韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗しの姫 王妃と取引ー息子は姫として育て世子にさせません | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

第一話・後編

連載65回 君に、出逢えた奇跡。俺は、この愛を貫いてみせる~

 **白藤の花言葉~決して離れない~** 

ーその美しき微笑は甘美な罠か?

どこから見ても美少女のジアンには、秘密があったー。  

 

附馬とは国王の娘を妻に迎えた男性を指す。

いわゆる王の娘婿である。難関とされる科挙に

最年少で首席合格を果たしたナ・チュソン。

将来を期待されながらも、ひとめ惚れした美しき王女の降嫁をひたすら希う。

約束された出世も何もかも捨てて、王の娘を妻として迎えたにも拘わらず、夫婦関係はよそよそしかった。

妻への報われぬ恋に身を灼く一人の青年の愛と苦悩を描く。ー彼女はその時、言った。
 「私と結婚したら、後悔しますよ」。果たして、その言葉の意味するところは? 妻となった王女は、良人に触れられることさえ拒んだ。ー
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 と、王妃が柳眉をひそめて言ったのだ。
ー妙な噂が流れておる。
ー妙な噂と申しますと?
 刹那、淑媛は嫌な汗が腋に滲んだ。それでも、必死に平静を装いつつ王妃を下座から見つめた。
 王妃が扇を口許にかざし、陰に籠もった笑いを浮かべた。
ー私と違い、そなたは初めての出産だ。ゆえに、こちらからも出産経験のある心利いた者たちをそちらへ手伝いに赴かせたのだが、どういうわけか、王女の沐浴のときだけは中宮殿の女官たちを寄せ付けぬとな。
 淑媛は烈しく首を振った。
ー滅相もございません。そのときはたまたまであったと存じます。
 王妃が紅い紅を塗った唇を引き上げた。
ーそうか? では、早速、今日の沐浴からは中宮殿から遣わした者たちを立ち会わせるように。
 瞬間、淑媛は身体が冷えるのを感じた。
 王妃は、あの秘密を知っている!
ーそれは。
 口ごもる淑媛に、王妃が笑いながら言った。
ーどうした? やはり、我に仕える者どもが王女の沐浴に立ち会ってはまずいことでもあるのか?
 淑媛はこの時点で腹を括った。王妃が既に真実を知るからには、事実をねじ曲げることはできない。
 淑媛は王妃を真っすぐに見つめた。
ー中殿さま(チユンジヨンマーマ)は何をお望みなのでしょう。
 今までおどおどと怯えるばかりだった淑媛が居直ったーように、王妃には見えたかもしれない。
 王妃は少したじろぎ、また不敵な笑みで淑媛を見据えた。
ー世子(セジヤ)になるのは、私の生みし王子のみだ。賤しいそなたの産んだ子をこの国の世継ぎに立てることはできぬ。そなたが見てはならぬ夢を見る限り、赤児の生命は保証できぬ。
 王妃の眼には剣呑な光が揺らめいていた。嫉妬、羨望、憎悪。同時期に生まれた我が子は既にこの世の者ではないのに、何故、淑媛の子だけが生きているのか。理不尽な恨み辛みを弱い母子に向けたのだ。
 美しいはずの王妃の眼許は引きつり、夜叉のように見えた。
 淑媛はその場に平伏した。
ーお誓い申し上げます。王子は王女として育て、けして秘密は口外いたしません。できるだけ人目につかぬように育て、生涯を娘として過ごさせます。ゆえに、どうか生命だけは取らないで下さいませ。
 王妃がフンと鼻を鳴らした。
ーやはり、我が手の者が見たのは間違いなかったということか。
 刹那、淑媛は悟った。王女の沐浴は保母尚宮のみで行っているはずだったけれど、どこから王妃の手の者が見ていたに相違なかった。ここでシラを切り通すこともできなくはなかった。しかし、見られている以上、下手に隠し通すのはかえって危険だ。
 王妃は幾度でも刺客を放ち、幼い我が子を殺そうとするだろう。だから、淑媛は王妃と取引をした。
ー中殿さまが将来、王子さまをお産みあそばしたとしても、我が子に王子としての名乗りは上げさせません。生涯を姫として生きる子ゆえ、中殿さまの御子さまの障りになることはないと存じます。
 頭を床にこすりつけ、涙ながらに訴えたのだ。 
 王妃が冷えた声音で告げた。
ー良かろう。そこまで申すなら、そなたの子の存在には眼を瞑ってやろう。赤児を亡き者にして、御仏のご加護に与れぬようになっても困るからの。
 既に、王妃は次の御子を産むつもりであったのだろう。徒(いたずら)に幼子を殺して、仏罰で授かれる生命を授かれなくなっては困ると言いたかったのだ。既にこの時、王妃は三十七歳に達していた。誰が考えても次に御子を授かるのは無理があった。けれども、王妃はまさに執念で再び懐妊した。それが末子の益善大君(イクソンテーグン)である。
 真に身勝手な言い分ではあったが、王妃が次の御子を産みたい一心のお陰で淑媛の子は辛うじて生命を長らえることができた。
 殿舎に戻った淑媛は、長らく放心の態であったという。翌日から、彼女は赤児を胸に抱き、離そうとしなかった。
 保母尚宮にだけは赤児を委ねたものの、その他の者には一切、触れるのも許さなかった。
 淑媛は姫をかき抱いて室に閉じこもり、一歩も外に出ない。たまに
ー中殿さまがこの子を殺しにくる。
 と、怯えて取り乱し、半狂乱になることもあった。そうやって、淑媛の精神(こころ)はゆっくりと壊れていった。国王は毎日のように彼女の許を訪れたが、その間は常と変わらぬようにふるまうため、王も寵姫の異変に気づくことはなかったのもまた不幸を助長させた。
 王女が一歳の誕生日を迎える前日、中宮殿から桃入りの揚げ菓子が届けられ、重度の桃アレルギーがあった淑媛は知らずに食して亡くなった。
 長い話を終え、央明が吐息を洩らした。
「母は私を難産で産んだばかりに体調を崩したと、長らく信じていました。乳母からこの話を聞き、すべての辻褄が合いました。自分が何故、男の身体を持ちながら、女として生きているのかも」
 チュソンは呟いた。無意識の中に零れ落ちた言葉だった。
「何ということだ」
 今更ながら、我が伯母の所業に愕然とする。
 更に、女性と信じて疑うこともなかった妻が男であることを疑わせる要因。今から振り返れば、そのような要因は幾らでもあったことに気づく。