真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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選択的夫婦別姓に反対する文書に名を連ねた人たちの思想の背景を考える

2021年04月10日 | 国際・政治

  先だって、東京新聞は、丸川珠代・男女共同参画担当相や高市早苗・元男女共同参画担当相ら自民党の国会議員有志が、埼玉県議会議長の田村琢実県議に送った、選択的夫婦別姓の反対を求める文書を取り上げました。その内容を区切って考えていきたいと思います。

 なぜなら、自民党国会議員有志が、どうして地方自治や民主主義のルールを無視するようなことまでして、選択的夫婦別姓を求める要求に反対し、自分たちの主張を貫こうとするのかを考えるとき、私は、名前を連ねた自民党国会議員有志が、安倍・菅政権とかかわりをもつ長谷川三千子教授や八木秀次教授と、人権や国民主権を否定するとんでもない考え方を共有している、と考えざるを得なかったからです。

 安倍・菅政権を支える自民党国会議員有志は、現在、様々なところで、勇気を出して今まで認められてこなかった権利を主張し声を挙げた人たちや、その声を受け止めて、マイノリティの権利を尊重し、多様性を認め、受け入れる社会にしようとしている人たちの取り組みに逆らい、自らに都合のよい戦前回帰の国づくりをしようとしているように思います。

 先ず、前文の問題ですが、その内容は慎重審議を求めるものではありません。野党の出した意見書が”採択されることのないよう、格別のご高配を賜りたく、お願い申し上げます”というかたちでの夫婦別姓に反対する考え方の押し付けです。名を連ねた人たちが、何と弁解しようとも、地方議会の議長にとっては、大変なプレッシャーであることは間違いないことだと思います。文書をまとめた高市早苗氏は、県議らへの圧力ではなく、「お願い」だったと弁解したようですが、文書を受けとった側は、五十人もの国会議員の意向に逆らえば、”党員としての活動の場が危うくなる”と考えるのが普通ではないかと思います。

厳寒のみぎり、先生におかれましては、ご多用の日々をお過ごしのことと存じます。貴議会を代表されてのご活躍に敬意を表し、深く感謝申し上げます。
 本日はお願いの段があり、取り急ぎ、自由民主党所属国会議員有志の連名にて、書状を差し上げることと致しました。
 昨年来、一部の地方議会で、立憲民主党や共産党の議員の働き掛けにより「選択的夫婦別氏制度の実現を求める意見書」の採択が検討されている旨、仄聞しております。
 先生におかれましては、議会において同様の意見書が採択されることのないよう、格別のご高配を賜りたく、お願い申し上げます。”
 私達は、下記の理由から、「選択的夫婦別氏制度」の創設には反対しております。

 次に反対の理由は、1~5に箇条書きされていますが、いずれも受け入れることができません。

”1 戸籍上の「夫婦親子別氏」(ファミリー・ネームの喪失)を認めることによって、家族単位の社会制度の崩壊を招く可能性がある。

 とありますが、”社会制度の崩壊”とは、どういうことをいうのでしょうか。さらに言えば、一部の希望者が夫婦別姓を選択しただけで、どのような社会制度が、どのように”崩壊”するというのでしょうか。具体的なことは何も示されていません。
 私は、それは、現存する社会制度の崩壊ではなく、安倍・菅政権や政権を支える自民党国会議員有志のもつ「家族国家観」の崩壊ではないかと疑います。

 随分前から「選択的夫婦別姓」を要求する声はありました。その声がだんだん大きくなってきたので、野党が意見書を出す動きを始めたのだと思います。それは、働く女性が増え、女性の社会進出が進んで、夫婦同姓だと困る女性が声を上げ始めたということだと思います。また、自分の「姓」に対する思いは人によって様々なのだと思います。だから、意見書の要求は、”夫婦別姓を法的に義務づけよ”というものではなく、別姓にしたい人たちの要求を受け入れて、選択的夫婦別姓を法的に認めてほしいということなのです。  
 日本のように夫婦同姓を法的に義務づけている国はほとんどないという事実、また、2018年12月に国連女性差別撤廃委員会が、夫婦別姓の導入など、結婚後も旧姓を使い続けられるような法改正を勧告していたという事実を無視してはならないと思います。つけ加えれば、この国連文書は、外務省が二年以上放置していたということで、先日、茂木外相が謝罪しています。選択的夫婦別姓に対する政権の姿勢をあらわしているように思います。

