ホンドギツネとキタキツネの宗教戦争 キタキツネ物語 伏見稲荷大社の物語 89話

 稲荷神社のお使いとされる狐はアカギツネの亜流とされるホンドギツネだが、このホンドギツネから分派したキタキツネも生息している。このキタキツネは平安時代当時は同じホンドギツネだったが、狐界にも全国狐連合会(全狐連)があり、このキタキツネも元はこの連合会に加盟していた。しかし、どの組織でもそうだが会が少し大きくなって社会的知名度が上がると幹部の権力争いが勃発するのは人間社会と同じで内部争いの果に組織が分裂して全日本総狐連合会(総狐連)が結成されて狐の全国組織は2つの2大勢力になっていた。

 この京都に都が遷都される前は全狐連のグループは東山と西山以南が縄張りで総狐連のグループは北山からその奥の原始林から丹波、丹後と広い縄張りを持っていた。711年たまたま東山の南の端の伊奈利山に奈良の都から追われた秦伊呂具一族がこの山の中腹に新興宗教を立ち上げて伊奈利神社(後の稲荷神社)として小さな祠を建てた。まだ小さな子供はその祠で寝起きさせたが、大人は狐と同じように山に穴を掘っていた。当然ながら狐の穴も人間に侵略されて狐と人間のいざこざがあちこちで起こっていた。

 この秦一族は総勢26名だが、この人間がこの山に住み始めたのでこの山の先住民の狐はかなり動揺していた。そしてこの伊奈利山には全国狐連合会の本部を置いていた。この全狐連の会長は白狐で女狐の24代目の白藤でこの白藤は人間のビッグボスの伊呂具を遠くから観察していたが、この伊呂具はまだ人間の怖さを知らない子狐が近づいても追わないばかりか鹿肉や猪の肉を惜しみなくを与えていた。そして怪我をしている狐には酒で消毒をして薬草の軟膏を付けて包帯までしていた。

 これに感動した白藤は人間の若い娘に化けて伊呂具が住んでいる穴を訪問していたが、伊呂具はもちろん狐界に連合会があるとは知らなかった。しかし、この人間に化けた白藤が目の前にいるので信用をする以外にはなかった。
 白藤は、
「いつも小さな子狐に食べ物を与えていただき感謝しています」
「いやいや、こちらこそ先住民の狐たちに何の挨拶もなくここに住みついた私たちも反省しています」
「それは恐れ入ります」
「どうです、私たち人間と狐たちの共存共栄しませんか?この伊奈利山は花崗岩で出来ているので中国の枯山水のような荒れた山だ!、いずれ伊奈利神社の信者を増やしてその金で植林をしてこの東山を緑豊かな山にすれは鳥に昆虫、そして狐の食料の小動物が湧き出ることになるが…」
「たしかに今は山を降りて鴨川を渡り雑木林まで行かねは野ネズミも捕獲できません」

 こうして伊奈利神社と全狐連の共存共栄の生活が始まったが、人間を敵としている総狐連はこれが気に入らないと会長と若手武闘派の狐50匹とともに白藤に抗議をしにきた。その会長の源五郎狐は、
「我ら狐はもう何百年もの間人間と戦い何万匹の仲間が死んだことは白藤会長もご存知のはず、それを忘れて人間と協力共同とは頭が可怪しくなったのか?しかも人間が作った伊奈利神社のお使いをするというが、我々の神は月と星で夜中でも星で位置を知り月は暦と時刻を教えてくれる狐やすべての動物の唯一の神だ!」
「いいえ、この京都盆地にはいずれ奈良から都が遷都されます。そうなれば我らが狩りの場にしている湿地帯や沼のすべてが整地されて街や農地になります。ここに住んでいる鹿や猪、それに鳥や魚まで立ち退きを迫まられます。そうなれば我々狐もさらに山奥と逃げなれればならないが、ここ東山や西山、それに源五郎さんの縄張りの北山も山が豊かになれば狩りには困りません。伊奈利神社は狐や動物にとっても神様になります」
「だからここに遷都されないように人間と戦うことが大事になる。我々は子供が産まれると真っ先に反人間の思想教育をしている。我々総狐連の狐の中で白藤のように人間と協力共同するという悪い思想を持った狐はただの一匹もいない」
「源五郎さん、過去の教訓と歴史を大事にすることは必要ですが、我々は先祖代々続いてきた狐界をこれから千年も万年も守らなければなりません。人間と戦争をするよりも堂々と人間社会の中でしたたかに賢く生きて行くことが子孫繁栄になります」
この白藤と源五郎の話し合いは朝まで続いたが結論はでなく、源五郎はあくまでも人間を敵とする考えは変わらなかったまま決裂していた。 

 

 そのころから奈良の都から京都盆地を整地するための測量をするために役人が数百人も送られてきた。役人らはまず宮殿となる場所を決めて測量を続けていたが、この宮殿(丸太町千本辺り)となる場所は総狐連の主たる狩り場で、この現場事務所と役人が寝起きする飯場は船岡山でこの船岡山の基準石を起点に幅80㍍の朱雀大路の測量をする計画だった。しかし、この船岡山は源五郎狐の生誕地で総狐連のいわば聖地になっていた。

