広祥くんが演じたのはモリーナの想い人のガヴリエル。モリーナの中では彼はとても優しくて気遣いのあるジェントルマンなんだけど、現実はそれとは違っていた…というのが判明するけっこう重要なキャラです。髭姿がとてもダンディでお似合い。妄想の中と現実との演じ分けも繊細に演じられていてとてもよかった。
藤浦功一さんは初代トートダンサーを演じたベテランダンサーさん。そんな藤浦さんが今回演じたのがモリーナの親友のアウレリオ。彼はめちゃめちゃお喋りで陽気なトランスジェンダーなのですが、自分の境遇を諦めたように受け入れてる暗さみたいな部分もある。モリーナと再会した時に彼が変わってしまったと嘆く場面はとても印象的でした。

そしてこの作品でとても重要だと思うのがオーロラの男たち。モリーナの描く世界の中のオーロラを盛り立てる屈強のダンサーたちなのですが、みなさん、囚人も演じられているのでとにかくパワフルで見応え充分です!!彼らの存在あってこその『蜘蛛女のキス』なんだと改めて実感しました。

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あらすじと概要

原作は、アルゼンチンの小説家・マヌエル・プイグによる小説『蜘蛛女のキス』です。一番最初のこの作品を知った時には”タイトルが見る人を遠ざける可能性もあるんじゃないか”と思ってしまったものですが(汗)、原作と同じ名前なのだからここはもう仕方がない。英語読みの「Kiss of the Spider Woman」だとけっこうカッコいい感じになるんですが、日本語だと訳すのも難しいものですね。

マヌエル・プイグ (著), 野谷 文昭 (翻訳)

私は小説は読んだことがないのですが、シナリオのように殆どがモリーナとバレンティンの二人の対話で構成されているのだそうです。

1981年には原作者のプイグが自ら戯曲化してのストレートプレイとして初上演。日本では1991年~1992年に村井國男さんのモリーナ、岡本健一さんのバレンティンで初演・再演されました。その後もキャストを変えながら数年置きくらいに上演されていますね。

1985年には映画化されました。こちらをご存じの方がもしかしたら多いかもしれません。

ウィリアム・ハート (出演), ヘクトール・バベンコ (監督) 形式 Blu-ray

映画版は私も1度だけ見たことがあります。“蜘蛛女”はモリーナの語りの中でのみ存在するので実際には具現化されて登場しませんでした。ミュージカルと比べるとラストの描き方も違うし世界観もだいぶ変わってくるのですが、むしろこちらの方が原作に忠実なんだろうなと思います。
モリーナ役を演じたウィリアム・ハートさんのお芝居がとにかく素晴らしいので(アカデミー主演男優賞も獲ってます)興味があれば一度ご覧になってみてください。

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ミュージカル化されたのは1992年(2年前の19990年には非公開のお試し上演を行ったそうですが、散々な批評を浴びて計画が頓挫しかかったらしい 汗)、カナダのトロントで本格的に上演されました。同じ年の10月にはロンドンのウェストエンドに進出、翌年の1993年には念願のブロードウェイ進出を果たし900回以上のロングランを達成しました。
同じ年のトニー賞ではミュージカル作品賞、チタ・リベラの主演女優賞のほか主要7部門を受賞しています。

脚本はテレンス・マクナリー作詞はフレッド・エブ曲はジョン・カンダー初演の演出はハロルド・プリンス

ジョン・カンダーとフレッド・エブの作詞作曲コンビは『シカゴ』や『キャバレー』などの作品でも有名。日本では来年このコンビによるミュージカル『カーテンズ』も公演されます。演出のハロルド・プリンスは『オペラ座の怪人』が最も有名ですが、ほかにも『キャバレー』や『屋根の上のヴァイオリン弾き』など素晴らしい作品を手掛けています。

残念ながらエブさんは2004年に、プリンスさんは2019年に、そしてマクナリーさん(ミュージカル『アナスタシア』も手掛けられていました)は2020年にあの感染症が原因でこの世を去られてしまいました…。本当に無念でなりません…。カンダーさんは現在94歳で元気にご健在だそうです。これからも健康で長生きしていただきたい。

