はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 涙の章 その77 助けるために

2022年12月05日 10時19分10秒 | 臥龍的陣 涙の章
「くそっ! 今宵はなんだというのか! 
ともかく兵卒どもを鎮めねばならぬ。
おまえとおまえは俺についてこい。
ほかは、その子供をどこかへ閉じ込めておけ!」
什長《じゅうちょう》は青い顔をしてそう言うと、部下たちといっしょに駆け去っていった。

残された兵士は三人。
そして白髪の者である。
残されたかれらは、互いの顔を見合わせる。

「聞いたか、みんな逃げているそうだぜ」
「賊といったが怪しいものだ。
内門の警備兵といったら、俺たちなんかとちがって、優秀な奴らばっかりあつめた部隊だったはずだ。
賊は一人や二人なんかじゃなく、もっと大勢いるんじゃねぇか」
「町で聞いたのだが、曹操が襄陽を伺《うかが》って、明日にでも攻めてくるかもしれぬそうだ」
「もう曹操が?」
「わからぬぞ。なにせこの城の偉い連中と来たら、肝要な話は、ぜったいに俺たち下っぱには漏らさぬからな。
将軍たちがみないなくなってしまった、ということは、もしかしたら、賊というのは嘘で、ほんとうは曹操軍で、俺たちに曹操軍を抑えさせ、自分たちは逃げ出したのかもしれぬ」

曹操軍の規模を知る孔明からすれば、兵士たちの言葉は失笑ものであったが、兵役であつめられ、自分の故郷と襄陽しか知らず、実戦に出たこともないかれらからすれば、そんな推量がでてきてもおかしくなかった。
曹操軍が押し寄せてきたなら、それこそ大津波が襄陽をまるごと飲み込むくらいの規模になるだろう。
この程度で済むはずがない。

「どうする?」
「ここに残って死ぬのはいやだ。逃げよう」
「うむ、しかしほかの連中はうまいことやって、お宝を分捕って逃げているみたいじゃないか。
俺たちだって、苦しい兵役に耐えたのだ。ご褒美をもらっても悪くなかろう」

兵士たちの目線が、自然と、自分たちが連行している白髪《はくはつ》の者の、身にまとう豪奢な衣裳に集中した。

「気味のわるいヤツだが、持っている物は豪華だな」
「身包《みぐる》みはがして、裸で捨てておけ」

ひとりが、乱暴に白髪の者の首環を引きちぎるようにして奪った。
しかし、白髪の者は、叫び声ひとつあげず、されるがままになっている。

「なんだ、こいつ。しゃべれないのか?」
「しゃべれないのなら、僥倖《ぎょうこう》ではないか。目も見えぬようだし」
指輪を取ろうと腕を乱暴につかむ兵士のとなりで、ひとりが、なにやら薄気味悪い笑みをうかべて、透明な表情を空《くう》にむける白髪の者の顔をじっくり眺めた。
「真っ白で気味悪いが、よく見ると、女みたいな顔をしておるぞ」
「よせ。女でないなら用はない。
こいつの持っている物を売って、女を買うほうがいいだろう」
「ふん、なら、おまえらは、それだけ持って、さっさと行け。
おれはこいつに用があるのだ。
男の癖に、女の格好をしているとどういう目に遭うか、年長者として教えてやらねばならぬ」

兵士の言い分に、ほかの兵士は、やれやれと言いつつも苦笑いを浮かべている。
そうして、男は白髪の者の手を乱暴に引き、手近な部屋へ連れ込もうとする。

孔明は立ち上がり、飛び出そうとした。
すかさず、花安英《かあんえい》がその肩を掴む。
「お待ちなさい。あんたみたいな細腕が行ったところで、助けられやしない。
返り討ちにあうのがせいぜいだ」
「しかし」
「あの者は、こういう目に遭うのになれています。捨てておきなさい。
それより、『狗屠《くと》』を止めなければ。
あの者は命までは奪われないでしょうが、こうしているあいだにも、『狗屠』は、ほかの弟たちを襲っているかもしれないんだ」

こういう目に遭うのになれている。

孔明は、はげしく怒鳴りたくなる気持ちを必死におさえ、花安英に言った。
「ならば、おまえは『狗屠』を追え。わたしは、あの者を助ける」
「あきれた人だな。いちいち目の前の人間を助けて、肝心なことはなにひとつしないで死ぬつもり?」
「あの者とて、きみの弟ではないのか?」

花安英は、秀麗な顔をしかめ、きつく孔明をにらむ。

孔明は、またも暗澹《あんたん》たる気持ちにおそわれた。
かれらが悪いのではない。
かれらをこのように育てた人間が悪いのだ。

孔明が立ち上がると、花安英は言った。
「では、あの者は軍師にお任せいたします。わたしは『狗屠』を」
「じき、追いつく」
「あんまり期待してませんよ」 

花安英は、憎まれ口をたたくと、やはり立ち上がり、襄陽城の奥のほうへと|踵《きびす》を向ける。
そうして、ふと、立ち止まると、孔明に言った。
「ご武運を」
「ありがとう」


つづく


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