美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

馬渡裕子絵画展 「何か、がやってくる」 2021.1.11~17 杜の未来舎ぎゃらりい

2021-01-15 11:08:11 | レビュー/感想

もうそろそろ終盤にかかった馬渡裕子展。今回は深読みを恐れず彼女の絵について突っ込んだところを書いておこう。彼女の今回の作品に「折り返し点」というタイトルの作品があったが、ここに至って初めて見えて来たこともあるからだ。まあ、そんな思い巡らしに誘導してくれる作家はきょうびあまりない。その意味で10年以上前に出会って毎年うちのギャラリーで開催し続けられたことを幸せな邂逅と言わずして何と言おうか。

さて、今回メインの展示となったのが「南から風が吹いている」との作品だ。5匹の犬が後ろ足で立ち上がって何かを待ってる。ここでも彼女の描く動物、この場合は見かけはプードルなのだが、ヌイグルミなのか、血の通った存在なのか、判断停止の中間状態に置かれている。メルヘンやファンタジーの記号的存在にはない、しっかりリアルな感触があるのだ。同じことが、ギリギリまで単純化され抽象化された背景の繊細な処理についても言える。場所は南極か北極か分からない、しかし、見るものは確かにこの光景を目の前にしていると感じる。白い雪原は見ている私の足元まで繋がっているかのようだ。

はるか向こうの雪原の向こうには帯状の海面が見える。盛り上がって、さらに対岸の奥にはうっすらと岬か、島影が見えているような気がする。刷毛ではいたような薄い雲がたなびく空は、そして氷が溶けた鉛色の海の色といい、右端にのぞく空の色も、画面に満ちる光も、「南から風が吹いている」というタイトルが示唆しなくても、明らかに春の訪れが近いことを感じさせる。光を強めた太陽のほんのりとした暖かさすら感じられる。

彼女の作品には、前にも重要な要素として指摘したが、どれにも不思議をかもす絶妙な仕草の表現があるが、ここではプードルたちの口元にそれが現れている。口をポカンと開けている先頭をはじめ、微妙な口元の表現に否応なく注視させられる。白マスクを強いるこの不条理なコロナ禍の状況を逆照射しているかのようだ。彼ら彼女たちは雪原の彼方からやってくる春の訪れを待ってる。果たして待ってるのは、脳内に恐怖を植え付けて果てることを知らない、このコロナ禍を収束させるシンボルとしての希望の春かもしれない。

他の絵についても今回はご紹介し、おしゃべりしたいことがたくさんあるが、お客さんがいらしたので、ひとまず筆を置こう。

 


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