【Book/Audible】他者の眼を通すことで未知の世界を知る 物語が教えてくれるたくさんのこと 「同志少女よ、敵を撃て」逢坂冬馬 

2022年も残り1か月。

職業柄、普段から感覚のアンテナは張るようにしている。それは例えば「子供がいる人ママ向け」「50代以上のビジネスパーソン」「アウトドアデビューして楽しみたい人」など、様々なペルソナが設定されている媒体で書く際に、その人たちがどんな感覚を持っているのかについて、なるべく近い感覚を持っているべきだと思っていることが大きい。それを踏まえて書くときには、1000円のものを買うことはリーズナブルなのか、自転車に乗ることは日常なのか、そのターゲットにとってのいま拒否感を持たれることは何なのか、自分のなかにおろしたそのペルソナの感覚に頼っている。

それでいうと、物語、いわゆるフィクションの世界は、ハマれば実は映像よりも深くリンクできるのではないかと思っている。ただ、「ハマる」ためにはなんというか習慣というか経験値が必要で、しばらく本の世界から離れているとその入り込み力のようなものが弱まっているのを感じる。

この作品までにも小説は読んでいたものの、2022年の前半は主にノンフィクションやビジネス書、専門書ばかりでなかなか進まなかった。でも、この本では、一気に没入。そして、読み終わった瞬間から、再び私は溺れるようにフィクションの世界にハマっている。

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作品の舞台は、第二次世界大戦下のロシア。田舎の村で母と暮らしていた少女が狙撃兵となり、戦場で女性狙撃兵の部隊で激戦地に乗り込み、多数の敵や仲間の死に遭遇しながら「敵」を撃つ。

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ヨーロッパにおける第二次世界大戦関連の作品だと、小説だと「アンネの日記」「夜と霧」、映画では「イミテーション・ゲーム」「大脱走」「ライフ・イズ・ビューティフル」などが思い出されてますが、ロシア人が主人公の作品は実は初めて。筆者は日本人男性。日本人にとって違和感を感じる習慣、例えば女性同士でもマウス・トゥ・マウスのキスをするなど、解説を挟み込みながらも、読者を戦場にいる感覚を持たせてくれる。これが余計な感じがないのが、またすごい。

もし物語を読む経験から時間が空いている人は、この年末年始にでも一読することをおすすめしたい1冊。

 

<あらすじ>

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵”とは?

 

 

 



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