MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2346 時代遅れの制度は変化の足枷

2023年01月23日 | 社会・経済

 かつての日本において「標準世帯」と目されたのが、サラリーマンの夫に専業主婦、そして子供二人というような世帯の姿です。しかし、女性の就労が進む現在では、そんな「家族」の(標準的な)形態も大きな変化を見せているようです。

 独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査によれば、1980年代に3割程度だった「共働き世帯」は、1990年代には「専業主婦世帯」を逆転。2010年代には6割程度にまで増えたとされています。

 直近の状況としては、(内閣府の『男女共同参画白書(2022)』によれば)日本国内の、妻がフルタイムで週35時間以上就業している世帯は、全体の29.7%に当たる486万世帯とのこと。これに、全体の42.3%を占める(妻がパートなどで週35時間未満勤める)共働き世帯691万世帯を合わせ、全体の7割を超える72%(1177万世帯)が(いわゆる)「共働き世帯」ということになります。

 一方、専業主婦世帯は今や458万世帯(28%)にすぎず、大きく見ればもはやかなりの少数派と言っても過言ではありません。年代別に専業主婦の割合(こちらのデータは平成27年のもの)を見てみると、子育てが始まる20代で37.6%、30代で35.1%と高まる一方で、40代になると27.3%、50代では30.1%と、パートなどへの再就職が進んでいることが判ります。なお、60~65歳では専業主婦率は50.9%あり、その世代のボリュームもあって全体の数字を押し上げている形です。

 さて、こうしたデーターから見て取れるのは、子育て期の一時的な離職が女性のキャリアの妨げになっている(らしい)ことと、子育てをしていた専業主婦の再就職の受け皿がパートなどの短時間労働に限られていること。そして、(どうやら)専業主婦世帯というものが、これから先もどんどん減り続けていく「オワコン」らしいということでしょう。

 日本のジェンダーギャップ指数は146か国中116位。先進国最低で低空飛行を続け、「女性活躍」が政府の喫緊の課題とされているにもかかわらず、男女の収入格差の解消はなかなか進みません。もとよりジェンダーギャップの解消には、国民(特に男性)の意識改革が強く叫ばれているところですが、背景に社会制度上の問題もあるように感じているのは私だけではないようです。

 1月23日の日本経済新聞の連載コラム「ダイバーシティ進化論」に、東京大学教授の山口慎太郎氏が『就業意欲妨げる制度の改革を』と題する一文を掲載していたので、参考までにその概要を残しておきたいと思います。

 昨年12月に公表された政府の「全世代型社会保障構築会議」の報告書では、社会保障制度や税制は働き方に中立的なものにしていくことが重要だとの指摘がなされていると、氏はこの論考で指摘しています。

 その念頭にあるのが、収入の少ない妻を保険料なしで国民年金に加入させる「第3号被保険者制度」や、そうした妻を持つ夫に所得控除を認める「配偶者控除」の存在とであることは言うまでもない。実際、多くの民間企業でも、これらの基準に合わせ、独自に配偶者手当を支払うところが多いということです。

 こうした制度の適用を受けるために、あえて収入が増えないよう労働時間を調整する、いわゆる就業調整を行う女性が多いことは長年指摘されてきたと氏は言います。たとえば最低賃金の上昇に伴い、過去25年間でパートタイム労働者の時間当たり賃金は29%上昇したが、その年収の伸びはわずか4%にとどまる。これはパートタイム労働者の総実労働時間が19%近く減少したためだというのが氏の見解です。

 こうした現状は日本経済にとって大きな損失だと、氏はこの論考で厳しく指摘しています。ただでさえ少子高齢化が進み、労働市場は深刻な供給不足にある。加えて、日本の男女間賃金格差の大きさや女性管理職比率の低さは先進国で突出しており、女性活躍の推進は経済にとっての大きな課題になっているということです。

 今の日本に、女性の就業意欲を妨げるような制度を残しておくような余裕はないと、氏はこの論考で話しています。社会保障制度や税制を働き方に中立にすることは、女性の労働所得を増やし、長期的には税・社会保険料収入を増やすことにもつながる。北尾早霧・東京大教授らは、第3号被保険者制度や配偶者控除などの廃止により、女性の労働所得を最大28%高めるとの試算を示しているということです。

 その理由は、就業意欲が高まり労働参加率や正規就業率が上がるだけでなく、女性労働者の経験やスキルの蓄積が進むため。こうしたことによる所得上昇効果は(思った以上に)大きく、新たに生じる所得税や社会保険料の負担を上回るメリットによって家計消費は平均3%向上すると氏は言います。つまり、国民の厚生を損ねることなく、政府は税・社会保険料収入を増やす余地があるというのが氏の認識です。

 もちろん、移行期においては(一時的に)今よりも損をするように感じる人もいるだろう。女性の中には、子育てや介護のために働けない人々もいる。なので、社会の納得を得るためには、増えた税・社会保険料収入は子育てや介護支援の充実に使うべきだろうと氏はしています。

 さて、氏の指摘を待つまでもなく、(専業主婦を優遇する)こうした制度の廃止には、様々な反対の声が上がるでしょう。特に、与党内で力を持つ自民党の保守勢力や公明党などからの反対は、政権の足元を揺らがす要因となるかもしれません。

 しかし、世論は(世の中の動きに竿を刺す)そうした声に迎合することなく、社会の実態を踏まえ冷静に反応すべきだと私も思います。社会保障制度や税制は改正を続けてはいるが、その歩みは遅く、日本の経済成長や社会変化の足かせになってしまっている。早急な制度改革が必要だとこの論考を結ぶ山口氏の指摘を、さもありなんと興味深く受け止めたところです。



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