それぞれの作品は、どれも何かしら犯罪に係る物語なんですが、主人公が犯罪に手を染めているとか巻き込まれたりしているとは限らず、犯罪が起きた周辺で生きる人たちの日常や心情が描かれています。
そして物語の中では何か起こる訳でもないけど、何かが起こっていて、そこにあるのは、暴力が日常的にあったり、貧困層で生きる人々の、諦念感だったり、達観だったり、閉塞感だったりするのですが、それだけでなく物語によっては、したたかな強さ、そして希望みたいなものも薄っすらと透けて見えたりも。
それぞれの主人公だけでなく、そこに登場した人物たちのその後のことを思わず想像したりして、決して派手な展開を見せるわけでも無いながら、しばらくその切り取られたリアルな世界にもっていかれました。
個人的には「ベイビー・キラー」「万馬券クラブ」「本能的溺水反応」「聖書外典」あたりがお気に入りですが、読む人によって印象に残る作品も違っていそうなのも面白いですね。
ところで本書は先日「第14回翻訳ミステリー大賞」を受賞した納得の作品集。
しかし、その「翻訳ミステリー大賞」は、来年の第15回をもって終了するとのアナウンスが。
「翻訳ミステリー大賞」は、大賞受賞作だけでなく、候補に挙がって初めて知る作品もあったりと、読書の視野を広げてくれていましたので残念ですが、事務局の方々にはこれまでお疲れ様、そしてお礼を言いたいですね。
なお、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」事態は名称を変更し続くそうなので、その点は安心。
名前は変わっても今後も楽しませてもらいたいと思います。