日本で初めてミュージカル『蜘蛛女のキス』が上演されたのは1996年。日本初演の演出は今は亡きハロルド・プリンスさん自らが担当してくださっていました。プリンスさんの手掛けた本場の『蜘蛛女~』を観ることができたなんて…、今から思うと本当に感謝しかありません。ちなみに訳詞は今は亡き岩谷時子さんが担当されていました。こちらも本当に贅沢だったとしか言いようがない…。

96年の初演と98年の再演で蜘蛛女・オーロラを演じていたのは麻実れいさん、モリーナを演じたのが市村正親さん、バレンティンを演じたのが宮川浩さんでした。この3人がとにかく本当に完璧でハマリ役すぎたので、今もその記憶が色濃くこびりついて離れません。そのくらいのめり込みました。

2007年と2010年に荻田浩一さんの演出で上演されました(これが私には全く合わなかったわけですが 苦笑)。また、2011年には奥山寛さんの演出で小劇場(シアターグリーン)で飯野めぐみさん、土倉有貴さん、麻田キョウヤさんの主要キャストで約1週間ながらも上演されていました。演出が変わったということもあり行きたい気持ちは大きかったのですが、残念ながら予定が合わず行くことができませんでした。

2021年、約10年ぶりの上演はホリプロさん制作。このバージョンならば、今後もう少し期間を詰めて上演していただきたいです。海外のオリジナルキャストのCDは現在品切れ中のようです…。素晴らしい楽曲揃いなのでなんとか再販していただきたい。というか、日本版を発売してほしい!!

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簡単なあらすじは以下の通り。

舞台はラテンアメリカの刑務所の獄房の一室。

映画を愛する同性愛者のモリーナ(石丸幹二)は、社会主義運動の政治犯バレンティン(相葉裕樹/村井良大)と同室になる。人生も価値観も全く違う二人。お互いを理解できず激しく対立するが、時を重ねるうちに次第に心を通わせていく。

モリーナは、心の支えである映画スター大女優オーロラが演じる蜘蛛女(オーロラ/蜘蛛女:安蘭けい)について語り、運命を支配するように、“彼女”は現れるようになる。

極限状態で距離を縮めていく二人。
モリーナは所長から、バレンティンに関する秘密を聞き出すよう取引を持ちかけられている。しかし、バレンティンへの想いから、モリーナは動かない。

ついに所長は、モリーナがバレンティンの仲間と接触することを期待し、モリーナを仮釈放にすることを決める———。

<公式HPより引用>

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全体感想

最初の方でも触れましたが、10年前の公演で初演時とはだいぶ違うアレンジをされたことにショックを受けた傷が未だに残っていたため、正直なところ、実際に今回のバージョンを見るまでは不安もかなりありました。演出家が変わったということで今度こそはと期待を込めて東京遠征を含めて複数回のチケットを購入したもののw、もしもあの時のようにモヤモヤだけが残ってしまったらどうしようとハラハラする気持ちも大きかったんですよね(苦笑)。

だけど、なんとなく、キャストの顔ぶれを見て…、今回こそは大丈夫だと信じる気持ちもありました。期待6割、不安4割といったところでしょうか(笑)。

結果…、もう、ほんと、おかえりなさいーーーー!!!な心境が一番大きかった。

全てが初演の頃に戻った…というところまでは正直いきませんでしたが、それでも、私が愛し抜いたあの時の”ミュージカル『蜘蛛女のキス』の世界観”が戻ってきてくれたというのはすごく思いましたね。安堵の気持ちと喜びの気持ちがもう一気にぶわーーーっと心の中に広がってしまって…ゴーゴー涙が溢れて止まりませんでした。もしかしたらあの劇場の中で一番泣いてた人になってたかもしれません(笑)。

ストーリーが、とか、演出が、とか、キャストが、とか、そういうところももちろん色々感じるところはあったけど、今回はもう、ただただ「帰ってきてくれた」という感無量な気持ちに支配されちゃったところが大きくて、いつものような観劇ができなかった気がします(汗)。

あと数回観劇予定もあるので、今回は少し抑えめに全体感想を書いてみたいと思います(たぶんww)。

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まずセットはハロルド・プリンス演出版で見たときの雰囲気にかなり戻ったなと思いました。

