MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2070 日本の二の舞は御免

2022年01月22日 | 社会・経済


 12月19日の日本経済新聞は、土地や住宅などの資産から負債を引いた中国の正味資産(国富)がついに米国を追い抜き、世界で最も資産を持つ(金持ちの)国になったと報じています(「中国が国富で世界首位 不動産高騰、20年に米の1.3倍」2021.12.19)。2021年、中国国内ではマンションバブルで資産の評価額が膨らみ、ドル換算の総資産で世界全体の23%を占めるに至った。勿論、中国政府はこうした状況を30年前の日本が経験したバブル経済の崩壊と重ね合わせ、警戒感を高めているということです。

 記事がここで挙げているのは、米マッキンゼー・グローバル・インスティチュートが行った世界の国民所得の6割を占める10カ国(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、日本、メキシコ、スウェーデン、英国、米国)を対象とした各国の純資産に関する調査結果です。2020年の世界全体の純資産は510兆ドル(約5京7630兆円)で、2000年(160兆ドル)の約3倍。特に中国では120兆ドルと、約20年間で17倍に拡大しているとされています。

 中国の純資産が大きく増えた背景に、不動産市場の過熱があるのは誰もが認めるところです。記事によれば、中国主要50都市の住宅価格は2020年現在平均年収の13倍。中でも香港の北に位置する深圳市では40倍、上海市内では26倍など、大都市やその周辺では、もはや普通の市民の手に届く存在ではなくなっているようです。

 その要因として記事は、新型コロナウイルス対応の金融緩和であふれた投機マネーがマンション価格をつり上げたことを挙げています。中国には、全国統一の固定資産税や相続税がなく、所有コストが低いため中古市場に物件が出にくいことも価格を押し上げる原因になっていると記事はしています。

 記事によれば、「不動産は値崩れしない」という神話が根強く残る中国では、マンションなどの住宅価格は2000年の5倍に達しており、地方財政が国有地の使用権を不動産開発業者に売って得る収入への依存度を高めるといったいびつな構図もその背中を押してきたということです。

 一方、中国都市部の生活コストを高めるマンション価格の高騰に、市民も不安や不満を募らせていると記事はしています。習近平指導部は「共同富裕(ともに豊かになる)」を旗印に不動産投機の抑制を優先課題の一つに挙げ、住宅ローンなど不動産金融の総量規制を課すなど規制を強めてきた。そこには勿論、金融リスクの拡大を防ぐという目的があるわけだが、併せて、マンションの所有をめぐる格差を縮め、社会不安の芽を摘む必要に迫られているという現実もあるということです。

 しかし、急激な締め付けが不動産価格の急落を通じて金融システムを動揺させ、経済の長期停滞を招きかねないことは、日本の(残念な)歴史が証明しています。1990年当時、旧大蔵省が(不用意に)導入した不動産融資の総量規制が、バブル崩壊の引き金の一つとなったのは私たちの思い出も傷跡として残ります。

 当時の日本では、国が不動産向け融資の抑制を金融機関に求めた結果、貸し渋りや貸しはがしが起き日本経済は大きな混乱に陥った。現在の中国でも、恒大集団など不動産企業で債務不履行(デフォルト)が相次ぎ、購入者の減少で売れ行きが悪化。値引き販売に踏み切る企業も増えているというのが記事の指摘するところです。

 中国政府も、不動産市場の(急速な)冷え込みが経済全体の停滞を招きかねないはよく理解している。主要都市でも新築住宅の価格が下落に転じ、地方財政も不動産収入の減少に直面している現在、中国共産党は12月6日の中央政治局会議で、不動産規制を修正する方針を示したと記事はしています。

 それは、投機の抑制は続けつつも、減速感を強める経済にも配慮する姿勢を示すというもの。不動産問題の軟着陸が中国政府の大きな課題となる中、「不動産業の好循環と健全な発展を促す」と強調し、業界内の事業再編にメスを入れ、政府主導で不動産市場の安定化を図りたい考えのようです。

 果たして習金平指導部は、中国経済の中で行き場を求め、いったん膨らんでしまったバブルをどのように収拾していくのか。世界経済全体への影響も大きいだけに、関係各国もその手腕を慎重に見極めているようです。



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