俺たちは、タワーマンション最上階の山田の部屋へ向かった。
「涼介には入れ替わったこと正直に話そう」と知念が提案し、俺も同意したからだ。
部屋に入ると、山田はリビングのソファーの上で小さく膝を抱えていた。
「涼介・・・」
「なんで戻って来た。俺を笑いに来たの?」
「違うよ」
中島裕翔の姿をした知念が優しく言った。
山田は膝から少し顔を上げた。
「いつもそうだ。いつも、いつも、おまえは、中島裕翔は、俺からすべてを奪っていく」
俺が?
それは逆だろ
当初グループのセンターは俺だった。
でも、それは山田が努力したから
山田が影でどれだけ努力したか俺は知ってる
俺の心を奪ったのも、そんな山田のストイックな姿だった。
今夜、理想の山田像はかなり壊れたけど、気持ちは少しも揺らいでいない。
Hey!Say!JUMPのセンターは、山田涼介しかいない。
「涼介、よく聞いて。信じられないかもしれないけど・・・今夜、僕とゆうてぃーが、入れ替わっちゃったんだ」
知念が俺を指さした。
「だからあそこにいる知念の中身が裕翔で、今話してる裕翔が僕なんだ」
「は?裕翔、何を言ってるの」
「理由はわからない。でも僕が知念なんだよ」
「ふざけるな!知念を奪って、そのうえ俺をバカにするのか」
知念はしゃがみこんで山田と目線を合わせた。
「涼介、よく思い出してみて、今夜のこと。いろいろおかしくない?例えば、なぜ僕が涼介の部屋に入ってこれたの?オートロックの暗証番号知ってるの、僕と涼介だけだよね」
「知念がおまえに教えたからだろ」
「ううん。他にもふたりしか知らないこと、僕なんでも答えられるよ。夕食の献立は、涼介が作ってくれた金目鯛の煮付けと夏のスタミナ豆腐、カボチャのスープ」
「それもさっき教えてもらったんだろ。じゃあ、きのうの、いや、おとといの朝食は?」
「オムライス、『ちねんLOVE』ってケチャップで書いてあった」
「なんで、それを・・・」
「だから、僕は裕翔じゃないんだって」
「そ、そんなわけ」
「もうわからない子だなあ・・・これなら思い出す?」
山田の頭を掴み、いきなり唇を奪った。
「・・・ん、裕翔やめ・・・」
最初抵抗した山田だったが、激しいキスにすぐおとなしくなってしまった。
外見は『中島裕翔』の知念が山田涼介にキスしてる絵を目の当たりにして、俺は複雑な気持ちになった。
「おまえ・・・知念、なのか・・・」
「やっとわかった?逆にここまで気付かれないの彼氏としてショックなんですけど」
「てことは・・・」
山田が俺の方を見た。
「君の名前は・・・」
あれ、こんなシーン、なんかの映画にあったぞ
「俺は・・・中島裕翔、ですね」
山田はその場に崩れた。
「お、俺は裕翔に・・・な、なんてことを」
「ふふっ、ゆうてぃーに変態涼ちゃんバレちゃったね(笑)」
「裕翔にあんなことを・・・俺は」
茫然自失の山田を置いて、知念は続けた。
「じゃあ、ここからが本題。ゆうてぃーにクイズです」
「え、俺?クイズ!?」
「僕と涼介が付き合い始めた記念日は2016年の4月10日なんだけど、これ何の日?」
突然のクイズに、俺は戸惑った。
「ゆうてぃーにとっても、忘れられない日だと思うんだけどな」
俺にとっても忘れられない日?
4月10日・・・
4年前の4月10日・・・
「あ!」
「思い出した?そう、ゆうてぃーのスキャンダルが出た日」
「あ、あれは、あの頃、俺は自暴自棄になってて・・・」
あの頃の俺は、山田への想いが叶わぬことに悩み絶望し、自暴自棄になって
「でもね、あの記事を読んで、自暴自棄になっちゃった人が、ここにもいたんだよね」
知念があごで山田を指した。
山田はまだうずくまっている。
「僕は涼介の傷心につけこんだんだ。落ち込む涼介に優しくして、告白した」
え、なんで山田が俺の記事で落ち込むの?
どういうこと?
それって・・・
頭が真っ白になった。
「涼介の気持ちを知ってて、利用した。僕も涼介のことがずっとずっと好きだったから。チャンスはここしかないって思った。でも、裕翔には言えなかった」
「・・・・」
「付き合ってるのを知られて、涼介を奪われるのも怖かった」
「知念・・・」
「ずっと後ろめたかったんだ僕。・・・裕翔、黙ってて、ごめん」
知念は深々と頭を下げた。
俺は思ってもみなかった知念の話に、言葉が見つからなかった。
「僕はずっと片思いしてた人と付き合えた。幸せだった。でも、すごくつらい4年間でもあった。涼介のことを想えば想うほど、山田涼介が目で追っているのは、中島裕翔だって気付かされるから」
知念の瞳から、涙がこぼれた。
「涼介を失うくらいなら、裕翔の代わりでいいって思った。・・・裕翔になりたいって、ずっと願ってたのは、僕の方だったんだ」
知念が俺に・・・
「だから、今夜、本当に裕翔と入れ替わって、あぁ天罰だって思ったよ」
下を向く知念を、後ろから山田がきつく抱き締めていた。
「知念、なんでだよ・・・そんな、そんなふうに思ってたなんて・・・言ってくれよ・・・」
「僕って、実は愛情表現がヘタなんだよね。あと、字と絵と、ウインクもヘタ。それ以外は完璧なアイドルなんだけどなあ(笑)」
そう軽口をたたいた知念は、しかしすぐに真剣な眼差しに戻った。
「涼介、ありがとう。でもごめん、もう傷付きたくないんだ。涼介の運命の人は僕じゃない」
「ち、知念・・・」
「だから、僕たち」
「知念、やめろ!」
「別れよう」
つづく