 勧告を無視し、選択的夫婦別姓を認めると”家族単位の社会制度の崩壊を招く可能性がある”というようなことを言っていては、日本の常識は、ますます世界の非常識になっていくように思います。   
 私は、選択的夫婦別姓を認めることによる”社会制度の崩壊”など、現実にはあり得ないと思います。海外の実態を調べるまでもなく、日本で、事実婚により別々の姓を名乗って、素晴らしい家庭を築いている例はたくさんあるのではないかと思います。
 大事な事は、結婚後の改姓がキャリアの断絶をもたらしたり、自己喪失感につながったり、仕事や暮らしに支障があるという様々な訴えをしっかり受け止め、放置しないことではないかと思います。

2 これまで民法が守ってきた「子の氏の安定性」が損なわれる可能性がある。
※同氏夫婦の子は出生と同時に氏が決まるが、別氏夫婦の子は「両親が子の氏を取り合って、協議が調わない場合」「出生時に夫婦が別居状態で、協議ができない場合」など、戸籍法第49条に規定する14日以内の出生届提出ができないケースが想定される。

 とありますが、「両親が子の氏を取り合って、協議が調わない」というようなことは、心配するようなことではないと思います。結婚を届け出たときに、原則的なことを話し合っておくように進めたり、妊娠が判明したときに話し合うように決めておけば、出生届提出ができないというようなことにもならないと思いますし、出生届提出ができないというような事態を回避する方法は、いろいろ考えられると思います。

3 法改正により、「同氏夫婦」「別氏夫婦」「通称使用夫婦」の3種類の夫婦が出現することから、第三者は神経質にならざるを得ない。
※前年まで同氏だった夫婦が「経過措置」を利用して別氏になっている可能性があり、子が両親どちらの氏を名乗っているかも不明であり、企業や個人からの送付物宛名や冠婚葬祭時などに個別の確認が必要。

 別姓が認められれば、「通称使用夫婦」はなくなっていくのではないでしょうか。また、”「経過措置」を利用して別氏になっている可能性”が、どれほど予想されるでしょうか。
 さらに、もし改姓した場合、必要と思われるところに、きちんと連絡する体制を整えれば解決することではないでしょうか。現実に、通称を使用している女性があり、また、多くの女性が、結婚時に改姓しているのですから…。

4 夫婦別氏推進論者が「戸籍廃止論」を主張しているが、戸籍制度に立脚する多数の法律や年金・福祉・保険制度等について、見直しが必要となる。
※例えば、「遺産相続」「配偶者控除」「児童扶養手当(母子家庭)」「特別児童扶養手当(障害児童)」「母子寡婦福祉資金貸付(母子・寡婦)」の手続にも、公証力が明確である戸籍抄本・謄本が活用されている。

 夫婦別姓を認めると同時に、戸籍制度も廃止するということまで一気に進めるのは、確かに他の制度や法律とのかかわりで、難しさはあるかも知れません。でも、それを夫婦別姓を認めない理由にしてはならないと思います。明治以来の家族制度を受け継いで、男尊女卑の考え方を温存させることになった戸籍制度については、時間をかけて検討すればよいのだと思います。

5 既に殆どの専門資格(士業・師業)で婚姻前の氏の通称使用や資格証明書への併記が認められており、マイナンバーカード、パスポート、免許証、住民票、印鑑証明についても戸籍名と婚姻前の氏の併記が認められている。
 選択的夫婦別氏制度の導入は、家族の在り方に深く関わり、『戸籍法』『民法』の改正を要し、子への影響を心配する国民が多い。
 国民の意見が分かれる現状では、「夫婦親子同氏の戸籍制度を堅持」しつつ、「婚姻前の氏の通称使用を周知・拡大」していくことが現実的だと考える。
※参考:2017年内閣府世論調査(最新)
夫婦の名字が違うと、「子供にとって好ましくない影響があると思う」=62.6%
 以上、貴議会の自由民主党所属議員の先生方にも私達の問題意識をお伝えいただき、慎重なご検討を賜れましたら、幸甚に存じます。
 先生のご健康と益々のご活躍を祈念申し上げつつ、お願いまで、失礼致します。
令和3年1月30日

