◆あらすじ
ミステリーの限界を超えた"現代の神話" 
スーパーの保安責任者の男と万引き犯の女。偶然の出会いは神の思し召しか、悪魔の罠か? これは"絶望"と"救済"のミステリーだ。


◆感想
主人公は不幸のどん底でもがき苦しむスーパーで働く50代男。その男が娘と同い年の若い女と偶然出会うことから始まる物語です。
物語は終始明るい話題がなく、とても重苦しい雰囲気が続きます。
こんな雰囲気の内容が好みだというと、精神状態を疑われてしまうかもしれませんが、ミステリーの観点から見ると、何かとんでもない謎が隠されているのではないかと、ワクワクしながら読み進めてしまいます。

本作は「葉桜の~」で有名な著者の作品。もちろんボクも読んだことがあります。
どうやら本作はその代表作と比較されることが多いようで、賛否が分かれるのもその影響だと思います。しかし、個人的には、比較するという偏見をもった時点で、作品そのものの面白さが半減してしまうのではないかと思います。出版側もあおるような売り方をしているので仕方がないかもしれませんが、それは誰も得をしない損だと思います。

比較論は別にして、本作はとても面白かったです。
人間の存在がいかにあいまいなものか、何に存在意義を見出していくのか、そこにミステリー要素が織り交ざった素晴らしい作品でした。
ミステリー小説と言えば、殺人事件が起こり、その犯人や犯行、動機などを探偵役がヒントを頼りに探っていくのが定番なのですが、本作はなかなか殺人事件がおきません。そして、ようやく殺人事件が起きたとしても、その全容がその時点で明らかになっているのです。
しかし、その事件そのものが読者に衝撃を与えるもので、「えっ、なんで?」と疑問を呈することになります。

主人公が不幸のどん底であることは前述したとおりで、娘を交通事故で亡くし、轢き逃げ犯は捕まらないまま時効。妻は精神崩壊の末自害。娘の事故の責任が自分にあると自責の念が絶えることはありません。さらに追い討ちをかけるように、主人公は末期の肺がんを患ってしまうのです。自暴自棄に陥り、生きる気力をなくした主人公はがん治療を拒否。
その救いようがない状況をどうしても救いたいと思った人物がとった行動にとても驚かされました。しかし、優しさは必ずしもみんな救えるとは限らないのです。そんな儚い物語でした。

「人生は一度きりしかないが、その中であがる舞台は一つとはかぎらない」

誰かのために生きていられるのが人間なのだと思います。