2016年3月に文學会に発表された、滝口悠生の短編作品「夜曲」を紹介します。本作品は芥川賞受賞作品である「死んでいない者」の文庫版に掲載されています。20頁前後の短編ですが、どこか「死んでいない者」のスピンアウト作品のような空気を感じさせる作品です。

作家の特徴ともいえる手法である一人称を不在として半俯瞰的な距離から、スナックの小空間で織りなす日常を丁寧に描いた作品に仕上がっています。また、人物の会話に鍵括弧を使わない手法も特徴的で、実際に発した言葉と発していない言葉の境界を曖昧にすることで、より人間味のある会話表現を可能にしています。
これは、客の一人の早川のによる「ママの手製のしめさばは、絶品なんだ」という心の声が、実際に発せられていないにも関わらず、後々で「俺のしめさばは?」と注文したつもりになっている場面でも上手く作用しています。酒に酔っている客の浮遊感が巧みに表現されたシーンです。

何の変哲もないスナックの一コマの作品ですが、「こんないろいろも、あとになれば、薄く薄くこの店の歴史の層に重なって、見えなくなる」というスケールの大きい教訓のような表現で描写できる文章が本当に素晴らしいです。

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