あの頃と違うなと感じたのは、蜘蛛女が囚人を追い詰めたりビッグナンバーを歌う時に出てきた舞台全体に広がった格子状の鉄網がなくなったことかな。
『オペラ座の怪人』のクライマックスシーンで怪人を追い詰めようと人々が鉄格子を降りてくるシーンが出てきますが、あれが舞台全面全体にドーーンと出てきた感じ。初演で最初にあれを見たときには本当に度肝を抜かれたのですが、あれはもう、プリンスにしかできない技だなと思います。予算的なこともあると思いますしね。

それ以外はオリジナルをあまり変えていないという印象が強くて、そこも個人的には本当に嬉しかったです。この作品については、あまりアレンジを加えると伝えたいことが変わってしまうところが大きいと思ってしまうので極力オリジナルに寄せたものにしてほしいという気持ちが強い。

暗く精神的に追い詰められるようなあの牢獄の空間があってこそ、この作品は輝くと思います。牢獄の格子の動きもとてもスムーズで、シーンによって形が変わるのも魅力の一つ。特に印象深いのは、バレンティンがだんまりを続けていることで狭い牢獄に囚人たちが押し込められる拷問を受ける場面です。
10年前に見たときは途中でバレンティンとモリーナが外に出てきてビックリしたんですが(汗)、今回はずっと牢の中に閉じ込められたままで正直ちょっと安堵しました。シーン的にはすごく極限状態で心が痛くなるところなのですが、そんな環境でバレンティンが想い人であるマルタへの愛を美しいメロディに乗せて歌うんです。そのギャップが本当に儚くて美しくてどうしようもなく心を打つ。そんな感覚を久しぶりに呼び起こさせてくれる演出で、本当に嬉しくて泣きました。

牢獄からモリーナが診療所へ搬送されるシーンへの転換も面白さの一つ。♪モルヒネタンゴ♪という独特のリズムと旋律がまた不気味面白いわけですが、暗くジメっとした牢獄が一気に妖しいファンタジーのような世界に様変わりするんですよね。
モリーナを治療する医師たちの動きも実に妖しく奇妙で、時にはメルヘンに見えてくる(笑)。ついさっきまで絶望感が漂っていた牢獄の世界とはまるで違う夢のような空間になるのがとても面白いです。

そんななかでモリーナは生死をさ迷うわけですが、苦しみはなくてむしろ極楽のような世界観が広がっている。さらに、モリーナ最愛の母親とのナンバーも入ってきたりして…、ここはもう泣けて仕方がない。見ている方の感情がとても忙しくなるのもこの場面かもしれません。

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ナンバーはどれも心を揺さぶる名曲揃いです。楽しくて思わず体が動いてしまいそうになるのが、モリーナが語る映画の世界で登場するオーロラの場面。オーロラ主演の映画に出てくる曲はどれもワクワク気持ちが高揚するものばかりです。特に南米特有のサンバのリズムが出てくる1幕ラストの極楽鳥の場面は必見。最悪の状況のなかで、全ての雰囲気を転換させてしまうようなすごく力のあるナンバーだと思います。

オーロラの映画の中で唯一とても切ないのが2幕の♪グッドタイムズ♪の場面。ロシアの女優の恋愛悲劇を描いていて、劇中劇とは思えないようなドラマチックで感動的な音楽が胸を打ちます。オーロラが演じるタチアーナが恋人と落ち合おうとするシーンのところは、実際に演じている後ろに大スクリーンで映画公開時のものとしての映像が同時に流れていました。モリーナがどんな映像を見たのかが一目瞭然で分かりやすく、個人的にはこの演出すごく好きでしたね。

『蜘蛛女~』ではこのほかにも本当に涙無くしては聴けないような美しい素晴らしい楽曲が盛りだくさん。久しぶりに心が震えまくって…こみ上げるものを抑えることができなかったですね。一つ一つ取り上げていきたいところですが、今回はまだ1回目観劇ということで次回以降に持ち越させていただきますw。
ただ、今回は観ながら96年98年上演時の記憶がまざまざと蘇ってくることも多かったのでナンバーを聴きながら当時の歌詞が被ってしまい思わず「あれ、ここの歌詞はこう変わったのか」とか比べてしまうことも(苦笑)。未だにあの時のセリフや歌詞が心の中に沁み込んでいるので、2021年版の言葉に慣れないというのも正直ありました。これはもう、慣れるしかないことなのでw、次回はもう少し集中して見たいなと思います。

