しかし、迎えにきていたのを見つけたときはわからないように舌打ちした。彼女より隣に立ってる人物が問題だった。腹のでっぷり突き出た初老の男――どう見ても父親だろう――が面白くもないといった表情を浮かべていたのだ。
「あっ、あの、ほ、ほ、本日は、よ、ようこそ、い、い、いらっしゃいました」
いや、まだ駅前だけど。そう思いながら僕は頭を下げた。彼女はノースリーブのワンピースにヒール靴を履き、メイクもしっかり施してる。長い髪をきれいに編み込んでいて美容室に行ったのがすぐわかった。
「それで、こちらは?」
「え? あっ、すっ、すっ、すみません。わ、忘れてました」
「忘れてた? ひどいよ、カミラちゃん。それはひどい」
「ご、ごめんね、パ、パパ。――あっ、あの、ち、父です。で、こ、こちらは、さ、佐々木さん」
僕はふたたび頭を下げた。どうして父親を紹介されてるのかも謎だけど、これだってしょうがない。
「初めまして。カミラさんと同じ会社の佐々木と申します。本日はお世話になります。それに、申し訳ございません。お父さんにまで出てきていただけるなんて」
「お父さん?」
父親は顔はしかめてる。――いや、そういうつもりじゃないんだよ。だって、他に呼びようがないじゃないか。
「ほ、ほら、パパ、く、車を、だ、出して。そ、そのために、き、来てもらったんだから」
車に乗りこんでも父親は面白くないといった顔をしてる。僕は無視することにした。
「ああ、そうだ。これ、つまらないものだけど、お世話になるから」
「そっ、そんな、き、気をつかう、こ、ことなんて、な、ないんですよ。――ほ、ほら、パ、パパ、さ、佐々木さんから、こ、これ、い、いただいたの」
「ああ、」
娘に向けた視線はでれっとしてる。目尻をこれ以上は落ちないラインまで下げていて、口もゆるみきっていた。
「気をつかわせて済まなかったね」
ただ、こっちを見ると眉をひそめた。――そういうのはもういいから。僕はあんたの奥さんに相談しに行くとこなの。いわば、お客ってことだ。金だって持ってきてる。それも十万も。
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