 総狐連のビッグボスの源五郎は船岡山にある現場事務所とそれを指揮する測量技師のボスさえ殺せばこの地に都を遷都することを諦めるだろうと安易に考えて北山に住む狐約500匹、それに丹波、若狭からの狐約500匹を総狐連会長名で動員して洛北宝ヶ池に集めた。そして噛み殺す相手は従三位の藤原信宏ら幹部6名の貴族と決定していた。12月24日の早朝7時にはこれら幹部貴族を先頭に200名の測量技師が飯場を出発して山を下りるが、その狭い山道の両脇から1000匹の狐が襲いかかる計画で計画は源五郎が考えた通りに大成功してボスの従三位藤原信宏ら幹部6名は狐に噛み殺され!00名以上の重傷者がでていた。

 この狐の攻撃と従三位藤原信宏らが殺された事がその日の内に桓武天皇に報告されていた。また全狐連のスパイ狐もこの現場を目撃してすぐに会長の白藤に報告をしている。そして白藤はこのことを伊奈利神社の伊呂具に報告をしている。伊呂具は、
「それは困ったことになった。あの桓武天皇は歯向かうものには相手を選ばず復讐するという凶暴な性格ですべての狐を殺せという命令が下されるのは間違いはない…」
「そ、それでは私たちには関係ないのに殺されるのですか?」
「そうなる…まさか桓武天皇は狐界に二つの団体があるとは絶対に信じない、狐はすべて狐にしかない。そか、まてよ~…それなら狐の種類は二つあって天皇に歯向かったのは北山に住むキタキツネで我が伊奈利神社のお使いの狐はホンドキツネとして事件には関係がないと桓武天皇に直訴する」

 桓武天皇は高級貴族が6名が狐に殺されるという珍事に従二位攘夷大将軍坂上田村麿の軍隊を京都盆地に出動さすのか悩んでいた。そこで伊奈利神社の宮司からの手紙を坂上田村麿に見せている。田村麻呂は、
「なるほど、狐界にも派閥があり天皇に歯向かうのはキタキツネで天皇に忠誠を誓っているのはホンドキツネというが、このキタキツネとホンドキツネの見分け方が分からなければ狐退治も出来ない」
 天皇は、
「しかし、手紙によるとキタキツネは船岡山を占領しているので京の都予定地の測量さえ出来なくなるが…」
「それはそうだが、この狐退治に日本国の軍隊が出動すればそれこそ世界の笑いものになるが、とはいっても新たな測量部隊を派遣しても千匹の狐相手ではまた同じ犠牲者が出るが…」
「そか、それならそのホンドキツネのビッグボスに官位を与えてキタキツネと戦わさせればいいが、田村麻呂はどう思う?」

 こうして全国狐連合会の会長の白藤に「従三位攘狐大将軍白藤」という官位が与えられてキタキツネ退治の勅使が白藤に届いていた。この決定を受けて白藤はキタキツネのボスの源五郎に手紙で会談を申し入れていた。この手紙を読んだ源五郎はさすがに日本国天皇から官位を授かった白藤には逆らえなかったので和解のテーブルについていた。

 この白藤が提案した和解案は、
①船岡山の戦闘に参加した狐1000匹は丹後、丹波、近江の国から撤退して若狭の国以北で生息すること。
②総狐連を解散して以後はキタキツネという名称を先祖代々引き継ぐこと。
③この謀反した1000匹以外の狐で総狐連に加盟していた狐はただちに全狐連に加盟すること。

 この厳しい和解案を源五郎狐はのむ以外に一族の命を守れなかったので白藤と伊奈利神社を恨みつつも妥結していた。こうして源五郎狐を先頭に1000匹の狐は船岡山から若狭以北の越前へ旅出したが、頃は真冬で越前に着いたが寒さと飢えで半分以下の450匹にまで減っていた。この源五郎が白藤との協定を守るかの行動は白藤側のスパイが見張りその都度白藤に報告をしていた。

 越前でも越後でもそうだが、どの地に行こうとも必ず原住民の狐が生息している。そして手配があったのかキタキツネのことを天皇に歯向かった非国民狐として非難を浴びて餌場には近づくことも出来なくやむなく北へ北へと歩くしかなかった。そして北の果ての青森の漁村に来た時にはもう30匹に減っていた。その漁村で餌を探していると一人の漁民が痩せ細り毛が抜けた源五郎狐に声をかけた、
「ここらの狐とは違うようだがどこから来た?」
 この総狐連の狐たちは反人間教育を受けているので人間に遭遇すれば威嚇をするが、もうその元気もなかった。さらに漁民は、
「そかそか、腹が減っているのか?それならこのニシンでも…」
 と、大きなニシンを狐の頭数だけくれた。そしてそれから毎日のようにホッケや大きなタラを差し入れてくれた。これには源五郎狐も感謝しかなく白藤が言っていた「これからは狐と人間は協力共同しながらしたたかに賢く生きなければならない」ということを思い出して源五郎狐自ら人間の漁民に初めて尻尾を振って感謝を示していた。

 その漁民は元気になった源五郎狐に事情を聞いていた。漁民は、
「そか、それならこの海峡の向こうには大きな大きな蝦夷という島があるが、そこには狐が一匹も生息していないのでそこを新天地として出直して子孫繁栄しなさい。その蝦夷には私の船で渡しますので明日の朝6時にここに全員集合しなさい。
 こうして島に渡ったキタキツネは本土の経験から学び蝦夷地の原住民のアイヌとも仲良しになり、それから1200年後の今も源五郎らの子孫が元気に暮らしている。
                                         (おわり)

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