前回の記事の「虎丸くん、キスを待つ」
の煽り文句がズルい

とのご指摘を何人かの方から頂きました。


この場で謹んでお詫び申し上げると共に

タイトルを「虎丸くん、キスを待つ?」に変えさせていただいたことをご報告いたします。


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大会日程2日目はアマ戦のみ。そして日本代表として2回戦に抜けているのは俺のみ。

つまり、一人寂しく試合会場へ向かうことになった。(記者さんはいたが)


相手の王深さんは中国アマ四天王と呼ばれる一人。

世界アマ優勝経験もあり、中国阿含桐山杯でもかなりのところまで勝ち進んでいたり、中国丙級リーグに参加していたりとかなりのガチプレイヤーのようである。


今年5月の世界アマでも中国代表として来ており、中国政府から「絶対に優勝して来い!」と発破をかけられたそうだ。

実際には台湾代表に負け優勝争いから脱落し、ものすごく意気消沈した・・・と酒を飲んで若干本音がチラリと聞こえた。


なかなか、政府からなんか言われるってことないよね。
たぶん俺が世界アマ優勝しても、日本政府から表彰されることないと思うもん。

社会的な扱いの差かな~。


内容は、自分が仕掛けた中盤の戦いで形勢を損ね、そのまま押し切られてジエンド。

相手は、優勢になったと思ってから寄り切りが非常にうまい。


記者さんも一足先にホテルに戻っており、一人でホテルに帰ることになるのだが・・・タクシーを捕まえるのにもやり方がわからぬ。

中国ではほとんど電子マネーだと聞くし、どっかに連れていかれても困るので(偏見)、徒歩40分の道のりを歩いて帰ることにした。



普通に裸で歩いてるオジサンがいる

北京は秋田と同じくらいの緯度だが、日中は31~2度になり太陽も出ていたため非常に暑かった。



ホテルに帰ってシャワーを浴びて仕切り直し。
前日の碁の検討のため、ホテルの一室に集まっているとのことで向かう。


部屋へ行ってみると、思ったよりたくさんの人がいて10名程度。

中央に鎮座するは、大竹英雄先生、聶衛平(じょう・えいへい)先生。大御所だ。


どういう風な検討なのかな、と見ていると、若手(虎丸くん、許くん)の碁を聶先生がノリノリで切っていくスタイル。

井山さんは「プシシシシ」と笑いながら見ている一方で、許くんは「いや、ここは黒地が大きいと思います」など頑張って抵抗していたので、あぁ若いっていいねぇ、と思いながらぼんやり見ていた。


この日は俺を除いて休養日という扱いだったので、元老組+山下先生、井山さんは中国のお偉方と会食に向かう一方で、アマ組+虎丸くん、許くんとホテルの夕食ビュッフェでだべる。

井場ちゃんが若者を相手に熱弁をふるうのを生暖かい目で見ながら、俺はプリンを食べるのであった。



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新しいタイプの囲碁教室「上達の約束 」で毎週コラムを書いているので、こちらもぜひご覧くださいませ。

8月26日(日)には「第5回上達の診療所 」もあります。

宝酒造杯東京大会直前企画ということで

【「あと1勝」をものにするヨセの秘策】と題して私が講義しますので、碁敵に差をつけたいあなたはぜひお越しください!

百霊杯の朝は遅い。

試合は12時半開始だが昼食は会場では用意されておらず各自手配となる。

みな、ホテルの朝食ビュッフェを遅めに取って昼をしのぐ作戦に出たのだ。


9時半頃、ビュッフェ会場につくもすでに人影はまばら。

許家元くんがいたので同席した。


「ゆで卵剥くのって集中しちゃいますね(パリパリ)」

「あっ、今の顔すごくいい。男の顔って感じがする!」

「えっ、そうですか」

「うん、対局中の表情よりもいいかも。」




(遠くに韓国代表シンジンソおる)


ホテルのロビーに11時半頃集合、試合会場へ向かう。

なお、一番最後にやってきたのは虎丸君。そういうタイプか。


バスの中、独身組の雑談で好きな人がどーのこーの、という話になると、それまでだまーって音楽を聴いていた井山くんが唐突に割り込み「そんなん無理やりにでも行くしかないやんか」と、謎の強硬論を展開し始める。

