真珠とダイヤモンド上:桐野夏生著のレビューです。
☞読書ポイント
感想(ネタバレなし):バブルと証券会社と野心みなぎる人々と。
世の中がNTTの株で大騒ぎをしていた時代を覚えていますか?そう、バブル真っ只中であった日本。驚いたことに社会の様子もこうして小説になるとえらく古めかしい時代の話に見える。特に職場におけるの男女差など、自分も通って来た道であるのに「けしからん!」レベルの社会だったなぁと改めて思う。
バブルは感覚的にはひと昔くらいに思ってたけど、いや、もうひと昔どころか、ずっと昔の出来事だったのだと。いやあ、自分の感覚ほどあてにならないものはない。
そんな軽い衝撃を受けながら読み進めることになったわけだが、この小説を令和生まれの人が読むときには、自分が有吉佐和子さんの作品を読むくらい「昔の話」にきっと見えるのだろうなぁ。あー時間の流れは恐ろしい。
ということで、本書は上下巻からなる小説。上巻だけも結構なボリュームだけど、例のごとく読み易いのでスイスイ読み進められる。舞台は福岡の証券会社ということで、会話は博多弁。桐野さんの小説では方言が登場するのは珍しいかも?
軸になる登場人物は3人。高卒の事務員・水矢子、短大卒の窓口販売員・佳那、大卒の営業マン・望月。この3人は共に夢、というか野心があり、それぞれの事情から、なんとしても上へ上がろうと上がろうと日々動き回っているわけだが....。
先に記した「NTT株」で、証券会社は大盛り上がり。株を中心に、様々な人物がこの3人と絡み合ってくる。株と同じ、今はいいけど先行きが心配と思える彼らの様子、そして得意先の人々のちょっと怪しい感じも大丈夫なのか?と気になるところ。
というのも冒頭の水矢子が佳那と再会するシーンが常に頭の中をよぎる。東京の井の頭公園で佳那が水矢子に声を掛けるというシーンなのですが、なんとその水矢子はホームレス状態。このシーンから時代をさかのぼって話は進む。ある意味結果を知ってから物語が始まったので、なにか宿題を抱えながら読んでいる気分だ。
上巻は、どういう経緯で水矢子がこのような状態に至ったのかはまだ分からない。水矢子は大学進学を目指していたのに、どうしてこうなったのか?佳那も東京にいるということは、望月も東京にいるのか?などなど、気になる要素をたくさん残して上巻は終わる。
ということで、当時、株にも興味がなく、ニュースで「騒いでいるな」程度だったのですが、本書を読んで「そういうことだったのか」「証券会社ってすごいところなんだなぁ」と納得。銀行との繋がりや駆け引きには、そういうからくりがあるのか...なんてことも勉強になりました。
彼らの未来が気になり早く下巻を続けて読みたいところですが、図書館にお世話になっているため、読むのはだいぶ先になりそうです。まぁ、気長に待つとします。
追記:下巻も読み終わりました。➡ 下巻レビューです。
桐野夏生プロフィール
桐野夏生おすすめ作品
桐野さんって言えば、現代社会に絡んだダークな小説と言った印象があると思うんだけど、日本の神話系のお話なんかも書かれているのよ。一風変わった桐野作品もおすすめよ!