MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2298 3期目に入った習近平体制

2022年11月21日 | 国際・政治

 10月22日に閉幕した5年に1度の中国共産党の党大会。現在69歳の習近平国家主席が「68歳で引退する」という慣例を破って選出されたことで、党トップとして異例の3期目に入ることが決まったと報じられています。

 一方、(習主席の唯一のライバルと目されてきた)序列2位で現在67歳の李克強首相は新しい中央委員に選ばれず、最高指導部に留任しないとのこと。さらに、最高指導部の中では、序列3位の栗戦書氏、序列4位の汪洋氏、序列7位の韓正氏も新しい中央委員に選ばれず、7人のメンバーのうち4人が最高指導部に留任しないことが明らかになったとされています。

 また、党大会では、やつれた姿の前共産党総書記の胡錦濤が、衆目環視の中、腕を両側からつかまれて壇上から退場させられるという(前代未聞の)事件も起き、強権的な習一局体制がいよいよ始まったなと、強く印象付けられたところです。

 とはいえ、(何がどうなっているのか)部外者には見えにくのが中国共産党内の権力闘争であることに変わりはありません。

 11月18日のNewsweek日本版に、東京大学社会科学研究所教授の丸川知雄氏が「中国共産党大会から見えてきた習近平体制の暗い未来」と題する論考を寄せているので、(解説代わりに)その一部を紹介しておきたいと思います。

 習近平派で固めた最高指導部人事や胡錦濤の奇行に驚かされた今回の中国共産党大会。そこから見えるのは、過去10年の習政権の民間資本に対する態度のブレは共青団派との政治闘争の結果だったということだと丸川氏はこの論考の冒頭に綴っています。

 前任の胡錦涛時代に慣例となっていた総書記は2期10年までというルールが破られ、習近平が3期目に入ることは多くのメディアが予想していた。驚いたのは最高指導部を構成する中央政治局常務委員7名のうち6名が習近平に近いとされる面々で固められたことだと氏は話しています。

 その中には、2017年11月に、北京市郊外の出稼ぎ労働者約4万人が住む町をものの2週間で叩き潰した北京市書記の蔡奇も含まれる。習近平派以外の(唯一の)存在は学者出身の王滬寧であるが、彼は習近平政権の空虚なキャッチフレーズを作るのが専門であり、政治的影響力は小さいと氏は言います。

 一方、首相であった李克強や、経済に明るい汪洋は(暗黙の定年年齢である68歳にまだ達していないにもかかわらず)常務委員から退任させられた。胡錦涛や李克強と同じ共青団派のホープとして常務委員入りが期待されていた胡春華は、中央政治局からも外れ、降格となったということです。

 王滬寧以外の常務委員6人の経歴を見ると、みな地方で地道にキャリアを積んできた「たたき上げ」の人たちで、習近平に対して異議を唱えうるような見識や人脈を持っているようには見えないと丸川氏はしています。

 これまでは李克強首相など、習近平に対抗しうる見識と実力を持った人たちが最高指導部に入っていたが、そうした力のある政治家たちが今回の人事で一気に排除された。今後は、習近平の独裁色がますます強まる可能性が極めて高いということです。

 また、最高指導部人事のもう一つの特徴として、7名の常務委員を含む24名の政治局員が全員漢族の男性で占められていることがある。政治局に女性が一人も入っていないのは第15期(1997~2002年)以来であり、何やら切羽詰まって権力の集中を図っているように見えるというのが氏の指摘するところです。

 さてそうした中、丸川氏は、党大会において習近平国家主席が行った演説の大きな特徴として、『「強国」という言葉や「安全」という言葉をやたらと乱発していること』を挙げています。

 「強国」の方は今回の演説に始まったことではないし、「教育強国」とか「スポーツ強国」といったような内容も多く含んでいるのでさほどは気にならないが、「安全」の乱発の方は今回の演説で特に目立つようになったと氏は言います。

 その内容は、「人民安全、政治安全、経済安全、軍事・科技・文化・社会の安全、国際安全、外部安全、内部安全、国土安全、国民安全、伝統安全、非伝統安全、自身の安全、共同の安全、国家政権安全、制度安全、イデオロギー安全、食糧・エネルギー・重要なサプライチェーンの安全、食品薬品安全、バイオ安全...」などなど多岐にわたるということです。

 日本で「安全」というと、多くの場合は「セーフティー」を意味するのでそれほど怖いイメージはない。しかし、中国で「安全」と言えば、諜報活動や外国スパイの取締りを行う「国家安全部」が想起され、より安全保障(security)のニュアンスが強いと氏は説明しています。

 国土や経済の安全ならまだしも、「文化や社会の安全」にまで言及していることには背筋が凍る思いがする。これらは、異端の文化が公安警察によって抑圧されたり、社会の安定を乱すとされた人が拘束されるといった寒々とした将来を暗示していると氏はしています。

 「イデオロギー安全」という言葉は、党の公式イデオロギーと異なる思想を持つ人は国家の安全を脅かすとして統制されることを正当化するのに使われる可能性がある。習近平演説から読み取れる中国の将来とは、「国家の安全」を大義名分として思想や文化や社会の自由が奪われた世界ではないかと話す丸川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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