この一年で私の人生は大きく変わりました。
二人で歩いていたこの海岸。
おまけに耳も悪くなっちゃって、ようちゃんの声も聴こえないのです。
アイヌ刺繍はいまだにできません。
どうやら私のアイヌ刺繍にはようちゃんの貧乏揺すりが不可欠のようです。
私はこの子と一緒に生きてゆく。
私の命が続く限り、この子と離れることはない。
それ以外の道は考えたことはありませんでしたので、一年前、ようちゃんの死と同時に私は生きる道標を失ってしまいました。
心は何一つ変わらないまま、新しい時間が容赦なく降り積もります。
人が死ぬと、思い出は古いものばかりで新しい思い出が生まれません。
くだらないことで喧嘩をしたり大笑いすることがない。
それでもこの一年、私は多くの古い思い出に生かされてきました。
よ∶母さん、ようちゃんが先に
死んだら 母さん、どうする?
イタズラっぽい目でようちゃんはニヘラッと笑います。
私がありもしないことでわぁわぁ泣くのを面白がっているのです。
ま∶母さんもようちゃんと一緒に
天国に行く。
天国でようちゃんと一緒に
あっちこっちお出かけする。
するとようちゃんはちょっと考え込んで言いました。
よ∶それ、ダメだから。
まだ生きられる人が自分で
死んでも天国に行けないから。
ようちゃんを追いかけてきても
途中からバラバラだよ。
ま∶そっかぁ。
だったら毎日泣いて暮らすか。
それから、こんなことも言っていました。
ま∶先に死ぬのは母さんだからね。
順番だからね。
アンタとニイチャンはよぼよぼの
おじいさんになってから
天国においで。
母さん、天国で応援してるから。
あ、でも母さん…
そこそこ人の道に外れて
生きてきたから天国に
行けないかも…。
よ∶天国ってさぁ、
そんなに特別なところじゃないと
思うよ。
特別優秀じゃなくても
特別人柄が良くなくても
行けるんじゃないかなぁ。
毎日ご飯を食べて(点滴でもOK)、
最後まで諦めずに生きていれば
行けるんじゃないかなぁ。
生まれてからずっと病気と闘ってきたようちゃん。
そして発達障害も持っていましたから、ようちゃんは苦労しまくりの人生を送りました。
ようちゃんの遺言はそんな人生から生まれてきた言葉かと思います。
ようちゃんらしい。
年齢のわりに幼い顔をしてますが哲学者です。
でもやっぱり甘えっ子です。
もしかしたら
今とても苦しんでいる人へ
あなたの苦しみはきっと私の想像をはるかに超えた壮絶なものでしょう。
人一倍の才能があり、人一倍の努力をして、驚くような実績を数多く積み上げて、私たちはどれだけあなたに励まされてきたか。
それでも予想外の魔物がやってくる。
理不尽だと思います。
日本人はいつからこんなに他者批判が好きな民族になってしまったのでしょう。
他者を批判することによって自分があたかも価値ある人間であるかのように錯覚する心理が流れているのです。
あなたに対する妬みもあるのでしょう。
他人を蹴落とさずに自分が努力すりゃいいのに。
しかし安心してください。
あなたを批判をする人の数は知れています。
声高に語れば数が多いように感じられますが、世界中の99.99%の人々は皆あなたを応援し、あなたの心を心配しています。
今は最高につらいでしょうが、生きていればそのうち和らぐはずです。
がんばれ。