さむいさむ〜い真冬の北の大地で

読むのにぴったりそうな本を読みました。

 

 

しかし読んでいると

どんどん心と身体が冷え切っていく感じがして

とても悲しくなり・・

あまりのつらさに一気読みするほどの

威力のある物語でした・・。

みなさん読むときはぜひあたたかくしてください。

 

 

物語の中心人物は

30代のわたしの母世代より少し上、

60代後半ぐらいの年代のおじさんです。

 

 

学生運動に熱中した大学時代を経て大手企業に入社し、

「企業戦士」としてバブル期を駆け抜け、

上司の紹介で妻に出会い二人の娘をもうけた彼は

経済的にも家庭的にも不自由のない

満たされた人生を送っているはずだったのですが

 

 

彼の最期はただひとり、

冬の冷たい海に漂っていたところを

発見されます・・。

 

 

この物語では

彼の娘の視点と彼自身の視点が入れ替わりながら

彼の満たされていたはずの人生の

切なく虚しい実情が明かされていきます。

 

 

物語は娘視点で

四国遍路に行ったきりの父が

帰り道のフェリーから転落して亡くなった

という知らせが入ったところから

はじまります。

 

 

訃報を聞いた家族、特に母は

冷ややかな反応で、

葬式の手続きも

娘に任せてしまおうとするほど。

 

 

母は専業主婦で

帰りが遅い父に文句を言わず

娘二人を育て上げてきたのですが

父はひそかに家族を裏切り

不倫していたことが発覚し

夫婦仲は完全に冷え切っていたのです。

 

 

ふたりの娘のうち

長女は完全に母の味方で、

次女は味方とは言わないまでも

父の裏切りに対して

軽蔑の目を向けていました。

 

 

完全に孤立した父でしたが

長女に双子の娘が生まれたことで

母は孫の世話のために家を空けるようになり、

同じタイミングで父方の祖父の介護が必要になり

ふたりは別居状態に。

 

 

お互いに距離を置いたことで

一時は落ち着きを取り戻しましたが

東日本大震災が起こり

父が震災ボランティアに

積極的に参加するようになるころから

ふたたび陰りが見え始めます・・

 

 

父が震災ボランティアに

積極的だったのは

かつての愛人が震災で

命を落としていたからだとわかり、

夫婦仲、家族関係は完全に決裂。

 

 

その後、何を思ったのか

父は四国八十八ヶ所の

お遍路の旅に出ると言い、

そのまま帰らぬ人となったのでした・・。

 

 

母は「人をさんざん裏切った

自分勝手な人」だと父を非難し、

長女も同調しますが

 

 

次女の碧は父がなぜ四国お遍路の

帰り道で海に飛び込んだのか、

父に何があったのかが気になり、

ひとり父の足跡を辿る旅に出るのです。

 

 

物語は次女の碧の四国旅の様子と

父視点での回顧録が入れ替わりながら進み、

父の最期までの人生の軌跡が

明らかになっていきます。

 

 

大企業の企業戦士となり

ものを考える暇なく

働かされ消耗する若手時代、

 

 

細かい気の利く妻に出会い

子どもの愛おしさと

家庭を持つ責任が

のしかかった中堅時代、

 

 

出世コースに外れないよう

懸命に仕事をこなすものの

バブル崩壊後の荒波に翻弄される

管理職時代を駆け抜けた父は

 

 

時代の波に呑まれないように

喰らいつくのに精一杯で、

安らげる時間がほとんどなく、

家族と過ごしていてもときおり

虚しさが込み上げてくるのでした。

 

 

そんな父のひそかな心の支えとなっていたのが

大学時代の元恋人であり、

その後愛人となった女だったのです・・。

 

 

愛人の女は父と同じ大学で

就職せず大学に残って研究の道へ進み

世間の圧力に負けずにおかしいことを

おかしいと声に出すエネルギッシュな人物でした。

 

 

ひょんなきっかけで再会し

ひさびさに話してみると

社会の現実に直面している父には

女の言うことが青臭く感じられましたが

彼女のエネルギーに惹きつけられるものがあり、

気づけば家族を裏切ってしまったのでした・・。

 