それから楽曲の点でもうひとつ。改めて全体のナンバーを聴くと…なんと難しい曲揃いなのだろうと驚愕させられました。転調、不協和音といった一筋縄ではいかない音のなんと多いことか。先日残念ながら亡くなってしまったソンドハイムさんの音楽もそうとう難易度高いと思っているんですが、それに匹敵するほどだじゃないでしょうか。
キャストの皆さん、これを歌いこなしていますから(しかも感情をこめて)すごい、なんて言葉では言い表せない。かなり大変だったことは想像に難くないです。改めて、ミュージカル俳優って本当に素晴らしいなと思いました。

ストーリーの細かいところや、個人的に大好きな場面など…正直めちゃめちゃ溢れていて挙げればきりがないほどなのですが(笑)全体的な感想としては今回はこのあたりでとどめておこうかなと思います。次回はもう少し熱く書くかもw。

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主なキャスト別感想

石丸幹二さん(モリーナ)

初演と再演が市村正親さん、2007年と2010年が石井一孝さん、と錚々たる役者さんたちが演じられてきたモリーナ(未見ですが2011年は土倉有貴さん)。ついに、石丸幹二さんが満を持してこの役に!初めてそのことを知った時から、期待しかありませんでしたが…、もう、それ以上の素晴らしい存在感とお芝居でした。印象的だったのはとても自然体だったこと。無理にモリーナを作り込んだ感じじゃなくて、ごく自然にその場にいる感じ。全く違和感ありませんでしたね。

お化粧も奇麗でとにかく可愛らしい!愛に溢れている。でも一方では打算的な一面もあったりして…そのあたりの演じ分けも素晴らしかったです。それから言わずもがなですが…、歌のレベルが非常に高い!!柔らかいところは柔らかく、ドラマチックなところはドラマチックに、とにかくメリハリが効いてて感情を大いに揺さぶられました。

安蘭けいさん(オーロラ/蜘蛛女)

これまで色々な女優さんがオーロラ(蜘蛛女)を演じられていますが、私のなかで一番色濃く鮮明な記憶として残っているのは麻実れいさんでした。もう麻実さん以上のものを演じられる女優さんは現れないとすら思っていたこともあるのですが…、ここにいらっしゃったではないですかっ!!安蘭けいさんという素晴らしい女優さんが!!

いやぁ…もう、ほんと、最高でございました!麻実れいさんの雰囲気を見事に継承してくださっていた。それだけでもう感無量…。歌の力強さと繊細さの表現も完璧で魅了されたのですが、一番感動的だったのは”オーロラ”と”蜘蛛女”の演じ分けの素晴らしさです。
”蜘蛛女”はオーロラが演じた役柄の一つでもあるのですが、モリーナが唯一忌み嫌うキャラなんですよね。それ以外のオーロラが演じる女性はどれも華やかで時には楽しく、時には優しく寄り添う存在。だけど”蜘蛛女”だけは「死」の象徴として常に恐怖の対象であり続けるんです。この切り替えの芝居が、安蘭さん、実に見事でした!!

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相葉裕樹くん(バレンティン役)

今回バレンティンはWキャストとなっていて、相葉くんと村井良大くんが演じることになっていました。実は、チケットを最初に確保した時は日程ありきで予約を入れたため相葉くんの日がなかったんですよね(汗)。それで慌ててチケット買い足しまして、当初よりも回数が増えた次第でありますw。

相葉くんは最初はイケメン主流の少し線の細い若手の役者さんだなぁという印象がありましたが、レミゼでアンジョルラスを演じることになってからはグングン大人っぽさと逞しさが増して本当に良い俳優さんに成長したなぁと思います。今回のバレンティンはこれまで相葉くんが演じてきたキャラの中でも特にワイルド色が強いチャレンジ的な役だったんじゃないかな。

なにせ私の中のバレンティンは宮川浩さんの印象があまりにも好きで強烈に残りすぎてるので、観劇前は正直ちょっとまだイメージが湧かなくて少し線が細い印象かな、なんて思ってました。が、その不安は杞憂に終わった!相葉くん、すごいよ!!めちゃめちゃバレンティンだった!
たしかに私が大好きだった宮川バレンティンと比べてしまうとまだ迫力が足らないかな…なんて思ってしまうこともあるんだけど、それでも、革命家としての力強さや意思を曲げない屈強さは十分伝わってきました。それに、モリーナへ向ける感情の変化のお芝居がめちゃめちゃ萌える!!あれは相葉くんならではの味じゃないかな。もっと買い足したいという衝動に駆られるほど好きだった。

