flicker’s anthem shoot9「再会」

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shoot9「再会」

 

 

 激化するカード争奪バトル。その最中、ピンチになった千春を助けたのは行方不明になっていた椎奈だった。

「やっぱり、こう言う事に巻き込まれてるのね。千春」
「ドロシー!!」

 ずっと会いたかった親友の姿を見つけた千春は椎奈へ駆け寄って抱き着いた。
「もう!どこ行ってたの!?心配したんだからね!!」
「ごめん、どうしても気になる事があっていろいろ調べてたら私も面倒な事に巻き込まれちゃったみたいで」
 椎奈は淡く光るカードを千春に見せた。
「そ、それ!ドロシーもあの夢を!?」
 椎奈は千春からゆっくり離れると、ポツリポツリと語り始めた。
「……昔ね、お父さんの研究所にフリックス開発の依頼が来た事があったんだ。量子力学を駆使して、フリッカーの精神に感応して力を発揮する金属素材『サイメタル』を搭載したフリックスのね」
「サイメタル……?」
「その力を使いこなせれば、テレパシーやテレポーテーションと言った超能力紛いの現象も引き起こせる夢の素材。あの遠山フリッカーズスクールも、アクティブパワーを超える素材として注目した事があるほどらしいわ」

 遠山フリッカーズスクールと言えば、フリックス開発やフリッカー育成の大御所だ。そこが研究していたアクティブパワーは『フリップスペル』の元になったとも言われている。(初代ストーリー参照)

「ちょ、超能力!?そんな非現実な……」
「実際、他人の夢の中に現れたのはテレパシー、そして物質の転送はテレポーテーションのようなものでしょ?」
 そう言われては、千春はルナルチへ視線を落とすと頷くしかなかった。
「じゃあ、あの子はそのサイメタルを使うフリッカーって事……?でも、だからってなんでこんな事を……」
 夢の中に現れた少女の姿を思い浮かべる。言われてみればあの強さは椎名の言う事が本当なら納得がいく。
 しかし、それとこれとは全く繋がらない。
 千春の疑問に対し、椎奈は少し声をトーンを落としながら続けた。
「ここからはきな臭い話になるんだけどね。サイメタルは、フリッカーの中でも感受性の強い少女に感応して力を発揮するの。最も、超能力を発現するレベルまで引き出せるのはごく少数なんだけど……そのために、研究所は身近な少女フリッカーを集めて実験を始めたのよ」
「じ、実験!?」
「……私も参加させられた事があるわ。ただ、小さい頃の話だし、実験の危険性に気付いた父がすぐに研究から手を引いた事もあって忘れてたんだけどね」
「……そっか」
「話によれば、その実験は一見するとそこまで危険があるようなものではなかったの。ただ、実験に参加した少女達はサイメタルに感応した副作用で少しずつ身体か精神が蝕まれていったみたいで……」
「副作用……」

 そういえば、これまで会ってきた少女達はみなどこかおかしかった。
 大なり小なり実験の後遺症に苦しんでいて、それでこの戦いに参加していたのだろうか?

「ごめんね、すぐに伝えたかったんだけど。パパの研究所にサイメタル開発の残党がいたみたいで」

 ……。
 椎奈は、これまで姿を消していた理由を話し出した。
 それは数日前に遡る。

 事情を話し、父の研究所へやってきた椎奈は千春に撮らせてもらったルナルチの画像を見せた。
「これは……!」
 父は早速機械に分析をかけると、神妙な顔になり椎奈へ向き直った。
「まさか、悪夢は終わってなかったと言うのか……!」
「と言う事は」
「間違いない、サイメタルだ。テレパシーで夢の中に現れ、テレポーテーションで送りつけたのだろう。しかし、とっくに破棄されたはずの研究がなぜ今さら……」
「実はパパ……昨夜私の夢にもその少女が現れたの」
 そう言いながら椎奈はカードを見せた。
「なんだって!?」
「多分、あの子はあの研究でもっとも数値の高かった……」
「まさか、あの忌まわしき事故の……!」