あなたもこういうの好きね。


試合会場は中国棋院。

選手権戦とアマ戦は大広間のようなところで計32名が対局し、一方元老戦は小さめの部屋で8名が対局することになっていた。

やはり、ベテランの方々には静かな環境を用意したということだろう。


雑談している棋士たちもいれば(主に中国)、だまって目を閉じて集中している棋士もあり(主に虎丸君)、対局開始までの過ごし方は人それぞれ。

このあたりは、プロもアマも別に変わりはないね。



北米代表選手との対局は、序盤に相手が打ってきたダイレクト三々からの難解な折衝でちょっと形勢を損ねたようで苦しい立ち上がり。

相手の着手は早かったので、研究済みだったのだろう。

しかし、中盤以降の戦いで地力の差があったように感じ、どうにか勝ち。


アマ戦、元老戦は持ち時間1時間。

俺の対局終了は3時前といったところだったが、比較的早い方でまだ周囲は対局中。

ふと記録係の姿が目に入る・・・イヤホンをして食い入るようにスマホを見ている姿。

何をしているのかと覗き込んでみると、アニメ(黒子のバスケ)を見ていた。

そういえば、俺の対局の記録係の子も机に顎を乗せてたな・・・。

まあ、これも文化の違いってことだろう。

選手権戦は持ち時間2時間なので、まだまだ序盤から中盤にかけて・・・というところも多かった。


元老戦の方を見に行くと、すでにいくつか終局している。

依田先生が勝ったのみで1-3、苦しい立ち上がり。

元老戦は依田先生の双肩に託された格好となった。

アマ戦も次々と終局の報が入り、残念ながら井場ちゃん、豊田くんも敗退。


人がまばらになった元老戦の試合会場で井場ちゃんの碁を検討。

「ここ、ワリコんだらどう?」

「おほっ、そんなうまい手があるんですか」

「(べりべりべりべり・・・)」

『んっ?』




うわー、なんか壁が倒れてきたー


「ふかしさん大丈夫すか!」

「意外と軽いコレ!井場ちゃん、はやく写真とって!」

「余裕すね(パシャー)」


午後4時半を回る頃、徐々に選手権戦の試合が終わってくる。

山下先生、許くんの敗報が伝わってきた一方で、井山さん、虎丸君の碁は微細な形勢とのこと。


虎丸君の様子を見に行く。

虎丸君は相変わらずとぼけた表情をしていたが、相手の様子がおかしい。

ハフーハフーといった息遣いをしているし、なにやらしぐさがバタバタしている。

盤面はもう小ヨセ、目算してみるとかなり細かい。

ということは・・・半目か?

数分後、虎丸君半目勝ちが確認された。



対局後、中国の女の子に囲まれる虎丸君


井山さんの碁はもっとも長引いたが、小ヨセの時点で計算すると1目半ほど良さそう。

もう波乱はなさそう・・・ということで安心して見ていると、すぐに中押し勝ちとの連絡が入った。

検討もそこそこで、日本勢の検討に井山さんも合流。




さすがにみな疲れた顔をしている。


6時頃ホテルへ戻り、スーツを脱ぐなどして仕切り直した後、近くの火鍋屋へ。

通訳の人いわく「観光客用というような高級店ではなく、完全に庶民の店アルヨ」とのことだったが、そういうのが逆にいいよね、ということで元老組を除く若手のみんなで街へ。


・・・お店に入って早々、上半身裸のおっさんがお客さんとしている。ナンダコレワ。

しかし、食事を始めて早々に気が付いた。

やたらと暑いのである。

牛肉、羊肉、焼き鳥、ひたすら食べまくって汗が止まらない。




「あっ、3人が扇子であおぎまくってるのいい絵ですね!」

「そう?こんな感じ?」

「あのね許くん、山下先生の動きを見習って。手首の返しすごいでしょ。これよこれ。」

「こうですか?」


許くん、君の扇子サバキは止まって見えるよ。まだまだだね。




まゆ毛だけでは汗を止められないので、ティッシュの力を借りる俺。

虎丸君はあれかえ、こっそり変顔するタイプかえ?(たぶん偶然)


そんなわけで、対局は悲喜こもごもあったが、意外と楽しく夜は更けていった。


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8月26日(日)には「第5回上達の診療所イベント 」もあります。ご興味のある方はどうぞご参加ください。


忘れないうちに、百霊杯のことを赤裸々に書き留めておこうと思います。


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6月下旬、俺に電話が入った。日本棋院からだ。


「急な話ですが、7月下旬に中国で行われる国際大会に出ませんか?賞金もあります。」

「(5万や10万くらいのお小遣い程度かな?)もろもろ仕事も調整しないといけないので、検討のためにとりあえず詳細をください。」


2時間後


「なになに・・・世界から16名選抜、優勝賞金は・・・20万元!?(約340万円)」


トゥルルルル、トゥルルルル


「もしもし。出ます、絶対出ます。」


この時、俺の脳裏に浮かんでいたのは、自宅トイレに鎮座する温水便座であった。

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7月23日月曜日、午前4時。


今日は8時50分の飛行機で北京へ向かう。

さすがに今日ばかりは「0回戦敗退」は人として問題があろう。

脳が少し緊張していたのだろうか、4時間半睡眠だが目覚めは悪くない。

5時の始発に余裕をもって乗り込み、羽田へ。

 

