MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2299 「国民皆保険」の欺瞞

2022年11月23日 | 社会・経済

 政府は、現在の紙の健康保険証を2年後の2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと一体化したシステムに切り替えると発表しました。

 これにより、マイナンバー制度の専用個人サイト「マイナポータル」で、これまでの特定健診の結果や処方された薬の情報や医療費が見られるようになるほか、確定申告に必要な医療費控除などの手続きも、マイナポータルを通じて自動入力できるようになるということです。

 一方、医療機関などにとっても、(患者の同意のもと)過去の診療情報や検診履歴などが見られるようになり、質の高い医療の提供につながると厚生労働省はしています。

 貧富の差なく誰でも医療機関を受診できるという(「世界に冠たる」と言われる)国民皆保険制度。マイナンバーカードを活用することで、この制度を基盤に国民全体の保険・医療情報が一元化され、国民の健康管理が進むと期待する向きも多いようです。

 一方、感染拡大から既に3年目を迎えるコロナ禍の下で、一部の医療機関では、患者が受診できない状態が生まれるなど、「医療崩壊」と呼ばれるような状況が生まれたのも事実です。

 また、国民の高齢化が一層進み社会保障費の増大が限界を迎える中、公平な費用負担がどうあるべきかについても真剣な議論が必要な時期を迎えていると言えるでしょう。

 大きな投資を顧みずしゃにむにDXを進めたとしても、現状の問題点を直視し、(政治的な)利害関係を超えて基本的な制度を見直さない限り、「その先」に進むことはできない。高齢化に伴う社会の不安を解消するためにも、医療制度には、何よりも安定性や持続性可能性が優先されるということでしょう。

 そんな折、10月1日の『日経ヴェリタス』Vol.1052022に、作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が「働く世代がはまる社会保障の罠」と題する論考を寄せていたので、参考までに紹介しておきたいと思います。

 「国民健保の保険料が高くて払えない」という悲鳴がネットに溢れていると、橘氏はこの論考の冒頭に記しています。

 国保の保険料は自治体ごとに異なるが、東京区部で試算すると、月収20万円(年収240万円)程度でも年20万円ほどになる。収入の1割近くが保険料として徴収されれば、(確かに)生計を立てるのが難しくなる人もいるだろうというのが氏の認識です。

 国保の保険料が高額になるのは、国民健保では(健康保険組合加入者と異なり)労使折半の企業負担分も個人で支払うことになっているから。そのため、世帯数や収入が同じでも、実質負担はサラリーマンのほぼ倍になる。国庫や自治体から4割ほどの公費を投入することで、何とかしのいでいるのが実態だと氏はしています。

 そのうえ、「国民健康保険実態調査」(2020度)によると、25歳未満の約4割、実に25~34歳の4人に1人が国民健保の保険料を払っていない。収納率は年齢とともに上がっていくが、55~64歳でも低所得者の1割程度が未納となっているのが実情だということです。

 しかし、それよりも驚くのは保険料を軽減されている世帯の多さで、その割合は6割を超えていると氏はこの論考で指摘しています。

 国民健保の加入者は約2900万人なので、実に1700万人以上が満額の保険料を払っていない。それも、2割軽減が12.0%(350万人)、5割軽減が15.3%(440万人)、7割軽減が33.1%(960万人)と、軽減率が上がるほど人数が多いのが現実だということです。

 こんな大盤振る舞いで保険料を割り引いてもらえるなら、高すぎる保険料に苦しむ人などいないと思う人もいるかもしれない。だが、(悲しいかな)全ての加入者が平等にこの恩恵を被れるわけではないと氏は話しています。

 国民健保の保険料収納率は、65~74歳では98.2%とほぼ全納とされる。これは、年金には最低110万円の控除があり、ここに基礎控除などが加わって年金受給者の多くが7割軽減に該当するためだということです。

 一般的な年金受給者は、現役世代の3割しか保険料を支払う必要がないので、結果として全納者が増えている。言い換えればそれは、サラリーマンが退職して65歳以上の加入者が増えれば、保険料軽減の対象者も増えて全体の収納率が上がるということだというのが氏の指摘するところです。

 一方、高齢化が進むにつれ、医療・介護保険の保険料は(国会の議決もなしに)次々と引き上げられている。これが、給料が上がってもサラリーマンの可処分所得が減っている理由だが、こうした苦境は現役世代の自営業者なども同じだと氏はしています。

 生活のためにすこしでも多く稼ごうとすると、国民健保の軽減対象から外れてしまい、企業負担分を含めた重い(満額)保険料がのしかかってくる。(詰まるところ)シルバー民主主義で手厚く遇されるのは高齢者だけで、サラリーマンでも自営業者でも、どちらを選んでも「社会保障の罠」から逃れられないようにできているらしいとこの論考を結ぶ橘氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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