衆議院議員(50音順)
青山周平  安藤裕  石川昭政  上野宏史  鬼木誠  金子恭之  神山佐市  亀岡偉民  城内実  黄川田仁志  斎藤洋明  櫻田義孝  杉田水脈  鈴木淳司 高市早苗  高木啓  高鳥修一  土井亨  中村裕之  長尾敬  深澤陽一  藤原崇  古屋圭司  穂坂泰  星野剛士  細田健一 堀井学 三谷英弘  三ツ林裕巳  宮澤博行  簗和生  山本拓  
参議院議員(50音順)  赤池誠章 有村治子  磯崎仁彦  岩井茂樹  上野通子  衛藤晟一  加田裕之  片山さつき 北村経夫  島村大  高橋克法  堂故茂  中西哲  西田昌司  丸川珠代  森屋宏  山田宏  山谷えり子  ”

 選択的夫婦別姓の意見書は、婚姻前の姓の通称使用では解決できない問題があるから、提出されることになったのであって、通称使用の併記が認められているからということで、無視されてはならないと思います。
 また、上記の文章の”選択的夫婦別氏制度の導入は、家族の在り方に深く関わり、『戸籍法』『民法』の改正を要し、子への影響を心配する国民が多い。”という文章に、本音が覗いているように思います。

 その本音は、明治維新によってつくりあげられた皇国日本の家制度の温存であり、「一家一氏一籍」の原則の維持だろうと思います。
 遠藤正敬氏が『戸籍と無戸籍 「日本人」の輪郭』(人文書院)で取り上げていますが、明治期における家族国家思想のイデオローグ、法学者、穂積八束は「我千古ノ国体ハ家制ニ則ル、家ヲ大ニスレハ国ヲ成シ国ヲ小ニスレハ家ヲナス」と述べています。それは、明治民法制定以来、日本の敗戦に至るまで維持された、家は「万世一系」の皇統を基軸にした「国体」の私的領域における縮図であり、家の維持こそは「国体」の安寧をもたらすものであるという思想です。


 戦後,日本国憲法の制定に基づく民法の大改正によって、家制度が廃止され,家督相続も廃止されましたが、祖先崇拝や男性優先(男尊女卑)の考え方は完全には払拭できず、いまだに根強く、様々なところに残っているようです。それを維持し復活させようとする人たちには、”家の系譜”として索引的機能をもつ戸籍制度が欠かせないのだと思います。
 万世一系の天皇が統治する「国」である日本、そして、戸主の系譜として受け継がれ、「祖孫一体」を本義とする「家」の連続性を記録する戸籍、「国体」と「家」を直結した家族国家観は、「国体の本義」に、はっきり示されています。

大日本帝国は、万世一系の天皇皇祖の神勅を奉じて永遠にこれを統治し給ふ。これ、我万古不易の国体である。而(シコウ)してこの大義に基づき、一大家族国家として億兆一心聖旨を奉体して、克(ヨ)く忠孝の美徳を発揮する。これ、我が国体の精華とするところである。

 そして家の生活における祖孫一体の徳義については次の如くである。

 我国の家の生活は、現在の親子一家の生活に尽きるのではなく、遠き祖先に始まり、永遠に子孫によって継続せられる。現時の家の生活は、過去と未来をつなぐものであって、祖先の志を継承発展させると同時に、これを子孫に伝へる。古来我国に於て、家名が尊重せられた理由もこゝにある。家名は祖先以来築かれた家の名誉であって、それを汚すことは、単なる個人の汚辱であるばかりでなく、一連の過去現在未来の家門の恥辱と考へられる。”(『戸籍と無戸籍 「日本人」の輪郭』(人文書院)「第五章 家の思想と戸籍、 1 「家の系譜」としての戸籍──「国体」と家族国家思、系譜尊重の思想」より)

 選択的夫婦別姓に反対する自民党国会議員有志の文書の背景に、私はフェミニズムを批判し、男女共同参画社会を受け入れようとせず、”選択的夫婦別姓制度は日本の文化を破壊する”というようなことを主張している長谷川教授や、同じように、夫婦別姓や非嫡出子「差別」の撤廃に反対し、「今こそ伝統的家族の強化を」などと主張している八木教授の考え方が透けて見えるような気がするのです。

 


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