6時半、羽田に到着。

まもなくロビーで井場ちゃん(井場悠史・・・都代表常連)に遭遇。
ただ、俺は事前にオンラインチェックインを済ませていたので、列に並ばずさっさとチケットをゲットし、颯爽と進む。


諸々の検査を終え、免税店エリアに着いたのは7時前。
8時50分の飛行機までにはあまりにも早すぎた。


起きてから3時間経っているので、小腹がすいてきた。
空港価格に辟易しつつも、フードコートで熟考する。
こってりしたものが食べたくなり、つけ麺を注文。
日本のラーメンは中華料理ではないからね・・・とひとりごちる。



時間をつぶしていると、やがて続々と見知った顔が集まってきた。
羽田から向かう棋士は、元老戦出場メンバーである大竹英雄先生、武宮正樹先生、小林光一先生、依田紀基先生と、選手権戦に出場する山下敬吾先生、許家元くん、芝野虎丸くんの計7名。

それにアマ戦に参加する井場ちゃん、豊田くん(豊田裕仁・・・学生王座)に俺。

他、同行スタッフも入れると12名程の所帯だ。


みな、わりとバラバラと好き勝手に飛行機に乗り込んでいく。

ああ、みんな個人事業主なんだなぁ。


飛行機内では暇を持て余すことを見越して、スマホに入れてきたからくりサーカスを熟読する。

今度アニメ化もされるしね、勉強に余念なくね。

ほんとに、からくりサーカスは良いよ。


フライト3時間なので機内食が出ないと思いこんでいたのだが、ちゃんと出てきた。

つけ麺をわりとがっつり食べていたのだけど、せっかくなので完食する。

アテンダントが「フィッシュ オア オオムラァイスゥ?」と言ったような気がしたのだが、オムライスなんて出てくんのか?なんだなんだ俺のヒアリング能力を試してるのか?とパニックになった。

その結果「I'm fish(私は魚です)」と応酬。


毎回、飛行機に乗るときは死を覚悟しているが、なんとか無事に北京空港へ到着。

最近導入されたらしい、指紋をチェックする機械がどどんと鎮座しており、初めてみた一行は「どーすればいいんだ?」と若干慌てる(特に依田先生)。


なんとか難関をクリアした我々を出迎えたのは、日本のエース井山裕太さん。

関空から個別に来て、ここで合流。


ホテルに向かう道すがら、近くに座った虎丸君と雑談。

「君のお兄さんが高知に行った時の写真がTwitterに載ってたけど、ことごとく真顔なんだよね。なぜだろう。」

「うーん、よくわかりません。」

「笑顔っていうのはこうやるんだ!っていう感じで1枚もらえませんか?」

「ええ・・・やってます・・・」




この時俺は「あっ、わりと押せばやってくれるんだな」と思いましたとさ。



2時過ぎにホテルへ到着。

次は前夜祭までフリーで、小腹がすいている人たちは軽く麺を啜りに外へ。

俺はもうダメですダメです状態だったので、安静にする。


いったん仕切り直し、ということでシャワーを浴びる。


・・・・・!?!?

なんだこれは、お湯が出てこない・・・?

いや、違う。

水圧と水温調節が一緒なんだ!!


高級ホテルと思しき今回のホテルでも、こんなことが起きるのか・・・これが中国の洗礼か・・・

と滝に打たれるほどの水圧を頭上に浴びながら、雑念を振り払えずにいた。


なお、後日武宮先生と話をしていたら「トイレが流れなくてまいっちゃったよ~はっはっは」と言っていたので、これはもう当然のことなのね、と。



前夜祭、会場に向かうとすでに多くの人が待機していた。

日本選手のテーブルで井山さんの隣が空いていたので、せっかくだから座る。

この瞬間、自らに課したミッションは「毛穴を写真に収める」に設定した。


「井山さん、1枚!」

「あっ、いいですよ」

「毛穴の1つ1つが見えるくらいの感じで至近で撮りたいんですが」

「えっ・・・いいですよ」

「(ええんか)」




けっこうほくろあるよね。



抽選の結果、俺は北米代表と。

アジア圏以外でも総じてトップ層は強いとはいえ、やはり中国・韓国を避けることができたのはくじ運がいい。

井場ちゃん、豊田くんはそれぞれ中韓の世界アマ経験者とあたったのをみて「(俺がカタキを取るからな)」とつぶやいた。

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新しいタイプの囲碁教室「上達の約束 」で毎週コラムを書いているので、こちらもぜひご覧くださいませ。

いつでも生徒さん募集中ですぞぉ。