国民民主党玉木代表にお勧めしたい一冊 『松永安左エ門伝』
先日、国民民主党玉木雄一郎代表が、NHKの日曜討論だったと記憶しているが、以下のような発言をしていた。
目下電力が逼迫しているが、一番大事なのは送電網である。送電網を国家管理して統制を図るべきであるというような趣旨の発言をしていた。
ご自分の政策理念を自由に語るのに一切異論はない。
ただし、玉木代表は、わが国の電力事業の歴史を踏まえた上での発言であったか否か、興味のあるところである。
我が国の戦後長らく続いた発送電一貫の民営9電力会社体制の成立過程を、おそらくはご存知の上での発言であろうが、特に電力の鬼、松永安左エ門氏の「官との戦いの歴史」」にどこまで敬意を払っての発言であったか?
もちろん、それをいきなり望むのは私個人の想いあり、一般化するのは相応しくないであろう。
しかし、送電網の国営化を軽々に発言した玉木代表に、私は不信感を抱いた。歴史への敬意が感じられなかった。
電力の鬼、松永安左エ門氏が生涯かけて戦ったのが、まさに「国営化」、「官との戦い」であったのだから。
松永氏は、生涯、福沢諭吉を師と仰ぎ、
『電力事業を国に手放すことは、恩師である福沢諭吉が謳いあげた自由主義を汚すことにもなる。』と考えていた。
『万一、企業経営に国家権力が介入することがあれば、これは角をゆがめて牛を殺すのと同じだ。
国が企業を殺すことになるんだ。』
『国営の下で役人が電気事業をやってもうまくいかない。
しかし、さらに肝心なことは、民営でなければ大きな人物が育たない。
実業人を育てあげるうえからも、国営に、わたしは反対する。』
との信念は生涯揺らぐことはなかった。
松永氏の信念が、現れた一番有名なエピソードは、戦前、国家総動員体制下、電力が国営化され「日本発送電」が設立された時のことである。電力事業の国営化に猛反発した松永氏が、
「官庁に頼るなどは、もってのほかである。
官吏は人間のクズである。民間の諸君は、考えを改めない限りは、日本の発展は望めない。」と発言し、官吏(役人)の猛反発をくらったのである。
今の時代なら、お役人への「ヘイト・スピーチ」でマスコミも加わり、社会的に抹殺されたかもしれない。
しかし、敗戦後、松永氏は復活した。
もちろん、GHQの力も借りたわけだが、池田勇人氏(当時、大蔵大臣兼通産大臣)の協力も得、実質的に国営国策会社であった「日本発送電」を解体し、念願の、「自分たちの手で、発送から配電まで一貫経営する私企業9電力体制」の構築に成功したのである。
松永案を推進した池田勇人氏も統制経済を嫌い、思想的には自由主義者であった。
松永の私企業体制9電力案は復興にかかせないと判断した。
池田勇人は、電力事業再編に際して、 『ヤミをやっている中小企業の2人や3人、自殺してもやむをえない。』と腹を括った。今なら、即刻大臣辞任であろう。
まあ、現在の菅政権のやっている「緊急事態宣言」も、口では言わないが、飲食店経営者の2人や3人、自殺してもやむをえないと言っているのと同じだ。実際は、2人や3人では済まないのだが。まだ、池田氏の方が、正直といえる。
発送電に関わる統制権を手に入れ、国に立ち向かうには、もっと自主的な統制こそ必要だ。松永は思っていた。「自分たちの手で、発送から配電まで一貫経営できてはじめて自己統制だ。」松永氏の思想が成就した。
戦後、我々日本人が、安定した電力供給の恩恵に預かったのは、松永氏の発送電一貫の9電力体制のおかげであったと思う。子供の頃も含め、停電の記憶があまりない。もちろん、落雷による一時的停電はあったが、長期で停電の記憶は最近までない。
現在、日本は電力システム改革で、松永氏の構築した発送電一貫の9電力体制を漸次解体した。
ところが、昔より、停電が多くなり、電力料金も不安定化しつつある。
これは、松下翁の経営理念を解体したパナソニックのようでもある。
昔に戻れということではない。温故知新、歴史に敬意を払いつつ、改革をしていくことが大事と思う。その点、国民民主党の玉木代表の送電網国営化の発言に、歴史へのデリカシーが感じられなかったのである。
蛇足であるが、
「マスター・マインド」の最小単位は、夫婦であると、『願いが叶う心の法則 ナポレオン・ヒルの霊言』大川隆法著(会内経典)で学んだが、松永氏の発言で、なるほどと思ったエピソードがあった。
松永氏は、明治以来の官僚主義を打破するために骨身を削って戦った生涯であったが、ある時、こう発言した。
『わしの家内が、いかに日本中の人が反対してもわたしがついておりますから、絶対に負けずにやってくださいといいますから、絶対にひくことはできません。』
これを聞いていた聴衆は、大いに笑い受けたという。
玉木代表は、松永安左エ門の伝記を一冊熟読されることをお勧めしたい。さすれば、送電網の国営化を軽々に発言できないと思うのである。