 バギュン!!!
 その時だった、どこからか金属製のフリックスが飛んできてコンピュータへ直撃する。
「なに!?」
 振り返ると白衣を着た女性二人が機体を構えていた。
「君達は!浅野君に谷川君じゃないか!なぜこんな事を……!」
「助手ごっこはもう終わりって事ですよ、室長」
 浅野と呼ばれた色黒の女性が答える。
「ごぉめんねぇ、あたし達ぃ〜そのサイメタルの研究を依頼した組織の残党なのぉ〜」
 胸元を大きく開けたグラマラスな女性、谷川が甘ったるい声で離反を宣言する。
「な、なんだと!?」

「だってぇ、サイメタルの開発にはどうしてもこの研究所の施設が必要だったんですものぉ〜」
「だから身分を偽って研究所に籍を置いて、秘密裏にこいつらの開発を進めてたってわけ」
 二人は自身の持っている金属フリックスを自慢げに掲げ、そして椎名と父親に狙いを定めた。

「まぁ、まだ開発途中なんだけど仕方ないか。いくよ!フェルノカマエル!!」
「うふふ、ディサイシブメタトロン!いってらっしゃ〜い!」
 全身が金属のフリックスが二体襲いかかる。

「まさか、ボディ全てをサイメタルで形成しているのか!?」
「っ!ストーンアレイ!!」
 バキィィィ!!
 椎奈は咄嗟にストーンアレイをシュートして二体の軌道を逸らす。
 しかし、その衝撃でストーンアレイは砕けてしまった。

「あらあらぁ、勇ましいお嬢さんねぇ〜」
「でも、そんな機体じゃ私らには太刀打ちできないよ」
「せ、性能差がありすぎる……!」

「さぁて、この研究所ともおさらばね」
「でもぉ〜、まだ未完成だけどどうする〜?」
「また別の研究所に潜り込んで開発を進めれば良いでしょ、ここまで進めばあとは適当な場所で十分」
「こ、こいつら……!」

「パパ!椎奈を連れて逃げて!!」
 バッ!
 研究室の扉が開かれて、またも別の白衣の女性が入ってくる。
「ママ!」
「お前、どうして……」
「ちょっと、嫌な予感がしてね……本当は、もう手に取りたくはなかったんだけど、やっぱり逃げられないのね」
 その女性は椎奈の母親らしい。手には金属製のフリックスを持っている
「そういえば、お前もサイメタルと感応してたんだったな」
「少女って年齢じゃないから、大した力はないけどね」
 母親は自虐ぎみに笑った。
「いや、お前はいつでも若く美しいよ」
「言ってる場合じゃないでしょパパ……」
「そうだった!椎奈、こっちだ!緊急脱出口がある」
「でも、ママが……!」
「大丈夫、ママは強い。少しでも時間が稼げればガードシステムも作動する。私達がここにいる方がかえって邪魔になるだろう」

 そう説得し、父と椎奈はともに駆け出した。

「逃がさないよ!」
「いいえ!あなた達の相手は私!いけっ!マルクトシェキナ!!」
 母の使うフリックスは前後マスダンパーの効果によって凄まじい衝撃波を発生させて浅野と谷川の行方を阻んで。
「くっ!」

 そして、脱出口から研究所を出た椎名と父。
「椎奈、これを」
 父は椎奈へ紫色のボディに四本の金属柱が備え付けられた機体を差し出した。
「これは……!」
「本当は渡すべきではないのだろうが……きっと必要になるはずだ」
 椎奈は頷いてそれを受け取った。

 ……。
 …。
 回想終わり。

「そんな事があったなんて……大丈夫だったの?」
「うん、しばらくゴタゴタしてたけど、残党達は警察へ引き渡したし。そっちの方は大丈夫。それよりも問題なのは千春……ううん、このカードの方だよ」
「そっか、それとこれとはまた別だもんね……」
「行こう千春!こんな戦い、早く止めなきゃ!」
「え、行くってどこへ?」
「この戦いの主催者の所よ!」
「えぇ!?」
「説明は道中でするから、早く!」

 椎奈は千春の手を取って駆け出そうとする。
 しかし、そんな二人の目の前に立ちふだかるようにモヤが現れ、それは少女の姿となった。

「っ!」
「出たわね……!」

「戦いの放棄は許さない」

 

   つづく

 

 

 

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