物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

オッペンハイマー

2023-01-30 12:48:14 | 物理学

これは雑誌『燧』という雑誌に「ドイツ語圏世界の科学者」というタイトルで掲載したものの(6)である。

 (6)オッペンハイマ― (J. R. Oppenheimer  1904-1967)

中部ドイツを流れるライン河が北から西へと大きく折れ曲がり、マイン川と合流する地点にあるマインツから南に20kmほどのところにオッペンハイムというワインの産地として有名な小さな町がある。この地がオッペンハイマーの父祖の地であるかどうかは定かではないが、明らかに彼はドイツ系のアメリカ人であり、若くして黄金時代のゲッティンゲンに学んだ。

オッペンハイマーの名はマンハッタン計画と呼ばれた原爆開発と分かちがたく結びついており、しばしば彼は原爆の父と呼ばれる。また彼を悲劇の主人公とするのに好都合なことにマッカシーによる赤狩りによって一切の公職から追放されるという経験もしている。栄光からの転落であった。現代のガリレオ・ガリレイといわれる由縁はここにある

オッペンハイマ―の評伝はこうした彼の経歴からか、優れた才能をもった物理学者でありながら、一級の物理学の業績をあげ得なかったために、その代償として原爆開発の指導者としての世俗的な名誉の道を選んだのではないかと述べている。

 私もそれは十分にあり得ることと考えるが、このオッペンハイマーの物理学上の評価は現在では変わってきている。たとえばノーベル物理学賞受賞者である、C. N. Yangは彼の最近出版された論文選集の中で、オッペンハイマーの中性子星やブラック・ホールについての先駆的な研究は今日、偉大な物理学および天文学上の業績として認められるようになったと述べている。

人の真の評価は棺を覆った後にもなお直ちには定まらないということだろうか。(1989.1.2)

 (2023.1.30 付記)この文章を書いた後で、オッペンハイマーがブラック・ホールの観測可能性だとかの話題が出るといつもすぐにその話をそらしたとか、F. J. Dysonの書いた文章の中で見かけたような気がするが、定かではない。ちょっと込み入った感情をオッペンハイマーは自分の研究についてももっていた人かも知れない。

SchiffだとかBohmの量子力学のテクストの序文にオッペンハイマーへの謝辞が書かれているので、彼が優れた物理教師であったことがうかがえる。本文ではそれについて触れていないのは片手落ちだったかもしれない。

 

 


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