 

その後も父は家族を裏切る

罪悪感を抱えながらも

女を捨てきれない懊悩が続き、

バブル崩壊により出世競争が激しさを増し

自分の将来の道が狭まっていく不安感、

カメラやキャンプなどの趣味はあるけれど

仕事以外に生きがいを見出せない空虚感に

襲われながら、切なく淋しい晩年を迎えます。

 

 

そしてなぜ父が

あのような最期を迎えたのか、

次女の四国旅によって新たな事実が

明らかになるのです・・。

 

 

物語前半まで

わたしは完全にお母さんと娘たちの味方で

「なんて自分勝手な人なんだ!!」

と憤慨していましたが

その後緻密に描かれた父の葛藤の半生に触れ、

「なんて虚しく切ない人生なんだ・・」と

悲しい思いが込み上げてやみませんでした。

 

 

社会人になると同時に

自分の思考能力をほとんど奪われ、

でも必死に喰らいつくしかない時代で、

でも安らげる時間がほとんどなくて

ストレスは溜まる一方で、

 

 

そんななかちょっとした気のゆるみで

家族を裏切りそれがバレて

ものすごく屈辱的な立場になって

それでも耐えるしかなくて、

 

 

仕事以外の生きがいが見つからないのに

バブル崩壊の不景気で

仕事はあっさり外されて、

自分は何のために頑張ってきたんだ・・と

悔しさと空虚感が込み上げてきても

耐えるしかなくて、

 

 

その後の震災と

さらなる悲劇に襲われた父の人生の

侘しさに胸が張り裂けそうになりました・・。

 

 

物語の中心人物は父ですが

いち女性として母親として

裏切られた家族の苦しみも痛いほどわかり

さらに辛く悲しくなりました。

 

 

母は専業主婦として必死に

家庭を守り、子育てをしてきたのに

裏切られていて、


 

それでも離婚せず

「許そう」と努力し

立て直そうとしたなかで

ふたたび裏切られたことがわかり

さらに傷をえぐられて・・

 

 

両親どちらの人生も辛く悲しくて

やりきれない思いでいっぱいになりました。

 

 

父の足跡を辿った碧の胸にも

やりきれない思いは残るのですが、

物語の最終部で父が最期に見た

「冬の光」を目の当たりにし、

熱い思いが込み上げてくるのです・・。

 

 

物語のラストで泣きに泣きました。

 

 

父の後悔と無念が際立つラストシーンで

涙が止まりませんでした。

 


自分のために、家族のために

必死で頑張ってきた父は

罪を償うことも

家族と関係修復をすることもできないまま

亡くなってしまい、

なんて悲しい人生なんだと思うと

涙が溢れてきました・・。



わたしは母子家庭で育ったので

父の苦悩に接することなく

大人になったのですが



夫は仕事人間なので

(昔の企業戦士ほどではないにしても)

この小説のような未来が

なきにしもあらず・・と

不安な思いもよぎりました。



この物語を読んでわたしは



人は弱い生き物だということ、

必死に努力しても

報われない人生になるかもしれないということ、

そして大切な人のあやまちに耐え、

「許す」行為が必要になるかもしれないこと



が教訓的に刺さりました。



満たされたはずの人生、

実はからっぽだった・・と

後年になり振り返るのは

なんとも侘しいものです。



海に消えた父の人生に足りなかったのは

家族と向き合う時間です。

それを父自身も強く感じていて

取り戻せない時間への後悔が

胸に強く刺さりました・・。



大切な人に裏切られて

恨むのも、許すのも、

その人が生きているからこそのこと。



これからの人生を

長く一緒にいるであろう

パートナーとの向き合い方に

「許す」ことや「諦める」ことは

ある程度は必要なことかもしれない・・



中年の後悔の重さに触れ

この先の人生に荒波がこないことを

祈りながらも、心の片隅に

置いておこうとそっと決意した

物語でした・・。



決して明るい気持ちになれない作品ですが

読んでいてとても心が動かされます。



あたたかい飲み物とともに

ぜひ読んでみてくださいね!


 

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