翌日も風が強かった。欅は波うつように揺れている。鬼子母神の脇道を下り、彼は妙見堂の前で折れた。路地を曲がると、生け垣沿いに小柄な背中が見える。
「おい、それで隠れてるつもりか? こんな人気のないとこにそんな格好の馬鹿がいたら警察だってバレちまうぞ」
「うるさい。黙れ」
若造は目を細めた。蓮實淳は襟ぐりと袖が焦茶色で他は鮮やかな黄色のトレーナーといった格好をしてる。胸のところには猿が石でなにか叩いてる絵もプリントされていた。
「そんな格好の奴に言われたくない。っていうか、職務中に話しかけるな」
「どうしたんだ?」
顔を出そうとしたところを引っ張り戻し、若造は囁いた。
「だから、やめろって。田沼が来てんだよ。またなにかするつもりなんだ」
「なにかってのは?」
「わからないよ。でも、嫌がらせしようとしてんだろ。日中に動くのは初めてなんだ。様子を見なきゃならない」
「ふうん。でも、捕まえる気はないんだろ?」
「まあな。それは別の者が動いてる。ここの――」
そう言いながら若造は顎を突き出した。
「父親もそのうち逮捕されるはずだ」
「じゃ、俺が見てきてやるよ」
「は?」
「こんな格好のオマワリはいないだろ? いたら笑えるもんな。ってことで、ちょっと行ってくる」
引き戻そうとしても無駄だった。彼はすたすた歩き、すこし離れてから振り返った。作業着の男がドアの近くでしゃがんでる。――ふむ。あれが田沼渉か。いかにもだな。まさにコソ泥だ。ん? ああ、そういうことか。あいつ、鍵の在処を知ってるんだ。それで中に入ってんだな。
「おい、大変なことが起きてるぞ」
血相を変えてそう言うと、若造は走り出そうとした。
「いや、待て。この件は別で動いてる。俺たちは見張ることしかできない。そうだろ?」
「警察ごっこのつもりか? ほら、言えよ。なにがあった?」
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