あと、歌がめちゃめちゃ進化してたのもビックリ!こんなに力強く歌えるようになったんだと衝撃受けました。レミゼはコロナで中止になって見れなかったので力強く成長した相葉くんに今回久しぶりに会えてとても嬉しかったです。まだまだ伸びしろがありそう。今後さらに進化していく相葉バレンティンに期待したいと思います(あと2回見れる予定)。

鶴見辰吾さん(刑務所長役)

刑務所長はこの作品の中で一番歌が少ない役なので、演技派の俳優さんが配役されることが多いイメージです。鶴見さんは重厚な役からコミカルな役まで素晴らしい演技力で演じてくださる俳優さんなので今回も期待していました。歌も、わずかながらもかなり難易度が高い曲を何とか乗り切られていましたね。

今回面白いなと思ったのは、所長さんの登場がほとんど下手の高所にあるスペースからだったことです。アムネスティインターナショナルの人物と対面する時も上の格子の部分だったし、下に降りるのは後半のクライマックスになってから。あれは高いところが苦手な役者さんは無理なんじゃないかと思えたほどw。
でも、いつも上から見下ろして刑務所内を支配するといった存在がとても分かりやすく、なかなか面白い演出だなと思いました。鶴見さんの演じた所長はあまり恫喝するタイプじゃなくて、静かに威嚇していくイメージ。時折強い口調になるときの恐怖はさらに増す感じで、このあたりの微妙なお芝居の演じ方はさすがだなと思いました。

香寿たつきさん(モリーナの母役)

これまでモリーナのお母さんを演じられてきた女優さんは年齢が上の方が多かったので、はじめ香寿さんがそれを演じると知ったときにはビックリしました。マルタだと思ったくらいだったので。一気に年齢が若返ったなぁという印象。

個人的にはモリーナのお母さんは初老の女性というイメージがとても強く、過去の公演もそうだったのでやはりちょっと慣れるまでには時間がかかるかなと思いました。石丸モリーナと並ぶと…親子というよりも姉と弟みたいに見えなくもなかったのでw。
でも、たぶん次回からは今回よりも受け止められるかもっていう確信はある。香寿さんの演じたモリーナのお母さんもとても慈悲深く、そしてすごくチャーミングだったんですよね。それがとても素敵で。モリーナの憧れの存在でもあるんだろうなというのが伝わってきました。そこからのあのクライマックスでの姿とのギャップの演じ分けもとても印象深かったので、次回も期待しています。

小南満佑子さん(マルタ役)

2007年と2010年公演の時のマルタがあまりにもすごいメイクでビックリ仰天した記憶があるのですが(過去の感想を参照w)、今回はナチュラルなメイクでホッとしました。

マルタは”ブルジョア”側の女性で裕福な家で育ったお嬢様という設定なのですが、美しい小南さんに雰囲気がピッタリでしたね。出番的には少ないのですが、常にバレンティンの憧れの的という雰囲気は十分でした。それに、伸びのある美しい歌声も素晴らしい!聴き心地がよくて、マルタの出番もっとあればいいのにとすら思いました。

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後述

ミュージカル『蜘蛛女のキス』は、私が死ぬ前に最後に見たいと思うだろうベスト3のひとつに入るほど思い入れの深い作品です。前回公演の時にはそれとは全く違う雰囲気になってしまったことがひたすら哀しかったのですが、今回あの時の心震えた世界観がまた戻ってきてくれて本当に嬉しかった。

今回演出を担当してくださった劇団チョコレートケーキの⽇澤雄介さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

石丸さん、安蘭さん、相葉くん、これから見る予定の村井くん、鶴見さん、香寿さん、小南さん・・・そのほかのキャストの皆さん、本当に最高でした。大千穐楽まであと2週間ちょっとの公演となりますが、皆さん体調に気を付けてぜひとも完走を果たしていただきたい!!まだまだ進化していくと思います。次回観劇がとても楽しみ。

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